2023年6月6日(火)から 6月25日(日)まで東京・PARCO劇場で、7月6日(木)に福岡・久留米シティプラザ ザ・グランドホールで、7月9日(日)に大阪・森ノ宮ピロティホールで上演される『新ハムレット』に、ハムレット役で出演する木村達成さんのインタビュー後編です。「下」の無料部分では、本作の中でも問われる「愛」について思うこと、目の前の人に向き合いたいという気持ち、「今を生きる」というご自身の生き方のことなどをお話ししてくださった内容を紹介します。有料部分では、『新ハムレット』に描かれている、母・ガーツルードとのやり取りの中で思うこと、仲の良い人を「友達」などのカテゴリに分けないというお話などを紹介します。
(※このインタビューは、稽古前に実施しました)
ーー木村さんのことをもっとたくさん伺ってみたいのですが、作品の中で、ハムレットは「愛をもっと!」と言う一方で、オフヰリヤは「そんなの白々しいわ」と。木村さんは、愛に対しては、どっちの考え方ですか?
うーん。愛してるんだったら、なんでそう言えないんだ?とは思います。「愛は言葉だ」というセリフは、その通りだと思います。「愛」という言葉じゃないとしても、愛してるからこそ出てくる言葉もあるでしょうから。「あなたは、こうやらなきゃいけないよ」と、お尻をたたいてくれる言葉も愛だと思いますし。どうでもよかったら、そんなこと言わないですよね。そういう意味では、作品に描かれている、ハムレットが言う愛情の形みたいなものには、若干共感できるなと思っています。セリフにもあるように、実態として何かあるものだと思ったら大間違いというところにも、その通りだなと思います。
もちろん、言葉だけではないでしょう。でも、オフヰリヤに本当に愛があったなら、ハムレットはそこまでの気持ちにはならなかったと思うんです。僕自身が求める愛の形なのかもしれないですけど。どっちかというと、愛ある言葉はかけてほしいですし、行動でも示してほしいですから。
ーーなるほど。
でも、行動だと、愛に気づくのに時間がかかるんですよ。苦しんでいる人間って、徐々に浸透してくる愛が欲しいんじゃなくて、「今、瞬間的な愛」なんです。ハムレットはきっと、言葉でそういう愛が欲しかっただけなんだろうなって。僕も「めっちゃやばい!今、俺が元気になる愛の言葉が欲しい!」という感じなんです。今も、そういう言葉を絶賛募集中でございます。
ーーその「愛に対する飢え」みたいなものは、木村さんご自身がどういう状態だからなんですか?
枯渇しているからですかね。常に全力で、毎日を日々精一杯で生きているので、僕のコップは水がいっぱいで溢れきっているんです。もうひとつ器が欲しいです。そこを愛情で満たしておいて、そこをまた徐々に仕事で溢れ返して…という循環がうまくいくほど、人は毎日、朝目覚めて「今日も頑張ろう」って思えるのかもしれないですし。
ーーハムレットには、愛されることを求めるがあまり、そこに依存したり自分を保てなくなるようなところを感じます。木村さんご自身は、愛されることへの恐怖みたいなものは感じたりしますか?
僕は、愛するより愛してほしい人間なんです。僕の愛はすごいし、とんでもない愛情を持っていると思います。相手がくれる以上の愛をお返しします。でも、「僕がこんなに愛してるのに」ってなった瞬間、自分が思っている愛の物差しよりちっちゃいものが返ってきたら怒りますね。そういう意味では、愛への依存だと思います。
ーー先ほど、幅広い作品で色々な役を演じられているというお話もありましたが、役者としてこれだけは軸にしているというようなことはありますか?
自分で自覚的に「役者だ」と思うことも、そこへのプライドみたいなものも、あまりないですね。役者としてのこだわりはありませんが、「木村達成」としてのこだわりは、「相手が、笑っててほしい。人を笑わせたい、人を笑顔にしたい」ということです。それがすごく僕の活力になっているかな。インタビューとかでもそうなんですけど、めちゃめちゃ笑ってくれると、自分でも考えつかないところに、手を伸ばせている気がします。
ーーファンやお客様を笑わせたい、という想いでしょうか?
いや、僕にとってはいつも、「目の前にいる人が」ということですね。今なら、こうやってインタビューで聞いてくださっているみなさまにそう思います。第三者に向けて何かを届けようとは、一切思っていないです。「こういう感じにしたら、木村達成っていい感じに見えるかな」とか全然考えていないです。
ーー日々、目の前の方に向き合っていらっしゃるんですね。
第三者のことまで考えられないですね。本番中も、届ける相手は、舞台上にいるメンバーです。お客様は、そこについてきてくださると思っているんです。もちろん、お客様に届けようという意識はありますけれども。でもいつも、まずは目の前の人ですね。
ーーたくさんの作品に出演されている中で、励みになった言葉などはありましたか?
覚えているのは「お前は挫折を知った方がいい」という言葉です。先輩に言われたんですが、「その言葉に関しては、本当にわからない」って思いました。純粋に考えたら、挫折なんて知らずにそのまま走り抜けた方がいいんです。それに、僕が過去に挫折してたとしても、挫折を挫折とも思わない人間かもしれない。僕のことを何も理解していない人に言われたのですが、かなり残っている言葉で、突き詰める原動力というか、背中を押してくれる言葉に変わったというか、結構励みになっています。走るという表現がいいのか、新しいものに挑戦するという表現がいいのかわからないですけど、止まることもあっていいのかなと思うし。
ーー作品に取り組まれる中、ステップアップなど何かを目標にされたりしていますか?
「お前の代わりなんていくらでもいるから」って言われたことがあって。デビュー当時からすごく思っているのですが、「絶対に、代わりがきかない人間になろう」という思いがあります。もちろん、僕が自分の役を降りたとしても、絶対にそこに誰かが入るし、作品は続いていくわけですけど、「無理だね、この企画もう、なしにしよう」と言われるくらいの、役者というか人間でありたいというか。「木村達成」というブランドを大切にしたいです。どの作品も、そういう思いでやっています。
ーー今までのお話を聞きながら、「今を生きてる人だな」と、すごく思いました。
そうです!だって、僕の最近の口癖というかマネージャーにいう言葉は…。「一週間ごとの予定を、マジで送らないで!」って言ってます。
ーーそうなんですね!
今日を限界まで生きるから。明日の予定はギリ夜送ってくださいって。明後日の予定とかは、知りたくないんです。今も、『マチルダ』の登板日も把握していないです。
ーー先日、『マチルダ』を拝見したんですけど、ちょうどアフタートークがあった日で。「マチルダの物語のラストを、見ないようにしている」とおっしゃっていて、公演期間をそのまま最後まで突き進むってすごいなと思いました。「限界まで日々を生きる」というのは、しんどくはないですか?
めちゃめちゃしんどいです。
ーーそれは、木村さんご自身の生き方でもありますか?
正しい健全な人間を見ても、魅力を何も感じないというのが、僕の美学なんです。なんか欠けているとか、例えばイライラしている人を見ると、魅力がすごく出ていると感じます。「なんで、この人はイライラしているんだろう」って、結局気になって見ちゃうし。人の中で生きていたりとか、人の目が欲しかったり、目をもらうためには、正しく完璧である必要は一切ないと思っています。
ーーマチルダとは、逆の考えですね。
まあでも、マチルダだって、僕からしたら、めちゃめちゃ間違っていることをいっぱいしています。誰が、誰の物差しで、誰のことを決めるのかがわからない今の世の中で、「右に倣え」をしがちな考え方が嫌いなだけなんです、僕。
ーー最後に、作品に向けての意気込みなどをお願いします。
お客様の中には、いろんな期待とか、きっとこう演じるだろうとか、そういうのがあるのだと思います。でも、そういうことを全部ぶっこわすような気持ちで、「みなさんの考える範疇に収まらない男」というところを見せたいです。良い意味でも悪い意味でも裏切りに変われば、僕の中ではこの作品としてOKだと思っています。
※アイデアニュース有料会員限定部分には、『新ハムレット』に描かれている、母・ガーツルードとのやり取りの中で思うこと、仲の良い人を「友達」などのカテゴリに分けないというお話などインタビューの後半の全文と写真を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)
■「ガーツルードが思っていることを裏切ってやりたいな」という気持ちがある
■ハムレットにも、ガーツルードに心を許している時間帯もあるはず。反抗期みたいな
■自分のタイミングで話そうとする親に「今は違う!」という感覚でハムレットを理解
■仲の良い人は、いわゆる家族も友達も、僕にとっては「みんな家族」という感覚
<『新ハムレット』>
【東京公演】2023年6月6日(火)~ 2023年6月25日(日) PARCO劇場
【福岡公演】2023年7月6日(木) 久留米シティプラザ ザ・グランドホール
【大阪公演】2023年7月9日(日) 森ノ宮ピロティホール
公式サイト
https://stage.parco.jp/program/shin-hamlet
『新ハムレット』 関連記事:
- 「目の前の人に笑顔を」、『新ハムレット』木村達成(下) 20230607
- 「やらなきゃいけないと思った」、『新ハムレット』木村達成(上) 20230606
- 木村達成、舞台『新ハムレット』でMummy-D作詞・作曲のラップ歌唱 20230526
木村達成 関連記事:
- 「あとは考えて」、『セツアンの善人』木村達成(下) 20241015
- 「モノトーンで」、『セツアンの善人』木村達成(上) 20241014
- 「“私”と“彼”は、“当たり前”と“依存”」、『スリル・ミー』木村達成・前田公輝(下) 20230908
※木村達成さんの写真1カットとサイン色紙を、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。有料会員の方がログインするとこの記事の末尾に応募フォームが出てきますので、そちらからご応募ください。応募締め切りは7月8日(土)です(このプレゼントの募集は終了しました)。有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
アイデアニュースは、有料会員のみなさんの支援に支えられ、さまざまな現場で頑張っておられる方々の「思いや理想」(ギリシャ語のイデア、英語のアイデア)を伝える独自インタビューを実施して掲載しています。ほとんどの記事には有料会員向け部分があり、有料会員(月額450円、税込)になると、過去の記事を含めて、すべてのコンテンツの全文を読めるようになるほか、有料会員限定プレゼントに応募したり、コメントを書き込めるようになります。有料会費は取材をしてくださっているフリーランスの記者のみなさんの原稿料と編集経費になります。良質な取材活動を続けるため、どうか有料会員登録にご協力をお願いいたします。
愛の話を興味深く拝読しました。木村さんは様々な愛を受けてそれを認識して、ますます情け深い役を演じるようになるのかな、などと想像をふくらませて楽しかったです。枠を作らない木村達成としての存在を、ご自身が納得いくように高めてほしいと思いました。また、木村さんの美学をこちらで知ることができて良かったです。
お写真の柔和な表情から親子の話をする雰囲気までも伝わりました!