人と猫が共存できる社会へ、TNR専門病院「のらねこさんの手術室」オープン | アイデアニュース

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人と猫が共存できる社会へ、TNR専門病院「のらねこさんの手術室」オープン

筆者: 松中みどり 更新日: 2015年10月27日

猫が地域で暮らすことをみんなに認めてもらいたい、人と猫が共存できる社会を作りたいと願っておこなわれる「TNR」という活動をご存知でしょうか。アイデアニュースでは以前、福島第一原発20キロ圏内でのTNR活動~猫の不妊手術をされている動物病院の豊田先生や、シェルターを支えている赤間さん、給餌活動を続けている太田さん~を紹介しました。2015年10月1日、関西のベッドタウン北摂地域で、TNR専門動物病院「北摂TNRサポート のらねこさんの手術室」がオープンしたというので、さっそくお話を聞いてきました。その報告です。

のらねこさんの手術室、正面玄関=撮影・松中みどり

のらねこさんの手術室、正面玄関=撮影・松中みどり

猫がケガをしないように、細心の注意をはらって捕獲

TNRとは・・・

T(Trap) 不妊手術などの適切な処置をするため、野良猫を捕獲すること。猫がケガをしないように気を付けて、専用の捕獲機を使って行います。写真のように、連絡先が書かれた捕獲機を使い、細心の注意をはらっておこなわれます。「のらねこさんの手術室」では、依頼があれば、病院のある池田市から車で1時間程度のところまでなら、出かけて行って自ら捕獲もしています。また、この病院で手術を受ける猫を優先して、捕獲機の貸し出しもおこなっています。

おびえた警戒心の強い猫はなかなか捕獲機に入らないけれど、地域猫ボランティアさんたちに餌をもらっていて、人馴れした猫はすぐに入るそうで、「のらねこさんの手術室」では、捕獲にかかる時間は比較的短いということでした。

のらねこさんの手術室が使っている捕獲機=撮影・松中みどり

のらねこさんの手術室が使っている捕獲機=撮影・松中みどり

2015年10月26日、捕獲されたのらねこさん親子=撮影・秋本真奈さん

2015年10月26日、捕獲されたのらねこさん親子=撮影・秋本真奈さん

写真の猫たちは、10月26日の夜、大阪市内で捕獲された親子の猫です。大阪市内の方から、依頼のあった3匹。依頼主の他にも餌を与えている人がいる猫たちで、左がお父さん、真ん中が子ども、右がお母さん猫なのだそうです。親子関係まで把握している人たちに見守られているので、人懐こく元気そうです。

料金は極力低く、避妊手術8000円、去勢手術4000円

N(Neuter) 不妊手術のこと。(メスは避妊手術、雄は去勢手術)「のらねこさんの手術室」は、外で暮らす野良猫を対象に不妊手術を専門におこなう病院なのです。猫の繁殖力はとても高く、1年間に殺処分される動物13万頭のうち10万頭が猫、そしてそのおよそ6割が生まれて間もない仔猫だという環境省のデータがありました。殺されるために生まれるような不幸な命を減らし、地域で暮らす猫が人と共存していけることを願って、「のらねこさんの手術室」では、メス猫の避妊手術8000円、雄猫の去勢手術4000円と、料金を極力低く抑えておられます。地域猫にエサを与えたり、世話をしている人たちが、少しでも気軽に、1匹でも多く、猫を病院に連れてこられるようにとの配慮なのです。他にも、エイズ・白血病検査、不妊手術後の抗生剤投与など、ノミ・シラミ取りなど、外で暮らす猫のための処置をおこなっています。

野良猫さん、不妊手術中=撮影・松中みどり

野良猫さん、不妊手術中 左から結城看護士、村上医師=撮影・松中みどり

手術を受けたこと分かるように、耳先をカットしてから戻します

R(Return/Release)  猫をもと居た場所に戻すことです。 すでに不妊手術を受けた猫だということが誰の目にもはっきり分かるように、耳先をカットしてから戻します。麻酔がかかっている状態で、オスは右耳、メスは左耳の先を少しだけ切るのです。こうしておかないと、何度も捕獲されて、手術を受ける猫が出てきてしまうからなのです。麻酔をされ、お腹の毛を剃られて、「あれ?」となっては猫にも負担ですし、病院としても困ります。手際よくおこなわれた手術の傷跡は、捕まえただけではわからないものなのだそうです。ちなみに耳カットはすぐ済みますし、麻酔中なので痛くありません。「のらねこさんの手術室」では、ニッパーを使ってあっという間に処理が終了。切ったあとがまっすぐであれば、喧嘩の傷跡と間違われることもありません。その形から、「さくら耳」とも呼ばれる、TNRされた猫の印が完成します。

不妊手術が終わると、耳の形はこんな風になります。「さくら耳」と呼ばれることもある花びらのような形です=撮影・松中みどり

不妊手術が終わると、耳の形はこんな風になります。「さくら耳」と呼ばれることもある花びらのような形です=撮影・松中みどり

捕獲してきてすぐの猫は、興奮状態だったり、捕獲機の中の餌をたくさん食べていたりするので、しばらく棚で待機します。原則捕獲の翌日が手術だそうですが、朝早く捕獲された猫が、夜手術されることも。手術後24時間は安静にして様子を見るため、再びこの棚でお休みします。1泊800円。猫を連れてきたボランティアさんが、一晩自分の家で見てくれることもあるので、その場合は棚のスペースが空くというわけです。

不妊手術の前後に猫たちが待機する棚=撮影・松中みどり

不妊手術の前後に猫たちが待機する棚=撮影・松中みどり

そして、手術が無事に終わって経過も良い猫たちが、順番にもと居たところに戻されます。「のらねこさんの手術室」では、このRの部分までも担っているので、写真のように、車に猫たちを積んでリリースに向かうのも仕事の一環です。

リリースに向かうスタッフ秋本真奈さん=撮影・松中みどり

リリースに向かうスタッフ秋本真奈さん=撮影・松中みどり

リリースを待つ地域の人気者のお母さん猫、もう子供を産むことはありません=撮影・秋本真奈さん

リリースを待つ地域の人気者のお母さん猫、もう子供を産むことはありません=撮影・秋本真奈さん

「のらねこさんの手術室」は、2015年10月1日大阪府池田市にオープンしました。動物愛護の仕事をしてきた秋本真奈さんと、動物看護士の結城和美さん、獣医師の村上聡さんがつくった、日本ではまだ珍しい野良猫の不妊手術専門病院です。

一般的に、去勢手術の費用はおよそ15000円以上、避妊手術だと20000円以上かかります。飼い猫であれば、1匹から数匹のことでしょうし、その猫の生涯で一度行えばいいわけですが、野良猫の場合は飼い主がいません。自治体が助成金を出しているところもありますが、世話をしているボランティアさんたちが手術代を出していることも多いそうです。そういう人たちは、地域の猫の面倒を長年みておられて、何十何百という猫を世話されています。少しでも費用が安ければ、1匹でも多く、手術を受けさせることが出来る。野良猫たちが、地域で暮らすことを認めてもらえるよう、手術は一日も早く、一匹でも多く受けてもらいたいと、秋本さんは言います。

「のらねこさんの手術室」のパンフレット=撮影・松中みどり

「のらねこさんの手術室」のパンフレット=撮影・松中みどり

尿のにおいが軽減され、喧嘩も少なくなります

「猫がゴミを荒らす」とか、「糞尿のにおいがひどい」といった地域住民の方の苦情を受け、悩みながらも、猫のために給餌など熱心に活動されているボランティアさんたちがいます。猫たちが、人間と共存していくためにはどうしたらいいか。猫が大好きな人も猫が苦手な人も、上手く折り合って暮らしていくには何が出来るのか。その答えが、「不妊手術」なのです。不妊手術を受けた猫は、尿のにおいが軽減され、発情期の鳴き声がなくなり、喧嘩も少なくなります。頭数が増えないので、地域でのトラブルが確実に減っていくわけです。

どの猫にも里親さんが見つかって、飼い猫になることが一番でしょうが、現実問題として今すぐには難しい。そして、こうしている間にも殺処分される猫はいる。だとすれば、自分たちに出来ることは少しでも安い料金で野良猫の不妊手術が出来る専門病院を作ることだ。秋本さんと結城さんは、野良猫と人間が気持ちよく暮せる世界を目指して、「のらねこさんの手術室」を誕生させたのです。

もちろん、協力してくれる獣医師がいなければ話は進みません。ふたりは、以前大阪の動物保護団体で知りあっていた村上聡さんを誘います。秋田に帰っていた村上先生、秋本さんと結城さんの熱いアプローチに応えて、「実は、ここまで本格的に付き合うことになるかどうか迷ってましたよ。それで食っていけるんだろうかなんて、悩んでね」と言いながらも、故郷から遠く離れた北摂・池田市での仕事を快く引き受けられました。「安い料金で手術をする動物病院に来てくれる先生、いないですもんね、よく決断してくださいました」と秋本さん。「目標、食っていくこと!」と村上先生は笑います。「そのためにも、ここを存続させていかないとね」と結城さん。

左から、村上聡獣医師、秋本真奈代表、結城和美看護士=撮影・松中みどり

左から、村上聡獣医師、秋本真奈代表、結城和美看護士=撮影・松中みどり

「ここまできたらやるしかない」と話す村上先生は、秋本さん結城さんの情熱にほだされたということですが、ご本人もなかなかの熱い心の持ち主とお見受けしました。低料金の病院を維持させるためには、手術の数を増やすことが必要ですが、「猫の負担にならない、安全な手術をしていきます。外に帰る子が多いから、術後の感染をふせぐ処置とかもちゃんとしてね。まずは安全第一です」と話しておられました。

猫も、犬も、アライグマだって殺処分にはしたくない。命ですから

野良猫たちがケガをしないように細心の注意をはらって捕獲機から猫を出し、手術の準備から、耳カットまでこなしていた結城さんは、もともとワンフロアーだった物件に壁を作ってドアをはめ込んで手術室にしたり、猫たちが待機できる棚をつけたり、動物病院としての体裁を整えた、なんでも出来る看護士さん。情熱の源は、猫への思いですか?と聞いたら、「猫もそうですし、犬だってアライグマだって、殺処分にはしたくないんです。命ですから」ときっぱりおっしゃったのが印象的でした。

外部との連絡や捕獲、リターンまで、小さな体でくるくるテキパキと働く秋本さん。私が伺った日には、午前中奈良まで捕獲に行って、猫を病院に届け、夕方には手術が終わった猫を返すために大阪まで行くということでした。話を伺っているときにも、電話が次々に入っていました。病院の存続のために、目標は一日10匹程度の不妊手術をこなすこととお聞きしました。10月1日に開業、お話を伺ったのが10月11日、平均して1日5匹の手術をこなしてきたということでした。トータル55匹の野良猫さん(その後、ボランティアさんに飼ってもらえることになった猫も含まれるそうです)の不妊手術をしたことになります。病院のFacebookページによると、10月20日現在、109匹の手術を終えたと書かれていました。その3分の2がメス猫だったそうです。

「のらねこさんの手術室」の手術室=撮影・松中みどり

「のらねこさんの手術室」の手術室=撮影・松中みどり

小さな命に温かい目を向ける地域は、弱い立場の人のことを大切にできる地域

もっともっと多くの人にこの病院について知ってもらいたい。「可哀想だからエサをあげる」、という気持ちを一歩進めて、正しい知識と情報を得て、責任をもった給餌のやり方をしていく。不妊手術を受けさせる。そうすることで、野良猫がうとまれたり、嫌がられたりしないで、人と一緒に気持ちよく暮らしていけるコミュニティ作りにつながります。外で暮らす猫たちは、交通事故や、ケンカによる病気感染があり、過酷な環境の中で、平均して3~5年という短い寿命なのだそうです。不妊手術を受ければ、出産で体力を消耗して死んでしまう母猫や、せっかく生まれても殺処分の対象になってしまう仔猫を減らせます。野良猫が短いながらも猫の命を全うできる社会が、この「のらねこさんの手術室」を中心に生まれてほしいと思います。野良猫たちを見守る人たちが協力して、小さな命に温かい目を向ける地域は、たとえば地震などの災害が起きたときに、動物が一緒に避難することへの理解が深いでしょう。また、障害があったり、高齢だったり、辛い思いをする弱い立場の人のことを大切にできる地域になれる。そんなことも考えました。アイデアニュースは、これからも「のらねこさんの手術室」と、TNR活動を応援していきたいと思います。

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「のらねこさんの手術室」にて 秋本真奈さん=撮影・松中みどり

<連絡先>
「北摂TNRサポート/のらねこさんの手術室」
住所:大阪府池田市渋谷1-3-21
TEL:072-737-7904
担当直通:090-3848-7904
電話受付 9時~20時 木休診
ホームページ:「北摂TNRサポート/のらねこさんの手術室」
→ http://www.noranekosan.jp/

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、「のらねこさんの手術室」の秋本真奈さん、動物看護士の結城和美さん、獣医師の村上聡さんのお話を掲載しています。

<アイデアニュース有料会員限定部分の見出し>

「のらねこさんの手術室」を支える3名、秋本さん、結城さん、村上さんとのQ&Aです。

「犬は診てくれないの?」と聞かれることも

手術数を増やさないと、存続できないんです

オスに比べて、メスの避妊手術は3倍くらい時間がかかります

「美しい手さばき」の流れ作業、ふたりで分担して手術

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<筆者プロフィール>松中みどり(まつなか・みどり) フィリピン支援ボランティア/英語講師/ライター 初めて行った外国がフィリピンで、以来かの国の人々の明るさ温かさに魅せられ、様々なNGOや支援活動に関わる。1994年からは山岳先住民アエタの教育支援主宰。コミュニケーションツールとしての英語を各地で教えている。動物好きの自称「ケモノバカ」。飼い猫は黒猫で親バカ度も加速中。 ⇒松中みどりさんの記事一覧はこちら

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