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障がい児家族と支援者のホッとステーション:NPO法人「そらしど」、元気に邁進中

筆者: 松中みどり 更新日: 2016年12月15日

2016年7月25日、NPO法人として歩み始めた新しい団体「そらしど」のパンフレットにはこう書かれています。

  • そらの向こうの希望に向かって
    どこにどんな子どもが生まれても
    愛され、受けとめられ、
    必要な支援が受けられる社会へ

長男のタケル君の発達に関して気がかりなことが出てきたのは、彼が1歳を過ぎたころだったと「そらしど」理事長の藤尾さおりさんは言います。泣かない、笑わない。目を合わせない。名前を呼んでも振り向かない。抱きしめる母の手をすり抜けてしまうわが子は、「やっぱり自閉症なんだろうか?」NPO法人「そらしど」は、そんな不安な気持ちに揺れたひとりの母親の、さおちゃんこと藤尾さおりさんが中心になって設立されました。まだ出来たてホヤホヤのNPOは、なぜ、どんな経緯で誕生したのか?何を目指しているのか、お話をきいてきました。

NPO法人「そらしど」理事長藤尾さおりさんと長男のタケルくん 写真=藤尾さん提供

NPO法人「そらしど」理事長藤尾さおりさんと長男のタケルくん 写真=藤尾さん提供

タケル君が1歳を過ぎる頃、名前を呼んでも無視され、差し出す手を払いのけられたさおちゃんは、傷ついて、ひとりでいると押しつぶされそうなくらい不安な気持ちになったそうです。助産師の彼女は教科書を引っ張り出し、息子が自閉症の項目に当てはまることを確認しても、「いやそんなはずはない」「明日には、“普通”になって、お母さんって言うかもしれない」と本を閉じたといいます。

そんな気持ちを救ってくれたのは、同じような思いを抱えながら子育てをしているお母さんとのおしゃべりでした。「うちの子もそう」「わかる」「そういうことある、ある」お母さんたちが集まって、話をしているだけで、気持ちが明るく楽になるのを感じたさおちゃん。あるお母さんの言葉をきっかけに、我が子の発達が気がかりな親同士がつながれる場所を作るべく、走り始めました。その言葉とは、「ひとりではできへん。こんな場所いるよね!」としみじみ心のうちを吐き出した切実なひと言でした。親が安心してしゃべれる場、気軽に情報交換ができる場、これから生まれてくる子どもともつながることが出来るような場。そんな場所づくりは、まず神戸市北区の子育てサークル「JAM:ジャム」として実現しました。

障害のある子だけでなく、「発達に気がかりのある」という枠組みの中で、サークル活動をしていることがJAMの大きな特長です。子どもの障害が分かりやすいものでなくても、まだなにも診断がついていなくても、誰でも参加できる場所。そこにやってくる親が楽になることが一番大事で、その子だけでなく兄弟姉妹もいきいきと、その子らしく生きていけるようにという願いを込めて立ち上げられ、16年も続いている活動です。当事者だけでなく、サポートをしたい人にも入ってもらい、行政や大学や企業ともよい関係を持てたと、さおちゃんは言います。「北区障害児放課後支援委員会」「夢を語る会」などJAMから発展した様々な活動をくりひろげながら、保護者としてさおちゃんたちには次のような不安が残っていました。

「将来、わが子はどうなるのか。親亡き後は、どうなるのか」

さおちゃんは、障害のある子の保護者として、究極の願いは「安心して死にたい」ということだと言います。誰かの介助がなければ生きて行くことが出来ない子どもを、安心して託すことができたら、どんなにいいだろう。そんな就職先や施設が社会にたくさんあって、自分がいなくなっても、子どもが必要な支援を受けられると分かっていれば、憂いなく順番通りに先に死ぬことが出来る……。子育てサークルを立ち上げた時には1歳半だったタケル君は、18歳になりました。活動をしっかりと周囲に認知してもらい、課題を解決していくために、“ずっと避けてきた”というNPO法人をいよいよ立ち上げることになったのです。アドバイスをしてくれる中間支援組織の助けを借りて、2016年2月初めにNPO設立を決意、クラウドファンディングに参加して法人化のスタートとなる映画上映会と講演会を6月に実施、7月25日に認証というスピードでした。「そらしど」設立の趣旨はこうです。

子どもの保護者は「障がいについて知らないこと」から始まり、「具体的にどうすればいいのか分からないこと」に悩み、「周りから分かってもらえないこと」に苦しみ、さらには「将来たとえば親亡き後わが子はどうなるのか」というところに至ることを実感しました。そんな親子が相談できる場所や窓口を作りたいと思っています。~NPO法人「そらしど」ホームページより

神戸新聞の記事 藤尾さんのFacebookより

神戸新聞の記事 藤尾さんのFacebookより

2016年12月8日、「そらしど」主催のワークショップに参加してきました。法人になってから、神戸市北区だけでなく様々な地域の人々をつないでいきたいと、ユニークなイベントを続けている「そらしど」の啓発活動の一環です。ネット社会になって、情報があふれるようになっても、まだまだ障害に対して社会的な認知や理解は十分ではありません。「そらしど」は、障害のことや医療のこと、福祉の制度を知ってもらうイベントを継続して開催しているのです。さおちゃんから、こんなお誘いの言葉がありました。

    • 保護者さんや子ども達の笑顔のために 子育て支援をしたい!障がい児者支援をしたい! もしくは、そういった支援を現在している!という方!
    • そういった活動をしたいけど、何から始めたらいいの? 何かしたいけど、私にできるの?
    • 運営ってどうしてるの?こんな時どうしてるの?などなど・・・
    • 一緒に立ち上げや運営についての、どうする?どうしてる?について、ざっくばらんにお話しませんか?
2016年12月8日「そらしど」ワークショップにて=撮影・松中みどり

2016年12月8日「そらしど」ワークショップにて=撮影・松中みどり

「そらしど」が紹介された新聞記事を見て、さおちゃんに相談の電話をかけてきた人がいて、急きょ開催となったこの日、「そらしど」のメンバーに加え、筆者のような外部参加者も含めた10名が集まりました。温かく、笑いの絶えない雰囲気の中、ひとりひとりが自己紹介をし、さおちゃんはこれまでの活動について立ち上げから今までを紹介。ワークショップ開催のきっかけになったSさん自身の状況もゆっくり聴かせていただきました。安心して話が出来る場の力を感じたひとときでした。

人と人、人と情報、人と施設、施設と施設をつなぎ、協力協働し合うことが大切だと、「そらしど」ホームページに書かれています。どこに行ったらいいのか、誰に話すのがいいのか分からないとき、「そらしど」という場所があり、さおちゃんやメンバーの皆さんがいることを知っていたら、心強いだろうなあと思いました。NPO法人となって、より多くの人に情報を届けたい、色々な人に場を提供したいと願ったさおちゃんたちの気持ちがSさんの最初の一歩を踏みだす勇気を引き出し、実を結んでいるところを拝見して、とても嬉しかった次第です。

Sさん自身も、3人のお子さんそれぞれに気がかりなことがありながら、そんな子育てをしている自分だからこそ同じ立場の親御さんに寄り添っていきたい。相談の受け皿として自分も場所を作りたいという気持ちを話されて、その志に圧倒されました。さおちゃんたちのこれまでやってきたことや学んできたことをシェアする言葉も、けっして押しつけがましくなく、同じ仲間へのエールという雰囲気で語られ、素直に腑に落ちました。思いを共有し、一緒に学び合って、夢を実現しよう!とワークショップは締めくくられました。

この日聴いた色々な話の中で、紹介したい言葉があります。以前、サークルの中であるお母さんが言った言葉だそうです。

「あなたの話をきかせてほしいと言われるような綺麗な声をあげている方がいい」

「どうしてわかってくれないの」、「もっとこうしてほしい」、「ここが足りない」と不平不満を口にして戦闘的になるより、真剣に謙虚に話をすることで、他の人を気持ちよく巻き込むことが出来る。さおちゃんたちの明るく、温かく、素直なキャラクターがよく出た言葉で素敵だと思いました。これからも「そらしど」は、誰もが耳を傾けたくなる綺麗な声で、世の中に必要な情報を発信していくのだろうと確信しています。不安も不満ももちろんあるけれど、仲間と一緒に一歩ずつ笑顔で解決していくお母さんたちを支えているのは、子どもたちなのです。さおちゃんのFacebookページに、ある日のこんな様子が描かれていました。

藤尾さおりさんのFacebookページより

藤尾さおりさんのFacebookページより

    • 泣けちゃう;;
    • 気づいたらよく携帯をタケに触られてしまって、
      いつも写真とかを削除されたりしてしまうのですが、
      今日もやられてしまってたわけです。毎度置いてる私もいけないですが^^;
    • 部屋に入って見つけて「あ゛!!」と怒りモードで叫んだら
      ひょえ~((><))とばかりに手渡すタケ。
    • 携帯を見ると写真のような文章が・・・
    • 胸がきゅんとなって、ガツンときて、泣けてきちゃいました;;
    • ごめんなさい。ありがとう。
    • タケは、なんにも言わないけど、なんでもお見通し☆
    • 心してがんばります!;;

脊椎損傷をおった義父の在宅介護を7年続けたことがきっかけで、このアイデアニュースにも、介護関連の記事を幾つか書いてきました。今回さおちゃんにゆっくりお話をきく機会を得て、自分より前の世代をみることは、例えどれほど重度の障害があったとしても、ずっと楽なことだったんだと改めて思いました。本当はそんな保証はないけれど、義父の方が先に天国に引っ越すのが順番だと思っていたから、遠い先を憂えたり、悩んだりはしなかった私です。
でも、誰かの介助が必要で、周囲の理解と支援が必要な子どもの将来を思うとき、今のままだと安心して先に天国に引っ越せないと感じる親や家族は、その子どもが丸ごと受け入れられ、自分らしく暮らせる社会でなければ、「安心して死ねない」。だからこそ、さおちゃんたちは、「そらしど」を立ち上げたのです。

  • 空の向こうの希望に向かって
    どこにどんな子どもが生まれても
    愛され、受けとめられ、
    必要な支援が受けられる社会へ
2016年12月8日「そらしど」理事長・藤尾さおりさん=撮影・松中みどり

2016年12月8日「そらしど」理事長・藤尾さおりさん=撮影・松中みどり

さおちゃんたち「そらしど」の素敵な皆さんのこれからに、希望の虹がかかっていますように。そして、いつか「そらしど」のような団体が要らなくなり、どこにどんな子どもが生まれても、その子がその子のありのままで愛され、大切にされ、十分に支援を受けられる社会が来ますようにと願ってやみません。

<関連サイト>
◆NPO法人 そらしどホームページ→  http://infosorasido.wixsite.com/nposorasido
◆NPO法人 そらしどFacebookページ → https://www.facebook.com/nposorasido/?fref=ts

<アイデアニュース関連記事>
アイデアニュースの介護・医療関連記事→ こちら

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<筆者プロフィール>松中みどり(まつなか・みどり) フィリピン支援ボランティア/英語講師/ライター 初めて行った外国がフィリピンで、以来かの国の人々の明るさ温かさに魅せられ、様々なNGOや支援活動に関わる。1994年からは山岳先住民アエタの教育支援主宰。コミュニケーションツールとしての英語を各地で教えている。動物好きの自称「ケモノバカ」。飼い猫は黒猫で親バカ度も加速中。 ⇒松中みどりさんの記事一覧はこちら

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