「一番重要なのは自己肯定感」と顧問の久田先生、カヅラカタ歌劇団インタビュー(下) | アイデアニュース

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「一番重要なのは自己肯定感」と顧問の久田先生、カヅラカタ歌劇団インタビュー(下)

筆者: 橋本正人 更新日: 2016年11月22日

2016年10月8日に「エリザベート ~愛と死の輪舞~」を上演した東海高校・中学の「カヅラカタ歌劇団」インタビューの「下」です。顧問の久田光政先生に、たっぷりお話をうかがいました。インタビューの後半は、アイデアニュース有料会員限定とさせていただきます。

「カヅラカタ歌劇団」インタビューより=撮影:アイデアニュース・橋本正人

「カヅラカタ歌劇団」インタビューより=撮影:アイデアニュース・橋本正人

■受験勉強も、自己肯定感さえあれば、 なんとでもなるんです

――東海高校は9年連続で国公立大学医学部合格者数が日本一という、ものすごい進学校ですが、そういう学校にカヅラカタ歌劇団が存在する教育上の意味は、どういうところにあるんでしょうか。

いろんな意図はあるんですけれど、一番重要だと思っているのは「自己肯定感」ですね。 学校にいる間に自己肯定感をどう育むことができるのか、ということなんです。 自己肯定感がない生徒っていうのは、 自分に対してイエスの気持ちがないので、自分の将来展望を切り開く力が持てないんですね。目標をたてることも難しくて、それに向かって進んでいく自信も持てない。ですから、学校のいろんな機会を通して、一人一人の生徒に自己肯定感を育ませていくことが重要なんです。受験勉強も、自己肯定感さえあれば、なんとでもなるんですよ。

――なるほど。

ですから、単純に勉強しなさいと言うとか、補習をやるとか、そういうことじゃないんですよね。 むしろ、補習し続けるほうが、自己否定感を強くするぐらいのことなわけですよ。お前は、できないできないと、言われるわけですから。

■多くの人の支えがあって成功できたというのが、自己肯定感の中でも質の高い自己肯定感

――自己肯定感とは何なんですか?

自分に対してイエス、誇りを持つとか、あるいは、自分はやればできるんだという気持ちですね。その時にどうしても「成功体験」が必要なわけです。それは、できればみんなと一緒に、自分ひとりじゃなくて、みんなと一緒に、多くの人の支えがあって成功することができたというのが、自己肯定感の中でも質の高い自己肯定感だと思うんです。自分ひとりでできたというのは、他の人との協働であったり、誰かに対しての思いやりの気持ちだったり、感謝する気持ちだったりは、あまり必要がないですよね。僕が一人で勉強して頑張りましたということは、僕だけなわけなんです。

カヅラカタ歌劇団「エリザベート」公演の控室より=撮影:アイデアニュース・橋本正人

カヅラカタ歌劇団「エリザベート」公演の控室より=撮影:アイデアニュース・橋本正人

■東海の受験は、個人戦じゃなくて団体戦。友達にグチも言いながら、みんなで受かろうよと

――自分一人ではできたかもしれないけれども、他の人と一緒に行ったらできないかもしれないし、自分を肯定できないかもしれないということでしょうか。

はい。それが、仲間と一緒じゃないとステージは成功しないわけで、そうすると友達と一緒にやる。受験もね、実は個人戦じゃないんですよ。東海は、団体戦なんです。

――そうなんですか。

例えばね、名古屋大学医学部は30人から40人くらい受験して、15人から20人合格するわけですね。で、彼らに聞くと、一緒に受ける奴って「敵・ライバル」と思ってるかっていうと、ほとんど思ってないんです。「一緒に受かろうぜ」って。隣に座ってるやつも名大医学部だとすると、こいつが不調になってくれたぐらいの方がむしろ喜んでもいいわけですよ。でも、そういう風には思っていない。 みんなと一緒に受かる。それは友達と人間関係を作って、入試勉強を続けるっていうのは辛いわけですから、どっかでグチをこぼしたい泣きも言いたい、じゃあ誰にそれを言えるのかっていうと、親でも教師でもないんですよ。やっぱり友達なんです。一緒に受ける奴らなんです。そういう生徒と切磋琢磨という言葉を使っちゃうんですけど、そういうことよりもグチも言いながらね、安心してみんなで受かろうよと、また大学で遊ぼうぜって。だから団体戦なんです。

――さっきのインタビューでも、トート役の伊藤くんが、カヅラカタに入ったのは先輩に誘われてなんですが、東海学園に入れたのもその先輩のおかげなんです、っていう話をしてました。「彼のおかげ」ってどういう意味って伊藤くんに聞いたら、ここの塾に行ったらいいとかいろんなことを教えてもらって、先輩がいなければ僕は東海高校には入れなかったし、カヅラカタにも入ってなかったっていう話を聞いて、へえ~~と思ったんですね。

それは先輩とだけじゃなくて、同級生とも同じような状況なわけなんです。

■カヅラカタの舞台の再現性が高いのは、名古屋工学院専門学校があるから

――みんなのおかげで、というか、一緒に?

一緒に。人間関係を作っていきながら、成功体験しながら、さらにカヅラカタの場合は、舞台を作っていく上で、いくら自分が宝塚の再現をしたいと思っていても、ステージを作ってもらわなければできないですよね。なぜ再現性が高いかと言ったら、一番は、名古屋工学院専門学校があるからですよ。

――名古屋工学院専門学校、すごいですよねぇ。

元々はスタンドマイクだけ立てて自分たちでやってたんですね。3回目の時に、生徒から「ピンマイクつけられませんか」というリクエストがあって、「ピンマイクってとんでもない金かかるんだぞ。無理に決まってんじゃん」って言いつつ、名古屋工学院専門学校の先生が文化祭なんかの出し物のお手伝いしますよと言っていたのを聞いてたので、問い合わせをしたら、二つ返事でいいですよと。

――ワイヤレスのピンマイクはいいですよね。あれは何本あるんですか。

10本くらいあります。

――ミキサーとかも、もちろんやってるんですよね。

もちろん。サテライトの生中継に、カメラは4台入ってます。これはすべて工学院が、ラインひいてやってくれて。

名古屋工学院専門学校の生徒さんらが音響・照明・中継などを担当=撮影:アイデアニュース・橋本正人

名古屋工学院専門学校の生徒さんらが音響・照明・中継などを担当=撮影:アイデアニュース・橋本正人

――照明も?

はい。照明のプランも、全部、工学院が出してくれる。こちらからこうというわけではなく、練習を見ながら工学院側から「こういうふうな光で行こうか」っていう風な提案をしてもらっているので、だからプロ仕様の舞台ができているわけですね。工学院さんの方は工学院さんの方で、実習の場なんですね。

――なるほど。

学生さんの実習の場。緊張のある場で、でもプロじゃないから、失敗してもまだ許されるって事ですね。お互いにそれはすごくいい関係になっていて、工学院さんは、ものすごい指導が入ってくるんですね。プロ仕様の指導が。

■ちゃんとしたものができて、お客さんから拍手もらったっていうのは、すごく大きいこと

――機材、すごいですよね。私も取材してる横で見ましたけど、カメラとか、テレビ局が使っているものと同じような感じでした。

2週間ずっと入れっぱなしでしたから、文化祭が終わってから本番までの間。

――機材を2週間、おいておいたということですね。

ですから、もしかしたらプロの方にお願いすれば、1000万円超えるんじゃないかっていうような費用になると思います。そういう支えがあり、衣裳の提供であったり、パンフレットの提供であったりとか、いろんな方々のご協力があって、そして講堂いっぱいに来てくださるお客様がいらっしゃる。ガラガラでは、やっぱりやる気にもなりませんから。お客さんに育てられてるって言う感覚は強いですよね。他のクラブの事を悪く言うつもりはないんですが、運動部だったとしたら お客さんに見てもらうっていうのは、必要ないですよね。甲子園まで行けば多くのお客さんがいらっしゃるけれども、県大会の予選にはあんまりいないですよね。他のクラブなんかも、家族や同級生の数人が来てくれれば多い方で、「来てもらう」じゃなくって、「自分が頑張る」ってことですよね。でも、お客さんに見てもらって喜んでもらおうというところに、また違う、他者に対する気持ちみたいなものが生まれる。

カヅラカタ歌劇団「エリザベート」公演パンフレットより

カヅラカタ歌劇団「エリザベート」公演パンフレットより

――そしてうまくいけば、自信がつきますよね。失敗することもあるでしょうけど。

自分がここで歌えなかった、外したというのは、それは悔しい思いを持てばいいけれども、じゃないと次につながっていかないので。だけど、トータルとして、うまくちゃんとしたものができて、お客さんから拍手もらったっていうのは、すごく大きいことですよね。

■最初に「お笑いにはしない」と生徒に言った。宝塚歌劇団という高い目標に挑戦する

――宝塚というか、ミュージカルは、舞台の上に立ってる人だけでも、歌のうまい子、ダンスの上手な子、芝居のできる子、いろんなバリエーションがあるのも、いいですね。

そう思います。そして、最初に「お笑いにはしない」と生徒に言ったんですね。14年前に「やりたい」って言ってきた生徒に。

――それは、最初の時に?

「お笑いにせずに、真面目にやろうぜ」って言ったのは、より高いものを目指すっていうことなんですね。宝塚歌劇団という高い目標があるわけです。クオリティの高いモデルがあって、そこに少しでも近づいていくということに、困難に挑戦するということがあるわけです。低いものを目標にしてもしょうがないわけですね。

――成功体験につながりませんよね。遊びで終わっちゃう。

ええ。より高いものに、より高い峰に向かって行くってことですね。さらにハードルを上げていくと、クリアしたときに自分たちの感動が出てきますよね。そして、ダンスだったり、歌だったり、演技だったりというものを、勉強しなければいけないわけです。そしてそれはまた、学校の勉強につながっていくというふうに思います。

――それは実際に、成績とかに結びつくものなんですか?

単純ではないですけれども。ただ東海高校の総体で言うと、部活や会場誘導などで活躍したサタデープログラム実行委員会、文化祭実行委員会などで頑張っている生徒の成績は、いい傾向がありますね。

※ここからアイデアニュース有料会員限定部分とさせていただきます。教師になった直後は「落ちこぼれ先生」で、腹痛で学校に行けなかった日もあったという話から、イベントなどを通して自分自身が自己肯定感を得てきたことなど、久田先生自身のストーリーをうかがいました。

<アイデアニュース有料会員限定部分の小見出し>

■1日49講座の「サタデープログラム」は、6割から7割が生徒のプロデュース

■僕は「落ちこぼれ教師」だったんです。腹が痛くて、うちに帰ったことも

■授業をしない完全5日制の土曜日だからこそできることを、と考えて

■サタプロ、カヅラカタ、そして東日本大震災でボランティアセンターを立ち上げ…

■今年は還暦。ホノルルマラソンに初マラソンで参加して4時間を切るのが目標

■こんなふうにすれば、なんとかなるかなと思えれば、なんとかなる

<東海高校カヅラカタ歌劇団 海組 第14期公演>
「エリザベート ~愛と死の輪舞~」
【愛知公演】2016年10月8日(土) 東海高校講堂 (この公演は終了しています)

<関連情報>
東海学園交響楽団 「第九」チャリティーコンサート
2016年12月18日(日)16時~18時(開場15時) 東海高校講堂
曲目:エルガー「威風堂々」第1番、ベートーヴェン交響曲第九番“合唱付”
指揮:曽我大介、ソリスト:平井香織・小山由美・松原陸・青山貴、合唱:東海学園交響楽団特別合唱団
チケット代:一般3,000円 学生1,000円 問い合わせ:東海高校(052-936-5112/5114)
チケット購入はオーケストラ部関係者or合唱団関係者から(学校事務室では取り扱っていません)
https://www.facebook.com/tokaoke.harmony/

<関連サイト>
東海高校カヅラカタ歌劇団  http://zuka08.blog121.fc2.com/
学校法人東海学園【東海中学校・東海高等学校】 http://www.tokai-jh.ed.jp/
名鶴ダンスカンパニー http://www.nazuru.com/
名古屋工学院専門学校 http://www.denpa.ac.jp/
松枝衣裳店総本店 http://matsueda.co.jp/
河合塾 http://www.kawai-juku.ac.jp/

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<筆者プロフィール>橋本正人(はしもと・まさと) 産経新聞記者から朝日新聞記者となり、大阪本社整理部次長、デジタル事業本部サブマネジャーなどを歴任。宝塚歌劇などを扱うサイト「アサヒコム・スターファイル」の編集責任者を6年間つとめ、独立。アイデアニュース株式会社を設立し、編集長に。趣味は声楽(テノール)。 ⇒橋本正人さんの記事一覧はこちら

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