2023年6月21日(水)から7月9日(日)まで、東京・世田谷パブリックシアターで、7月22日(土)と23日(日)に兵庫県立芸術文化センター阪急 中ホールで上演される、音楽劇『ある馬の物語』に、まだら模様の馬「ホルストメール」役で出演する成河さんと、美と若さの象徴ともいえる男性(牡馬)役などで出演する小西遼生さんの対談インタビュー後編です。「下」の無料部分では、身体表現と演劇のこと、小西さんが演じる3役が体現している「所有の情熱的な面」のことなどについてお話ししてくださった内容を紹介します。有料部分では、小西さんが馬舎に実際に行って見学したときのこと、『十二夜』以来の共演であっても、ずっと同じ道を歩んできたという感覚があるというお話、ロシア戯曲の魅力、どのような舞台になりそうかということなどを伺った内容を紹介します。
ーー成河さんは、身体表現作品が多いですよね。
成河:人ではない役をいただくことは多いですね。
小西:すごいですね、本当に(笑)。
ーー制作の方々が配役を考えるときに、成河さんにと思うのかなと。
成河:どうなんでしょう。ただ、(演出の)白井(晃)さんとのご縁でいうと、一番直近は『わたしは真悟』という作品で、白井さんは演出補でしたが、かなり深く関わってくださいました。あれが一番尖っていましたね。機械の魂でしたから(笑)。ダンサーさんでも機械をやる人はいると思いますが、機械の魂だからね?(笑)。意味が全然わからないですよ。あとは昔、ウイルスという役があって、それが一番やばかったですね。
小西:(爆笑)。
成河:天使とかだったら、まだ想像がつきますが、ウイルスはやばいでしょ?(笑)。
小西:それを身体表現でやったの?
成河:やった(笑)。で、機械の魂をやった『わたしは真悟』ではかなりフィジカルなことをやったりして、そのときに白井さんと共同作業をして、いろいろなアイデアをいただいたり、ふたりで作ったという印象があります。それからの今作なので、最低でもあのくらいは動きたいなと思っています。機械の魂に比べたら、馬はもう少し具体性があるので(笑)。どういうおもしろさを出せるかは、(振付の)山田うんさんのお力もお借りして。
小西:そもそもソンちゃんは、なぜそんなにフィジカルが強いの?
成河:いやいや、そんな話はやめてくださいよ。実は、フィジカルめちゃくちゃ弱いですから。
小西:表現力だね。
成河:スポーツが不得意だからじゃないですか? 難しい話を始めてしまいますが。
ーー難しい話、ぜひお願いします。
成河:いやいやいや。
小西:球技とかダメなの?
成河:全然ダメ。いまでもそうですよ。僕は短距離走も垂直跳びや反復横跳び、球技だって、同世代の人と比べたら、基本的に全部並以下でしたよ。それはずっとコンプレックスでした。それを、身体表現とはどういうものかを野田(秀樹)さんに教わったんです。舞台上で見える速さや高さは、「差」で認識する。例えば、ウサインボルトが上手から下手に全速力で走ったときに、お客さんはそれを速いと思えるかどうか。
小西:なるほど。
成河:陸上選手を見て、いろいろな人と比べて超速い、神のごときだなんて言っていますが、何の前情報もなしに、ただただ男が舞台上を上手から下手に、あの速さで走ったとして、速いと思えるかどうか。劇場で感じさせる「速さ」はそういうものではないんです。認識の差をもって、形を作っていくから、本当に速いかどうかはあまり関係ないんです。本当に速かったり高かったりする、サーカス的な見せ方も作品によってあったりしますが、実はすぐに飽きるんですよね。
「速い」と、すぐに思わなくなる。そう思わせないようにするには工夫が必要ですし、差に差を重ねて作品を作っていくというのを野田さんがおっしゃるのを聞いて、めちゃくちゃ腑に落ちました。本当の速さだったら負けるけれど、速く見せることなら負けないと思った。そういうところが演劇をやっていて楽いことの一つでもあったの。身長も低いけれど、こうやったら人よりも大きく見える、そういうことが演劇をやっていてずっと楽しくて、コンプレックスを野田さんに解いてもらったと思っています。
小西:演劇は人のコンプレックスを解いてくれるよね。
成河:そういう側面もあるね。
小西:逆にコンプレックスがないと始めないもんね。
成河:役者自体がそうかもしれないけどね。
小西:僕が知りたかったのは、本当に苦手かどうか。ちょっと稽古場でバドミントンやろうよ(笑)。
成河:いいね! バドミントンは比較的好き。バドミントンは、球技じゃないよね? 運動の中では確かに得意かも。
小西:じゃあ、バドミントンじゃないわ。
成河:いや〜、球技ダメよ?
小西:じゃあ、おもちゃ屋に売っているバットとボール買ってきて。
成河:ああ、あれね。器用にやる人は、本当に器用じゃないですか。あと、スポーツができる人は、スポーツの世界に行っているよ。
ーーでも、若い頃にスポーツをされていた役者の方多くないですか? だから、身体能力が高い人が多いのかなと思っていました。
成河:ダンサーさんの世界では、スポーツ能力を生かしている方もいらっしゃると思いますが、役者の世界で身体能力というとコントロール能力だったり、認識や視線を集める能力だったり。(視線を)こっちに集めたと思ったら、反対側に登場するとか、マジシャンのように見せることも、役者にとっての身体能力の一つ。知覚や意識を操るようなところがあって、それが楽しいからやっているよね。
小西:そうね。
成河:でも、僕はダンサーにはなれないんです。ダンサーに比べたら身体能力は極めて低いから。でも、そうじゃなくても宇宙を見せられるというのが、役者にとっての身体能力だと思います。
ーー小西さんは馬役と、人間の役も演じますが、今回の役はいかがですか? やはりというか、今回も女性を連れていっちゃう役なんだなと。
成河:そりゃそうでしょ(笑)。連れていってもらわないと。
小西:やはりって(笑)。最近はあまり舞台上でそういう役は演じていないんですよね。
ーー馬も、「美しい馬」です。
小西:3役ありますが、役として果たす役割は近いんですよね。ホルストメールや別所(哲也)さんが演じる公爵にとって、悪いきっかけを与える。友だちにいたら嫌な役どころだな(笑)。
ーーお前がいなかったら、みたいな(笑)。
小西:すごく、そう思われるだろうなと思っています(笑)。
ーー作品の中での、演じる役の役割などいかがですか?
小西:この作品の一部になれるという意味では楽しみです。この役のおもしろさというか、嫌味な感じを、もう好きにやらせてもらいます(笑)。
成河:こうやって聞いていると、おもしろいですね。つまり、見た目は華やかに派手にやっていくわけですが、どうやったってみんなで所有について考えていくことになるのは、間違いないない。それがいいか、悪いかは置いておいて、コニタン(小西さん)がやる3役を思い返してみたら、所有という行為が持っている一番情熱的で、ロマンティックで、官能的な部分、簡単にバッサリきれない部分、それでもそこに惹かれちゃう部分を担っている。何かそこに心がいってしまうような所有の概念を持っている役なのかなと思いました。
<取材協力>
成河ヘアメイク/大宝みゆき
小西遼生スタイリング/尾後啓太
※アイデアニュース有料会員限定部分には、小西さんが馬舎に実際に行って見学したときのこと、『十二夜』以来の共演であっても、ずっと同じ道を歩んできたという感覚があるというお話、ロシア戯曲の魅力、どのような舞台になりそうかということなどを伺ったインタビューの後半の全文と写真を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)
■小西:人間の本性を覗けるおもしろさが 成河:ジャッジを与えず、人間讃歌に
■成河:同性代感があるよね 小西:久しぶりなのに、なんて共感できるんだろうと
■成河:それぞれの得意なもの、やってきたものをぶつけた全部盛りのヤバい舞台
■小西:馬が互いの巨体を立てて、ひづめをぶつけ合って遊んだりする感じになりそう
<音楽劇『ある馬の物語』>
【東京公演】2023年6月21日(水)~2023年7月9日(日) 東京・世田谷パブリックシアター
【兵庫公演】2023年7月22日(土)~2023年7月23日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
公式サイト
https://setagaya-pt.jp/stage/1829/
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ポストトークのある回を観劇。
アイデアニュース様は、観客が役者さんに聞きたいことをお聞き下さり感謝です!写真もステキ。
「ある馬の物語」は身体表現の塊です。成河さんは床にバンバン倒れてお怪我されないかひやひやしました。
人に所有されたホルストメールと、人間の愚かで快楽的で、残酷で美しい「生」の対比のさせ方にグッときました。