「物語のための物語」、『ピローマン』成河・小川絵梨子(上) | アイデアニュース

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「物語のための物語」、『ピローマン』成河・小川絵梨子(上)

筆者: 達花和月 更新日: 2024年10月8日

映画監督としても活躍する、イギリスの劇作家マーティン・マクドナーの代表作の一つ『ピローマン』が、2024年10月8日(火)から10月27日(日)(プレビュー公演:10月3日、4日)まで、新国立劇場 小劇場で上演されます。架空の”独裁国家”で生活している兄と弟。作家である弟が書いたおとぎ話の内容がやがて彼らの現実を侵食し……。理不尽な体制の中で「物語」が存在する意義とは何かを問いかけます。カトゥリアン役を成河さん、ミハエル役を木村了さん、トゥポルスキ役を斉藤直樹さん、アリエル役を松田慎也さん、父役を大滝寛さん、母役を那須佐代子さんが演じます。アイデアニュースでは、カトゥリアン役の成河さんと、翻訳・演出の小川絵梨子さんにインタビューしました。

インタビューは上下に分けてお届けします。「上」では、『ピローマン』の初見の印象と読み解いてどう感じたか、原文で解釈をしきるということ、『ピローマン』を上演したいと小川さんが思われたきっかけなどについて伺った内容を紹介します。「下」では、「物語を語る」ということ、演じるにあたって成河さんが心がけていらっしゃることなどについて伺った内容と、お客さまへのメッセージを紹介します。

成河さん=撮影:NORI
成河さん=撮影:NORI

――『ピローマン』初見の際は、どんな印象を持たれましたか?

成河:観たことはあったんですけど、戯曲をちゃんと読んだのは、コロナ禍緊急事態宣言期間中のオンライン本読み会が初めてだったんです。

小川:観たことあったんですね! いつご覧になったの?

成河:テレビの中継を観たんだけど、いつのどこのバージョンを観たのかまではちょっと覚えてなくて…。

小川:長塚圭史さんのかな?(2004年 PARCO劇場他)

成河:多分そうだと思う。学生時代だったから。なので、初めて戯曲でちゃんと通して読んで、「ジェットコースター感、半端ねぇな!」と思いました(笑)。なんて言うか、ずっと途切れないんです。お話も感情も。本読み会では、そこまで感情を重視して読んではいなくて「みんなで1回読んでみましょう」という感じだったけれど、なにかこの「途切れなさ」みたいなものを、すごく感じた印象があります。

――コロナ禍に行われていた、本読み会の際の台本はどなたの翻訳でしたか?

小川:私の翻訳です。外へ出す目的でもなかったし、オンラインで集まれる人で集まって、ただ読む、という会だったので。その時は『ピローマン』だけじゃなく、いろんなものを読んでいました。

――小川さんが、一番最初にこの作品に触れられたのはいつですか?

小川:ジョン・パトリック・シャンリィの『ダウト』(2005年 ウォルター・カー劇場)という作品と、この『ピローマン』(2005年 ブース・シアター)を、オン(ブロードウェイ)でやっていたときなので、初演から間もない頃です。イギリスで生まれた『ピローマン』が初めてアメリカで上演されて、『ダウト』か『ピローマン』、どっちがトニー賞を取るのかと、すごく盛り上がっていたのを覚えています。私もアメリカにいた頃で、学校のみんなも「どっちだと思う?」とよく話題にしていましたね。

成河:そうなんだ。

小川:実はそのときは、両方ともブロードウェイで生では観られなかったんです。アメリカでは、作品は全部映像化されるので、後々映像で『ダウト』はブロードウェイでやったものを観たんですけど、『ピローマン』は結局観られないままでした。「みんなすごい観に行ってるなぁ」とは思っていて。話題になった後に戯曲を1回読んでみて、「おおおお!これがマクドナーの作品か!」と、すごく面白かった。

多分私の「マクドナーが好き」と「『ピローマン』が好き」は、同時期に始まっていて、日本に帰ってきてからも、いつか『ピローマン』をやりたいと思っていたんです。だから、名取事務所さんが「一緒に何か創りましょう」と言ってくださったときに『ピローマン』(2013年 下北沢「劇」小劇場)をやりたいです、とお伝えしました。実際に名取さんのところでできることになったときは、すごく嬉しかったですね。稽古していて、作品が見えてくるのがすごく楽しくて「こんなに面白いんだ」と思いました。

私は、稽古をしていく中で作品の姿が見えてきても、「これ、本当に面白くなってる?」と、自信を持てず、自分で疑ってしまうこともあるんですけど、『ピローマン』は、シーンが立ち上がってきたときに、もう絶対に面白い!と思えたんです。マクドナーの作品は、ほとんどが「ダークコメディ」。私が「ダークコメディ」が好きということもありますが、やっぱり面白い。笑いのセンスみたいなものもすごく好きですし、とても巧妙に書かれてもいる。非常に正直に書かれている本で、最も好きな作家の1人だと大きな声で言えます!!

――マクドナーの作品の中でも『ピローマン』では、どんなところがお好きですか?

小川:大きくは「アート(芸術)」と、「生きる」ということ、この2つを書いているところですね。いわゆる「何かを創っている」─それは芸術関係でもエンタメ系でも、あらゆるジャンルにおいて、ストーリーを語る、物語に携わる、もしくは絵画や彫刻を創る、映画やドキュメンタリー、バラエティー番組を作るなどー全てが当てはまると思います。何かをクリエイションをしている人の、「何をつくっているのか」という自問と、「クリエイションと生きること、人生はどう関わっていて、どんな関係にあるのか?」という問い。

それを、意地悪な目でもなく、かといって楽観的でもなく、やや希望を残しながら探っている作品だと思うんです。”Story about Art and Life”と、私はちょっとかっこよく言っていたわけですけれど、この作品はその根源的なものを描いていて、「モノを創る人間」としては、とても心打たれるところがあるんですね。どうして「物語が必要なのか?」 、「物語を創る我々の責任とは何なのか?」、「物語がある、ということは何なのか?」など、その多重的な関わりを、余すところなく、本当に豊かに率直に、でも温かい視点で書いてくれていると思います。

『ピローマン』は、そういうテーマがすごく大きいと思うんです。他の三部作(「リナーン三部作」、「アラン諸島三部作」)などは、またそれぞれ違うテーマがあるのだと思いますが、やっぱりこの『ピローマン』が持つテーマ性は、「モノを創る人間たち」には、すごく刺さるんじゃないかという気がします。

「モノを創る人間」ができること、自分たちがやっていることの意義、その責任、そしてある種の傲慢さ、そして喜び。人生の可能性と希望を広げてくれる一方で、実は絶望ももたらしている残酷さ。そこを非常に上手に、ストーリーとして描いていることに、深い共鳴と「震え」を感じます。

――成河さんは、『ピローマン』を読み解いてみて、どのように思われましたか?

成河:群を抜いての批評性の高さですね。マクドナーの作家としての、モノを書く人間としての批評性の高さが、すごく笑いに繋がる、みたいな。多分ですけど、めちゃくちゃ批評性を高く持つ自分への「いけすかなさ」も感じている。

小川:そう! そうだよね。

成河:その批評性の高さが、アンロジックなところで、ぐちゃぐちゃにされる様を「これでもか!」って書いているところにも、とても惹かれます。マクドナーはものすごく頭がいいし、その頭のいい人が、自分を使ってめちゃくちゃ遊んでいる。でも、僕にとってはものすごくシリアスなテーマで、だからこそずっと惹きつけられてしまう。

「物語のための物語」でもあり、かつ、戯曲は批評的にやらざるを得ないような仕組みで書いてある。だからやっぱり面白いです!(笑)。あの手もこの手も使って、どんどん押してきて。それで最後、ものすごくシンプルな「物語」を使って、生きていくこと、生きていることを自分に問わざるを得ない、みたいなものを目撃させられますから。マクドナーは、『ウィー・トーマス』(2006年 PARCO劇場他)と『スポケーンの左手』(2015年 シアタートラム)に続いて3本目になりますが、自分の年齢もありますけど、僕の中では『ピローマン』が一番受け取りやすい作品ですね。

※アイデアニュース有料会員限定部分には、原文で解釈をしきるということ、『ピローマン』を上演したいと小川さんが思われたきっかけなどインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。インタビュー「下」では、「物語を語る」ということ、演じるにあたって成河さんが心がけていらっしゃることなどについて伺った内容とお客さまへのメッセージなどインタビューの後半の全文と写真を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)

■小川:今回の脚本は役者さんたちと、かなりの日数をかけてほぼ 1 行ずつ見直した

■成河:時間をかけて1行ずつ、絵梨子さんと英語の原文解釈を。その楽しさを伝えたい

■小川:おとぎ話で、設定も “Somewhere, Sometime”。そういう意味では作りやすい

■小川:信じたい「物語を語ること」が、『ピローマン』に書かれていると思った

<『ピローマン』>
【プレビュー公演】2024年10月3日(木)〜10月4日(金)
【東京公演】2024年10月8日(火)~10月27日(日)
公式サイト
https://www.nntt.jac.go.jp/play/the-pillowman/

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(写真左から)成河さん、小川絵梨子さん=撮影:NORI
(写真左から)成河さん、小川絵梨子さん=撮影:NORI

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<筆者プロフィール>達花和月(たちばな・かずき) 遠方の友人を誘って観たお芝居との出会いをきっかけとして演劇沼の住人に。ミュージカルからストレートプレイ、狂言ほか、さまざまな作品を観劇するうち、不思議なご縁でライターに。自らの仕事を語る舞台関係者の“熱”に、ワクワクドキドキを感じる日々。 ⇒達花和月さんの記事一覧はこちら

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