2023年3月8日(水)に大阪・新歌舞伎座で開幕し、3月12日(日)に大阪公演の千穐楽を迎える舞台『鋼の錬金術師』が、3月17日(金)から3月26日(日)まで東京・日本青年館ホールで上演されます。エドワード・エルリックを演じる一色洋平さん、廣野凌大さん、演出家の石丸さち子さんのインタビュー後編です。稽古場で撮影した写真と共にお届けします。
「下」の無料部分では、一色さんのエドワードについて石丸さんに伺った内容とお客さまへのメッセージを、有料部分では、「2.5次元舞台と、ストレートプレイのボーダーの有無」について石丸さんがお話ししてくださった内容と、お三方に「2023年の展望」について伺った内容を紹介します。
ーー稽古場でいい化学反応が起きているんですね。
廣野:尖っているだけじゃかっこ悪いので、柔軟にいきたいです。ありたがいことに、いろいろと気づかせていただいています。今は石丸さんに100%の信頼を置いて「ついて行きます!」って感じでエドを作っています。
一色:りょうちゃんの話とも繋がりますが、エドと自分のリンクする部分ってなんだろうなと思った時に、僕は「自分のためよりも人のため」の方が力が出るところですね。自分のために頑張るとなると、あまり力が出ませんが、誰かのためだったら無茶もできちゃうんです。これは、オーディションを受けた時からの感覚ですね。
ハガレンは、弟の体を取り戻すための、かつエド自身の右腕と左足を取り戻すための旅を描いた物語でもあるのですが、僕の中では、「弟の体を取り戻すため」という比重の方が大きくて、7対3くらいなんです。シーンによっては10対0になってしまうくらいに。弟のためなら頑張れるというか、自身の腕と足のことは二の次になっているところがあります。そのあたりは、惜しみなく出せたらいいなと思っているんです。
ーー石丸さんは、お二人の今の話に付け加えたいことなどはありますか?
石丸:洋平くんはね、「演劇空間そのものも、演劇の時間も支える」ということを、これまでに、いろんな役と場所で、あらゆる形で、120%くらいで生き抜いてきた人なんです。今回、「そんなに演劇に奉仕しなくても、そこにいるだけでいいんだよ」と言うと、「いやいや、もっと頑張らないと。僕、これでいいんですか?」って。「どんどん人が出会って、事件が起こって、心が動いていく。だからそのままいればいいんだよ」と言うんですが、エンジンがいつも120%でかかっちゃうのが、今回は惜しいなと思っているんです。愛がいっぱいの一色洋平くんを今回選んだのだけれど、120%を出していない時に、彼の中で愛が動かなくなって「ホニョ」っとなる時があって(笑)。
一色:(笑)。
石丸:そこにいれば、旅に連れて行ってくれるから、周りをもっと信頼して。旅が動き始めたら、選んだり中心になるのは、エドなんだよ。その時に心が動いたら、そのシーンを「支えよう」としなくても、物語の中にちゃんとお互いの関係性がしっかりと描かれているから、安心していこうという、最後の調整中なんです。
120%の一色くんならもちろん、10年前に出会った時よりも技術が上がっているし、本当に信頼している。でも120%の状態だと、「最初から成長した状態の、一色くんの物語」になってしまうんです。でも、エドはこの旅の中で成長するんですよ。なんか力の抜けたところが、物語の中で成長していく。その成長は、力んでいてはわからないことなんだよね。一色くんのすっごくいいところなんだけれども、とにかく気を抜いて…。
一色:(笑)。
石丸:もっと安心して、「舞台に、ぽっといる」っていうのをやってくれたらもうね、最っ高になると思うんですよ。決めてくるところは決めてくるんでね。
ーーずっと120%でやってこられたからこそ、いろんなことがたくさん見えちゃうんですかね。
一色:うーん、なんでしょう。やっぱり、「120%でやんないと失礼」という思いがあるというか。もう、本当にそれだけなんです。そうじゃないと演劇にも失礼だし、チケット料金もどんどん高くなっているじゃないですか…。
ーー確かにそうですね…。
一色:「1万円を超えるのが普通」みたいな。劇場には、その日に演劇を初めて観るという人もいて、もしかしたらそれが最後になるかもしれない人もいて。そして、すごく遠くから、チケット代よりも何倍も高い交通費を払って来られている人もいるかもしれない。
ーーそうですよね。
一色:そういうことを考えるともう、120%になっちゃうから…。
石丸:そうだよ。でもね、今回は、その等価交換のために、あなたは力を抜くの。
一色:力を抜くっていうことは…(笑)。すごくドキドキするんですけど…。
ーー廣野さんのお話の中で、「自分の中にいるエドを正直に出さないといけない」という話をされていましたが、一色さんは「自分の中にいるエド」についてどう考えていますか?
一色:僕はやっぱり、さっきの話ともつながりますが、オーディションの時の感覚を最近すごく思い出すんです。「弟の体を取り戻す旅」という比重がすごく大きくて。子どもの時に、原作を読んだ時の印象とは、全く違うんですよ。当時は、二人の主人公が歩きながらの旅だと思っていました。実際にオーディションの現場でも、弟を演じる(眞嶋)秀斗くんと一緒の組だったのですが、「こんなに、自分のことを二の次にする物語だったっけ!?」と。俺はまだ、腕と足が2本ないくらいだけど、彼はどれほどの孤独を…と。彼の苦悩を聞いていると、「こんな思いをさせていたのか」と、くらうことがあるんです。それは、演じるからこその感覚ですね。製作発表会で「愛の一色」とも言っていただきましたが、その所以は、僕のオーディションの中での芝居に結構あったと思うので、自分の中で忘れずにいたい「愛」の部分です。
ーーなるほど。一色さんは、その「愛」の部分がエドと繋がるんですね。
石丸:廣野くんは初め、暴れ馬みたいに自由だったんだけど最近はね…。ちょっといいこと言うよ!?流れる雲みたいに自由だと思うの。
廣野:(『北斗の拳』の)ジュウザやん!(笑)
石丸:ジュウザはまたちょっと違うけど(笑)。邪気が抜けて、すごく柔らかなところが出てきたなと思っていて。外敵や世界に対して、すごく開いていて、何にでも真っ直ぐに出会っていこうとする柔らかさがあるんです。ここからは、そこから出てくるもの、そこから出てくる表現が、特に言葉ですけれども、もっともっと磨かれていくべきで。そしたら、もっと素敵になると思っているんです。
ーー廣野さん、石丸さんに聞きたいことはありますか?
廣野:いや、おっしゃる通りです。自覚はしています。
一同:(笑)
ーーでは、無料部分の締めとして、メッセージをお願いします。主にエドについてお話してくださったので、「作品全体を捉えるとどんな舞台か」というところにターゲットを合わせて、それぞれ3人からお話いただけますか?
廣野:エドがダブルキャストであるおかげで、僕、この作品をお客さんの目線で観させていただくことも多くて。すごく不思議な感覚があって、舞台上では、さち子さんのパワーを筆頭に、すごい体育会系な汗臭いことをしているんですよ。でも、お客さん目線で客観的に観ると、めちゃくちゃスタイリッシュなんです。何これ?って思いました。
ーー体育会系に、汗臭くやっているのにと。
廣野:そうなんです。何だか、原子みたいな感じ。内側にすごいエネルギーがあって、それが放出される時があったり、きゅっとなって静かに燃えている時があったりするような。あ、そして、作品を創る中で、さち子さんって本当にすごいなと思ったのは「諦めない」んです。アンサンブルの動きひとつ、パネルの動きひとつにも、全てに意志があるんですよ。それを僕らも感じ取りながら、「ここは絶対にズレたらいけない、ここのタイミングはこうだ」とか考えながらやっているんですけれども、それを客観的に観た時に、「おしゃれやなー」と思いました。誰を見ても、全員が徹底しているんです。だから、そういうものを作ろうとしているこちら側からすると「早く観てほしい」。観る前は「ハテナ?」かもしれないんですけど、実際に観劇していただくと、わかっていただけると思う。
一色:この春はね、面白い芝居が結構いっぱいあるんですよ。
ーーそうなんですよね。
一色:でもね、これが一番面白くなると思いますよ。
一同:(笑)。
一色:一番面白くなる。口コミで伸びてほしいなってすごく思いますね。
廣野:そうですね。
一色:さち子さんが稽古時におっしゃっているのは「細部に神が宿るから、しっかりやっていこう」と。すごく細かいことをみんなでやっているんです。僕が、さち子さんの演出で好きなところは、僕らがこだわったことが、お客さんにちゃんと伝わるところなんです。
例えば、TwitterなどのSNSで感想を見ていると、さち子さんが、僕らに言ったことのまんま、感想をつぶやかれているお客さんがいるんですよ。それって、その通りに受け取れているってことじゃないですか。これすごいなーって思って。時には、僕らより一歩先にいっている感想とかもあって、「あ、そうか」って逆輸入したりもするんですけど(笑)。
ーーそうなんですね(笑)。
一色:そういう現場に居られる幸せってあるんですよ。ここは、「居たくなる」現場です。「ここにいてこそ、ここの空気を吸ってこそ演劇人」みたいな。水戸黄門の「これが目に入らぬか」の印籠じゃないですけど、これでこそやっぱり演劇人です。だから、ハガレンチームが、「羨ましい集団、劇団」みたいに見えたらいいなとも思いながら、この気持ちをおすすめのコメントとさせていただきたいです。
石丸:この作品には、錬成術も出てくるし、キメラやホムンクルスという人間ではない存在も出てきたりします。読み合わせをした時、みんな口々に「これどうするの?どうやったら舞台になるの?」と。それを延々考え続けてきて、「よし!これいけるんじゃない?でも成立するかな?できるかな?」と、稽古場に持っていって、みんなとしっかり話をしながら、やってもらうんです。そしたらね、このハガレンチームの俳優たちが、メインキャラクターを演じる人たちも、アンサンブルたちもみんな、応えてくれるんですよ。
そうやって、夢が叶っていくんです。その中で、みんなが「面白い!」って言ってくれるんです。そうなると、私もよし!と、次も新しい面白い演出を出すよと、また考えるんです。そしたらまたみんなが叶えてくれて、面白がってくれる。そのプロセスを積み重ねていったら、冒頭で話に出てきた「2週間」というとんでもないスピードで芝居ができてしまったんです。
廣野:198ページできるって。ね。
石丸:ね。初めて通し稽古をした時は本当に感動しました。いつまでもお互いの健闘をたたえる拍手が鳴り止まなくって、「舞台『ハガレン』が、生まれつつある」ということが、自分たちでも嬉しくって。もちろん、初日を開けるまでは色々な細かい調整があって大変ですけれども、ワクワクしています。これをもうすぐお客さまに観てもらえるんだなと思うと。
廣野:いや、本当にそうですよね。
石丸:何度も芝居をやってきた私が、本当にワクワクする素敵な作品になっています。そして、エドワード・エルリックが二人いて、ロイ・マスタングが二人いて。それもまた、全然違うんですね。芝居の流れも全然変わってくるんですが、「どれもハガレンになっている」ということが、今の私の自慢ですね。二人を選んだ甲斐があったっていう。
廣野:嬉しいですね。そう言っていただけると。
一色:ね、本当に。
※アイデアニュース有料会員限定部分には、「2.5次元舞台と、ストレートプレイのボーダーの有無」について石丸さんがお話ししてくださった内容と、お三方に「2023年の展望」について伺った内容などインタビューの後半の全文を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)
■石丸:「漫画通りでしょ」ではなく、「人間を本当に描く」ことでいい作品になる
■石丸:原作ファンが愛する登場人物として、懸命に生きる。そこを作るのが私の仕事
■廣野:誰にも負けない! 石丸:出会う人ときちんと出会いながら、作品を届けたい
■一色:力を抜いていきたい(笑)。大事なものが、そこに詰まっている気がするから
<舞台『鋼の錬金術師』>
【大阪公演】2023年3月8日(水)~3月12日(日) 新歌舞伎座
【東京公演】2023年3月17日(金)~3月26日(日) 日本青年館ホール
公式サイト
https://stage-hagaren.jp
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邪気が抜けて柔らかくなった廣野さん…観劇してそれがよく伝わってきた事を思い出しました。
若い頃は一生懸命で力が入ってるけど、力を抜く事が決してだらける事ではない事には30代になってからでないと気づかないかもですね。