美しいドレス姿を披露しているのは、フィリピンの山岳先住民族「アエタ」の女性ふたりです。フィリピンの多様な民族の中でも、最も古い先住民であるアエタの人々は、1991年のピナツボ火山噴火によって、山の民としての暮らしが出来なくなった避難民なのです。筆者は、1994年6月から2015年5月まで、「ピナツボ・アエタ教育里親プログラム」という教育支援活動をおこなってきました。現在、アエタの女性たちの新しい収入の手段として、「レンタルドレスショップ」の設立を準備しているところです。日本の善意ある方々から寄付してもらったウエディングドレスやフォーマルドレスは、おしゃれが好きでドレスアップする機会が多いフィリピンの女性たちの夢をかなえる魔法のドレスとして生まれ変わります。
1991年6月に大噴火したフィリピン・ルソン島にあるピナツボ火山。その山は、先住民族アエタの人々にとって、先祖代々、暮らしを支えてきてくれた聖なる山でした。噴火の少し前まで、狩猟や簡単な農業で暮らしを立てていた少数民族アエタは、暗褐色の肌や小柄な体、縮れた髪などの外見的特徴と、主流のフィリピン文化とは違う独自の文化を持っています。避難生活は、争いごとを好まず穏やかで、それでいて大変誇り高いアエタの人々にとって、つらいものでした。差別や偏見を受けたことも多々あります。「もっとも困難な避難生活」を送っている人々に緊急支援を始めたのが、筆者とアエタの人々との出会いでした。
噴火によって山を降りたアエタの人たちは、狩りや焼き畑農業という生活基盤を失い、将来は不透明なままでした。アエタの人たちにとって最も重要なニーズはなにか。話し合いの中で、「アエタの村の小学校には、アエタの先生がいてほしい」「いずれはアエタの中から医療の専門家が出てほしい」「アエタを助けるのはアエタでありたい」そんな言葉を聞いたのです。それなら、若きアエタのリーダーを育てる教育支援がいいのではないか。町に「ドミトリー・寄宿舎」を用意して、アエタの若者たちが共同生活を送りながら、高校や大学に通う仕組みを作りました。1994年、「ピナツボ・アエタ教育里親プログラム」の始まりです。
ピナツボ火山噴火から24年の歳月が流れ、教育支援を開始してから20年がたちました。山岳先住民族アエタの人たちをとりまく環境も大きく変わり、「ピナツボ・アエタ教育里親プログラム」は、2015年5月の卒業生を最後に、その役目を終えました。これまでに延べ200名を超えるアエタの若者が学校に通い、そのうち120名ほどが高校や大学を卒業しています。幼稚園や小学校で教師をしている卒業生、換金作物を導入して村の経済発展に貢献している卒業生、市役所の運転手として働いている卒業生、町の大きなレストランで働いている卒業生、サリサリストアー(一坪ほどの店舗のコンビニ)のオーナーをしている卒業生のカップルなど、次の世代のアエタの良いお手本になっています。
一方で、結婚し、出産をした女性が仕事を続けることが難しいのは、古い文化や習慣が残るアエタの人たちの現実です。せっかく奨学金プログラムの支援で学校を出ても、いったん仕事を離れると再開することは容易ではありません。そんな中で新たに出てきたアイデアが、「レンタルドレスショップ」経営なのです。
キリスト教の国であるフィリピンでは、復活祭や洗礼式や結婚式、クリスマスなど教会で行う行事には、晴れ着で出席します。卒業式、地域のお祭り、家族のいろいろな集まりにも素敵な服で出たいと願う、おしゃれな人たちが多い国です。お金のない人たちにとっては叶わない願い。でも、そんな庶民の夢をリーズナブルにかなえるレンタルドレスショップがあったら、どんなにいいだろう。「ピナツボ・アエタ教育里親プログラム」の奨学生の卒業式に出るたびに、そう思ってきました。
「ピナツボ・アエタ教育里親プログラム」を長年応援してくださった大阪のうつぼロータリークラブのご寄附により、かつてプログラムの寄宿舎であった古い家の改築が実現しました。奨学生たちの共同スペースだった殺風景な部屋が、トルソーに着せたドレスや、ラックにたくさん吊るされているドレスが窓ガラス越しに見えるしゃれたお店に変身しています。
アエタの学生たちの頑張りを知っている日本の人たちが、筆者の呼びかけに応えて、続々とドレスを送って下さいました。自分や家族が着たウエディングドレス、子どもさんが発表会で着たドレス、プロの演奏家がステージで着たドレス、フラダンスやフラメンコを習っていた人が着たドレス……いずれも中古とは言え、とても美しく、いい状態で保管されていました。幸せな記憶をもったラッキーなドレスたち。海を越えて優しさと友情が届けられたようで、本当に嬉しく有難いことです。ドレスを見たアエタの女性たちは、飛び切りの笑顔になり、大きな歓声を上げていました。
プログラムの元奨学生の中に、洋裁の技術を学ぶ専門学校に通った女性がふたりいます。それから、これまでアエタの奨学生たちの寄宿舎での「お母さん」として生活を共にしてきた、自身もアエタであるべナスさんは裁縫が得意。彼女たちが中心となって、オリジナルのドレスと、今回筆者が日本から持ち込んだドレスを使って貸衣装店を経営します。これなら、結婚しても子育て中でも、働き方を工夫してずっと続けていける仕事です。
お店を知ってもらうための宣伝をしたり、ドレスを借りに来た人たちの体型に合わせてドレスを補正したり、お金の管理をしたり、アエタの女性たちがこれから担っていく仕事はいろいろあり、トラブルも起きることでしょう。それでも、レンタルドレスを通して、日本から届いた応援の心を励みに頑張ってもらいたいです。差別や無理解に負けず、学校に通った元奨学生たちが、学生時代同様たがいに助け合ってほしい。そして、少しずつ収入が増えて、いつかは、もっとたくさんのアエタの女性たちが働ける大きなお店になる日を願って、これからも応援していきたいと思っています。
この「レンタルドレスショップ」のために、ドレスのご寄付や輸送料のカンパなどをしていただける方は、こちらのフォームを使って、ご連絡ください。
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<アイデアニュース関係記事>
フィリピンのピナツボ火山噴火被災者ら、レンタルドレス店設立へ →https://ideanews.jp/archives/8783
ピナツボ・アエタ教育里親プログラム、最後の奨学生が卒業 →https://ideanews.jp/archives/3090
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「アエタを助けるのはアエタでありたい」元奨学生たちの嬉しい提案
ある元奨学生のスピーチ 若きリーダーの頼もしい姿
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