舞台『鋼の錬金術師』―それぞれの戦場(いくさば)― が、2024年6月8日(土)から6月16日(日)まで、東京・日本青年館ホール、6月29日(土)から6月30日(日)まで、大阪・SkyシアターMBSで上演されます。脚本・演出の石丸さち子さんと、主演のエドワード・エルリックを第一弾に続いてダブルキャストで演じる一色洋平さんと廣野凌大さんの鼎談インタビュー、後編です。「下」の無料部分では、第一弾から第二弾の間に「エド」とどう向き合ったかなどについて伺った内容と、石丸さんが脚本執筆や演出の際にどのようなアプローチをされているのかについて、石丸さんに伺ったお話を紹介します。
――廣野さんは、第二弾決定からここまでの約1年間、「エド」という役とどう向き合われていたのでしょうか?
廣野:この1年はもちろん違う役も演っているわけですから、そこでエドを出すのはエドにも申し訳ないし、その作品にも違うことだから、僕は第二弾を楽しみに封印していた、という感じでしたね。台本をもらってから、久しぶりにエドとして読んだときに「また戻ってきた」という感じかな。エドが戻ってきてくれて、さらにそこに自分のこの1年間の経験を加えた「見たことのないエド」になったなと。多分、1年前のエドの芝居と今演ってるエドの芝居が全然違うから。
石丸:違うね。
廣野:原作でエドもだんだん大人っぽく成長していくと思うんです。そこの成長具合と、役者人生の中での僕の成長具合がうまくリンクしている感覚が、いま自分の中にあるので。だから「お久しぶり!またよろしくお願いします」って感じです。
――一色さんは、どうですか?
一色:僕は本当に冗談じゃなく、毎朝鏡を見ると「エドをまたやるんだからね。頼んだぞ」って、話しかけるわけじゃないですけど、自分に。
廣野:自問自答?
一色:うん。この1年間ずーっとやってましたね。第一弾の制作発表からずっと、毎朝鏡を見ると絶対。凌ちゃんと「このシーン早くやりたいね。でもすごい怖いね」と言っていた原作の場面が2つぐらいあって、それがちょうど今回出てくるんです。エドにとってとても大事な気づきと決意を同時にするシーンなんですけど「ついにこのシーンが来る」って1年間ずっと緊張してました。でも、それはシリーズ物ならではですよね。僕はシリーズ物を背負わせてもらうのは初めてなんですけど、独特だなと思いました。
でも面白かったのは、製本された台本が届いたときに、ちょっとやっぱりグッときちゃったんですよ。さち子さんが去年の夏からずっと構成・演出を考えていたのを陰ながら知っていたので、もうこの1冊がズシッと重くて。さっきの凌ちゃんの言葉と重なるんですけど、台本を開いたときに、エドの言葉がこれまでと違って聞こえてきた瞬間があって。第一弾のときと違う感覚で読んでいる自分がいる、みたいな。うまく言語化できないんですけど。だから稽古場に行って、みんなと会って顔を合わせて読むときに、どんな自分の声が出るかというのは、楽しみで楽しみでしょうがなかったですね。
――この一年間で一色さんの中で積んできた経験が影響したのでしょうか?
一色:第一弾のときは、とんでもない緊張とプレッシャーがやっぱりとても大きかったんですね。もちろん今もそれはありますけど、第二弾は結構「早くやりたい」みたいな気持ちがあるんです。またエドとして言葉を発したい、みんなと目線を交わしたいという思いがあったからですかね、台本を開いたときに、緊張や重圧みたいなものよりも、エドとして聞こえてくる声が、なにか第一弾のときとはちょっと違った感じで浮かび上がってきて。第一弾のときよりも、少し近いところからエドの声が聞こえてくるみたいな…。
――一色さんとエドの距離感がより近くなってきたという感じでしょうか?
一色:正直、やっぱりあのアニメ版のエドの声優でいらっしゃる朴路美さんのお声というのは本当に偉大で…第一弾のときは、台本を読んでも朴さんのお声で脳内再生される瞬間なんていうのも多々あったんですよ。でも、第一弾を生きたからですかね、第二弾の台本を開いた瞬間に、エドの声が自分の声で聞こえてきて。それは嬉しい瞬間でしたね。
――石丸さんも、いろんな作品に携わりながらこの1年間を過ごされましたが、どんな想いだったのでしょうか?
石丸:私はこの作品が本当に大好きなんです。荒川先生にも直接お会いして、心底、荒川弘さんというクリエイターに敬意を持っているので「さあ、これをどうしたらいいものか」と。舞台化するにあたって、エドとアルの心の旅ということを基本軸に据えて、上演時間でいうといろんなものをいろいろ削っていかなきゃいけない。作品を1回「理解・分解・再構築」までやって「いや、駄目だ」となって、もう1回分解し直して、それで再構築してと、もう本当に1年がかりでまとめてきました。何だったらもう、第一弾の本番中からずっと「第二弾をどうするか」と考えていたので、1年間ずっと「ハガレン」と向き合っていたような気持ちでしたね。全然違う作品をやっているときにも、これだけのものを作った「荒川弘さんというクリエイターへの敬意」がずっと生き続けていて、それを私のこれまでの演劇的な体力と知性でどう埋めるのかということは、いつもいつも心にあり続けました。
第一弾のオーディションのときから、演出をどうするか見えているシーンもあれば、全く読めないシーンもありましたが、早くからこういうふうにやりたいと思っていたのが、第二弾のプロローグです。一番時間がかかって、手直しも多かったんですが、でもすごく見えているところと見えていないところと、いろんなものがずっと胸にあり続けて。
このあいだキャスト陣にも言ったんですけれど、「この台本でいいのか?」とずっと怖かったんです。でも、実際にキャストが演じることで、やっと「これで良かったんだ! この作品は面白い」と思えました。錬成した台本を素敵にしてくれるのは、やっぱり俳優です。演出しても、それに応えてくれなければ何も形になりませんから。そこに生きた人間がいるからキャラクターが生きて、そして今を生きている俳優が、自分の現在と合わせて、キャラクターを錬成して。そこで初めて台本が生きるんです。「ありがたいな。嬉しいな。演劇って、これが喜びだな」と思いました。これがやっぱり絵画とか小説とか、個人の芸術とはまた違うところで、やっぱり人間で表現する芸術は大変です。でも人間がやってくれるからこそ、自分1人では行けない遠い世界に行けるというのが、やっぱり演劇の面白いところで。台本が演劇になる瞬間を待ちくたびれて過ごしてきたので、今が楽しいです。
一色:そんなことを言っていただけるなんて、嬉しいですね。
――「鋼の錬金術師」という長いお話を舞台化するにあたり、何をテーマとして、どこからどこまでを取り上げるかはどのように決まったのでしょうか?
石丸:原作に書いてあることを全部分解して、いろいろ考えていくうちに大きな筋道が見えてきました。今回は「誰かが誰かの後ろ姿を追っている。愛を持って、憎しみを持って、それぞれの心情で、失ったものを取り返すために」という感じで、みんなそれぞれが誰かの後ろ姿を見ているんです。それで、そこに手が届かなかったり、手が届いたと思ったら、欲しいものはまだその先にあったりする。そのひとつの大きなイメージが出たときに、まずプロローグが出来上がりました。第一弾のテーマは「生と死」だったんですが、今回は「後ろ姿」。それを書いていくうちに「誰かの後ろ姿を追うっていうことは、戦うことなんだ」という思いが出てきて、それでサブタイトルの「それぞれの戦場(いくさば)」というのが浮かびました。だから、やっぱり理解・分解・再構築ですね。
今回は戦場を描くので、表現することに責任を持たなければいけないシーンがたくさんあります。ですが、今この世界で起こっている非常に現実的な戦いと、自分の体と再び出会いたいと願っている「ハガレン」の登場人物たちの戦いが、一緒に並べて語られるというのが、今回の第二弾の面白いところでもあると思っているんです。だからこそ、責任を持って、これからの稽古でもっと作品の精度を上げていきたいと思っています。
――作品をご覧になるお客さまへのメッセージをお一人ずつお願いいたします。
廣野:前回の取材の時に多分僕は「自信作です! 面白くなかったらお金を返します」と言ったんですけど、今回は「超自信作! もう早く観に来て!」と。
石丸・一色:(笑)。
廣野:いろんな人に観てほしい。原作ファンの方だったら原作ファンだからこそ観てほしいし、演劇が好きな方だったら演劇好きだからこそ観てほしい。もう誰に観ていただいても、人生を生きる上で大事なものをつかむきっかけになる作品だと、僕らもすごく手応えを感じています。だからこそ自信を持って「面白いです」と言えます。
一色:舞台『ハガレン』として、舞台ならではの趣向を取り入れて再錬成された脚本です。原作をただなぞるだけではなく、驚きの変更も出ていて、脚本を読んだときに、僕は「舞台オリジナルのこのポイントが好きです!」と、思わずさち子さんにお伝えしちゃったぐらい。でも、もちろん原作リスペクトの上で成り立っている舞台『ハガレン』なので、原作ファンの方にも観てほしいです。何より今、僕と凌ちゃんの励みになっているのはさち子さんですね。昨年の夏からずっと戦ってきたさち子さんが、日々すごくいい顔をしてくださっているのが、やっぱりめちゃくちゃ嬉しくって。
廣野:そうなんです!
一色:稽古からの帰り道で、凌ちゃんと「いい顔してたねー! 凌ちゃんのとき」、「いや、洋平さんのときもいい顔してましたよ」って。
廣野:1年前はどうしても、お客さまの反応を見ていない段階で「ハガレン」という、この大きな作品に挑むプレッシャーが…。さち子さんもおっしゃってましたけど、いろんな思いを抱えた人たちの作品じゃないですか。…あ、俺が喋っちゃった。
一色:全然いいよ(笑)。
廣野:今、お互いが納得して作品を作れているというのと、お互いそれを感じ合えているというのが、すごく楽しくていつも帰りに喋ってます。
一色:本当に「劇団ハガレン」ですよね。今回から入ったメンバーの方々も、もう一気に馴染んで一緒に「ハガレン」の世界を作り上げているので、ぜひぜひ劇場に、とんでもないものを経験しに来てほしいです。自信はすごくあります。
石丸:廣野くんや一色くんが言ってくれましたけれども、第一弾をご覧いただいた方も、今回初めての方も、あらゆる方に届く作品になっています。すごく大切なものを、すごく丁寧に作って、みんなでぬくもりを持って、1人1人に手渡せるように。必ず何かが響くと思います。とにかく舞台上の人たちが生き生きしていて、かつライブ演奏なんですよ。芝居と音楽がともに生きていくので、こんなに生き生きした演劇、そうそうないぞという自信を持っています。お1人でも劇場に足を運ぶ方が増えれば嬉しいです。そのお1人が我々演劇人の未来を、また豊かにしてくださると思っています。
※アイデアニュース有料会員限定部分では、石丸さんが脚本執筆や演出の際にどのようなアプローチをされているのかについて伺ったお話を紹介します。
<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)
■石丸:通し稽古で「生きて」みて初めてわかることもあるから、なるべく早く通し稽古を
■石丸:演出家は役の数だけ読み解いて初めて稽古場に行ける。この座内だと33人分考えて
■石丸:演出する時、俳優たちの芝居を見ている時は、役と俳優の二人分の息を感じます
■石丸:俳優が読み込んできたそれぞれの役を、大きな世界観で俯瞰するのが演出家の役割
<舞台『鋼の錬金術師』―それぞれの戦場(いくさば)― >
【東京公演】日本青年館ホール 2024年6月8日(土)~6月16日(日)
【大阪公演】SkyシアターMBS 2024年6月29日(土)~6月30日(日)
公式サイト
https://stage-hagaren.jp/
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蟻の目鳥の目の話、私が職場で理不尽な事を言われて怒ってる時の感覚と近いのかもしれません。蟻の目で見てたのを鳥の目からの視点に変えて、相手が言ってる事がおかしいとズバっと指摘してしまうので(笑)
それはさておき、上下共前作から今作までの間のお三方の興味深い話が聞けて良かったです。舞台もこちらのインタビューも次作まで続いてほしいものです!