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メカムシから木切れの家まで、アーティスト白石卓也さんの世界

筆者: 橋本正人 更新日: 2015年8月13日

 

もう18年も前になります。筆者は自宅の近くに、面白い人がいると連れ合いから聞き、歩いて数分の場所にあるお宅を訪問しました。 なんでも機械の部品を使って「虫」(昆虫)を作っているというとのこと。見せてもらって、驚きました。小さな箱の中に、色とりどりの「メカニカル」な虫たちがビッシリと、そして整然と並んでいます。すべてを合計すると、その数は、およそ3000。壮観でした。聞けば、その人は市役所の建築課に勤めるお役人。建築現場で廃棄物として出る機械部品を見ているうちに、それが虫に見えて、作りはじめたとのこと。当時、私は全国紙の新聞記者をしており、「ゴミからメカムシ」と題した記事にしたところ、1ページまるまるを使った大きな扱いになり、虫たちの写真が紙面を埋め尽くしました。あれから18年。「メカムシ」を作った白石卓也さんは、その後、どうされているのか。連絡をとったところ、「じゃあ、工房に来てください」ということになり、うかがってきました。

 

白石さんの「工房」内部=兵庫県伊丹市内で、2015年7月7日、撮影・橋本正人

白石さんの「工房」内部=兵庫県伊丹市内で、2015年7月7日、撮影・橋本正人

 

白石さんの工房は、自宅から車で10分ほどの兵庫県伊丹市内にありました。「メカムシデザイン工房」と名付けられたその場所は、木造2階建ての倉庫の2階部分で、中には「メカムシ」の作品や材料がビッシリ。18年前からこれまでに、大きな変化があったということは、おいおい説明させていただくとして、「原点は何ですか?」と聞くと、「こういうコンデンサーです」と言って、1センチあるかないかの小さな部品を手にとられました。丸い円筒形で先に細い線が2本出ています。「これが触角のように見えるでしょう?」と白石さん。たしかにその通りです。

 

メカムシの原点になった小さなコンデンサー。たしかに虫のように見えます=撮影・橋本正人

メカムシの原点になった小さなコンデンサー。たしかに虫のように見えます=撮影・橋本正人

 

それに針金で足をつけると、「メカムシ」の出来上がりです。「ムシ」なので足は6本。決して8本足のものは作りません。「だって、8本にするとクモやダニになるでしょう。私は6本足オンリーなんです」。そのへんのこだわりは私には正直よくわかりませんが、とにかく白石さんが作ったのは、6本足の「昆虫」でした。

 

コンデンサーで作った「メカムシ」=撮影・橋本正人

コンデンサーで作った「メカムシ」=撮影・橋本正人

 

コンデンサーから始まったメカムシ作りは、やがて電球を使ったものに進化します。「電球はどこから調達するんですか?」と聞くと、「バイク屋さんです。バイク屋さんに行くと、バイク用の切れた電球がいっぱいあるんですよ。捨てるしかないものだから、くださいと言うと、喜んでくれますよ」と。

 

バイク屋さんでもらってきた切れた電球=撮影・橋本正人

バイク屋さんでもらってきた切れた電球=撮影・橋本正人

 

バイクの切れた電球に6本足をつけ、缶ジュースなどのプルトップの輪の部分を一部切り取ったものを頭部としてつけると、なんだか立派なメカムシが誕生します。

 

プルトップで頭部を作るとメカムシに=撮影・橋本正人

プルトップで頭部を作るとメカムシに=撮影・橋本正人

 

こちらは小さな電球を使ったもの。

 

小さな電球を使ったメカムシたち=撮影・橋本正人

小さな電球を使ったメカムシたち=撮影・橋本正人

 

電球だけでなく、さまざまな廃部品が使われています。

 

ちょっと大きなメカムシたち=撮影・橋本正人

ちょっと大きなメカムシたち=撮影・橋本正人

 

白石さんは伊丹市役所に勤めるかたわら、休みの日などを使って小学校や青少年センターで「メカムシ」づくりのワークショップなどに参加してきました。最大のものは松下電器(現パナソニック)本社で開かれたワークショップで、全国から500人の子供たちが参加したそうです。「500人も指導できるんですか?」とたずねると「事前に説明書を作って、松下電器のコーチ役の人に伝えておいて、当日はコーチの人が手分けして子供たちに教えるので大丈夫です。まあ、そんなに難しいものでもないですしね。子どもたちは作り出すと熱中するので、こちらは材料を用意するだけで、作り出してから何かしなければいけないということは、ほとんどないんですよ」とのことでした。

 

「メカムシ以外は作らないんですか?」と聞くと、「本の帯」を使って作った「ムシ」を見せてくださいました。白石さんは市役所を定年退職してから、図書館につとめた時に、美しい紙ででできた「本の帯」が捨てられるのを見て、その紙を何かに使えないかと考えて「ムシ」を作ったそうです。

 

「本の帯」で作ったムシ=撮影・橋本正人

「本の帯」で作ったムシ=撮影・橋本正人

 

さらに、本の帯を使って、絵本を作ろうと思い立ちました。

 

「本の帯」で作った絵本=撮影・橋本正人

「本の帯」で作った絵本=撮影・橋本正人

 

図書館には本などが入れられていた段ボール箱もあるので、その段ボール箱と、本の帯を使って、絵本をつくるのです。そしてまた、これが人気になったのでした。

 

「ながーーーーーーい本」=撮影・橋本正人

「ながーーーーーーい本」=撮影・橋本正人

 

幅が1メートルもあるような「ながーーーーい本」も、ありました。

 

「ながーーーーーい本」を開くと=撮影・橋本正人

「ながーーーーーい本」を開くと=撮影・橋本正人

 

白石さんは、あちこちのイベントで、絵本作りを指導するようになります。そこでの白石さんの主義は、「ストーリーは考えない」こと。だって、ストーリーを考えていたら、とても1時間半や2時間ぐらいで絵本は作れないからです。まずは、自分で考えて、紙を好きな形に切って、接着剤(ボンド)で貼ってゆく。全部で6ページか8ページあるから、それらのページをとにかく埋める。好きなように。でもって、完成した絵本は、家に持って帰って、空いたスペースに自分の写真を貼ったり、その日のことを少し書き込んだりしておく。そして本棚のすみっこに置いておく。そして、何年かして読み直してみると、いいものだとわかる、ということだそうです。

 

「ストーリーは考えないで、まず作る。それから隙間に何かを書き込めばいい」と白石さん=撮影・橋本正人

「ストーリーは考えないで、まず作る。それから隙間に何かを書き込めばいい」と白石さん=撮影・橋本正人

 

この絵本づくりは、特にお母さんたちが感激するそうです。まずは、子供たちに集中力があることに驚く。本を作っている1時間半ぐらいの間、シーンとしている。「自由にさせると、こんなにも集中できるんですね」とビックリするそうです。でも、白石さんに言わせると「自分のやりたいことだと集中できるんですよ。ゲームやスマートフォンを触っている時と同じです」。でも「しばらくすると飽きる子もいるんじゃないですか?」と聞くと、「飽きる子は少ないですねぇ。ただ自由解散なので、飽きたら帰っていいということにしていますが、あまり帰らないです」。

 

ちなみに絵本づくりで「1等賞」とかを決めないんですかと聞くと、白石さんは「私は、それが一番イヤなんです」と。「綺麗に貼ったら1番なんですか? 職人じゃないんだから、子供が自分でいいと思うことをするのが大事なんです。今のファッションでは、ジーパンは破れているのが良かったりするじゃないですか。1等とか2等とか出したら、たとえば企業のイメージアップでワークショップ開いてるのに、『あの時は賞品をくれなかった』と子どもがその企業の敵になりますよ」とのこと。ごもっともでした。

 

白石さんは絵本づくりのほかに、さまざまな作品を作っています。なかでも見せていただいて面白かったのが、この部品を使った作品。新聞折り込み広告などで、ボーダー(縞模様)の服の写真を切り取って集めています。なぜボーダーのシャツなのか、いったいこれで何を作っているのでしょうか。

 

さて、この雑誌の切り抜きは、何に使うと思いますか?=撮影・橋本正人

さて、この雑誌の切り抜きは、何に使うと思いますか?=撮影・橋本正人

 

答えは、こちら。船です。船の窓部分をボーダーシャツの写真を細く切り取ったもので表現しているのです。

 

縞模様の服を細く切ると、船の窓のように見えて……=撮影・橋本正人

縞模様の服を細く切ると、船の窓のように見えて……=撮影・橋本正人

 

もともとは白石さんは船が好きで、定年退職後にはピースボートに乗って世界各地を旅した経験もあり、船の絵を描いていたのですが、窓の部分を描くのがけっこう大変で、そんな時に、ふとボーダーシャツの柄が目にとまり、それ以降、このボーダーシャツの切り抜きを使って船の切り絵を作り、工務店でもらってきた木切れを使って枠をつくって、壁掛けを作っているそうです。

 

工務店でもらってきた木切れで枠をつけると、すてきな壁飾りに=撮影・橋本正人

工務店でもらってきた木切れで枠をつけると、すてきな壁飾りに=撮影・橋本正人

 

白石さんは、最近は、材木店などで「ご自由にお持ち帰りください」と箱などに入れられている木切れを使って「小さな家」も作っています。

 

木切れをさらに小さく切って……=撮影・橋本正人

木切れをさらに小さく切って……=撮影・橋本正人

 

まずは、もらってきた廃材の木切れを小さく切ります。

 

丸い樹の枝を窓に入れると、小さな家の出来上がり=撮影・橋本正人

丸い樹の枝を窓に入れると、小さな家の出来上がり=撮影・橋本正人

 

木切れに丸い穴をあけて、切った枝をはめこみ、屋根をつければ家の出来上がり。並べるとちょっとした町のようになり、住む人の会話が聞こえてきそうです。

 

いろいろな作品が棚に並んでいます=撮影・橋本正人

いろいろな作品が棚に並んでいます=撮影・橋本正人

 

白石さんの作品は、ギャラリーなどに招かれて企画展で展示されることが多いとのことですが、「壁掛けが、しゃべっている」ものを出展したこともあるそうです。魚が辺野古や憲法9条について話している壁掛けを見せてくださいました。

 

「作品が、しゃべったっていいじゃないか」と=撮影・橋本正人

「作品が、しゃべったっていいじゃないか」と=撮影・橋本正人

 

「辺野古に基地は不要です」とも=撮影・橋本正人

「辺野古に基地は不要です」とも=撮影・橋本正人

 

なんにせよ、見たことのない新しいものを作りたいというエネルギーが、白石さんの作品にはあふれています。

 

「何かの役に立てようなんて考えなくていい。とにかく、これまで見たことのないものを作ってみる」=撮影・橋本正人

「何かの役に立てようなんて考えなくていい。とにかく、これまで見たことのないものを作ってみる」=撮影・橋本正人

 

この写真は、家にあった古いスプーンやフォークを木につないだ作品。「これは何にも役にたたないですよ。これで食べたら便利というものではないです」と白石さん。工房には、小さな枝がムーミンの「にょろにょろ」のように並んだものや、歯車を組み合わせたもの、なんだかよくわからないけれど針金が階段状になったものなどが並んでいました。

 

18年前、初めて白石さんに会った時は、「マニアックな人だなぁ」と思いましたが、今回再びお会いしてゆっくり話をうかがってわかったのは、「白石さんはアーティストなんだ」ということでした。高校卒業後に美大に進みたかったけれどもかなわず、建築を勉強すれば「絵」が描けるというので大学で建築を勉強して市の施設設計にたずさわってきた白石さん。その絵心が、建築から、メカムシ、絵本、船の絵、木切れの家、話す魚、はたまたスプーンやフォークへと進んでいったのは、アーティストとしての必然だったように思えます。

 

「私は捨てられるものを使って作っていますが、リサイクルをしているつもりはありません。子どもたちも、作って遊んでしまえば、また捨ててしまいますので」と白石さん。たしかに白石さんは「リサイクルのため」に作品を作っているのではないでしょう。白石さんは、子供たちに自由な発想で作品を作らせるように、「役に立たないようなものを使って、新しい美術作品を作る」ことに熱中しており、「好きなことを自由にやっているのだから、ずっと集中を継続できる」のだなぁと、思いました。

 

今回の取材では、ざっと目につくものだけを見せていただきましたが、工房の壁際に積み重ねられた箱の中には、作品がぎっしりと詰まっていて、これを見ていると、いつまで立っても取材が終わらない感じでした。

 

まだまだ作品は山のようにありますが、今日はここまで=撮影・橋本正人

まだまだ作品は山のようにありますが、今日はここまで=撮影・橋本正人

 

 

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<関連リンク>

 

メカムシ.com → http://mekamushi.com/showcase.html

 

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<アイデアニュース有料会員向け「おまけ」>

 

白石さんは伊丹市職員時代に「伊丹0号大賞公募展」創設を提案して認められ、封筒に入るサイズの「ゼロ号」サイズの作品を全国から募集する仕事に携わりました。この公募展で審査委員長になった具体美術家の鷲見康夫(すみ・やすお)さんと交流し、大きな影響を受けたと話していました。その話が面白かったので、白石さんの言葉で紹介します。

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<筆者プロフィール>橋本正人(はしもと・まさと) 1986年、産経新聞社入社。写真部員をへて記者となり、兵庫県警捜査一課などを取材。1990年、朝日新聞社に移り、宝塚歌劇を扱う「朝日新聞デジタル・スターファイル」などを担当。2015年、アイデアニュース株式会社を設立し、編集長に。趣味は声楽(テノール)。 ⇒橋本正人さんの記事一覧はこちら

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