「チャンネルを閉じて」、『ピローマン』成河・小川絵梨子(下) | アイデアニュース

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「チャンネルを閉じて」、『ピローマン』成河・小川絵梨子(下)

筆者: 達花和月 更新日: 2024年10月8日

映画監督としても活躍する、イギリスの劇作家マーティン・マクドナーの代表作の一つ『ピローマン』が、2024年10月8日(火)から10月27日(日)(プレビュー公演:10月3日、4日)まで、新国立劇場 小劇場で上演されます。カトゥリアン役の成河さんと、翻訳・演出の小川絵梨子さんのインタビュー後編です。「下」では、「物語を語る」ということ、演じるにあたって成河さんが心がけていらっしゃることなどについて伺った内容と、お客さまへのメッセージを紹介します。

小川絵梨子さん=撮影:NORI
小川絵梨子さん=撮影:NORI

ーー「物語を語ること」が、ここに書かれているんですね。

小川:人の人生も「物語」ですよね。『ピローマン』の中でカトゥリアンは、刑事たちから、彼の書いた「物語」を全部燃やすと脅されますが、それは彼にとって真の「死」を意味します。

「物語」と出会うことは、自分ではない、別の人生を生きているような感覚を与えてくれたり、未知の世界へも連れて行ってくれる。「物語」にすごく影響を受けることもある。「現実だけではたどり着けないもの」でもあるけれど、その物語が存在する世界は自分の「現実」の世界だったりする。

人間は原始的に「物語」というものを発明しました。物語を語るのは、「ことば」と「感情」を持った人間という生き物だけ。それは何故なのか、と考えたときに、それはやっぱり、もっと様々な人生を生きてみたいという人間の持つ欲からなのではないかと思ったんです。だからこそ、想像力が広がる。社会は人間の共同体で、共存していく、他者と共に生きていくためには、「物語」は要にもなるし、もちろん未来への継承にもなる。ちょっとしたときの自分の現実のつらさを、物語が慰めて癒してくれたりもするし、希望もくれる。または打ち砕いてくるときもある。「人生が増える」と言ったらいいんでしょうか。それは人間の特権だなぁと思っていて。

そんなことをぼんやり思ってたときに、本読み会があって「あー! マクドナーが言いたかったのは、このことなのかもしれない」と気づいたんです。それで改めて『ピローマン』の初演当時、海外ではどんな批評が出ていたんだろうかと調べたら「人生とアートとストーリーテリングとは何か? ということを突き詰めている」と書いてあって、「そうだなあ!」と思いました(笑)。10年経って、歳を重ねただけでなく、そういうことを考える「芸術監督」という立場に居たり、コロナ禍だったことが大きいと思います。コロナ禍を経て、「物語」というものの必要性を考えるべき時期に来たこのときに、『ピローマン』を新国立劇場で上演させていただけるというのは、私の中では重要なことだと思っています。

――カトゥリアンを演じるにあたって、「こういうところをご自身の芯として持っていたい」といところがあれば教えてください。

成河:絵梨子さんとする作業は、他の現場とはもう全然違う場所にあるんです。僕にとって。

小川:ほぉ。

成河:関わらせてもらえるところが違うというか。まず最初に、戯曲を英文で徹底的に解釈するときに俳優も一緒に入れてくださって、みんなで1行1行検証していきました。こんなこと普通やらせてもらえないんです。それが、自分が役を作っていくときにどのように役に立つのかというのも、やっぱり、やってみないとわからないことなんですけど。

小川:そうそう。そうなんだよね。

成河:『タージマハルの衛兵』で、それがどれだけすごいことかということに気付くきっかけをもらったんです。そこからはもう、がむしゃらに「俳優もやるべきだ!」って、みんなにスピーカーのように言っていて(笑)。ただもちろん、このやり方が合う人合わない人がいるし、それをしないといい役者になれないということでは全然ないです。ただ、それが役を作っていくときに、どれだけ肥やしになって役に立つことなのか、一度やってみると、分かってもらえると思うんです。

なぜならば、この徹底的に戯曲の解釈をしていく過程を経ると、「登場人物」の、造形が、雰囲気が、性格が、という以上に、「役割」について理解が深まります。頭では「役」ではなくて「役割」が大前提にあるんだ、とわかっていても、解釈しきれないと、この「役割」の部分がなかなか信じきれないんです。たぶん、これは才能とかではなくて、解釈さえしきれば誰でもみんなそう思えて、ものすごい自信になるんです。ごちゃごちゃ考える必要がなくなりますから。だって、この「役割」なんだから。

僕がどうしたかろうが、何をしようが、今日雨だろうが、天気がよかろうがなんだろうが、戯曲の中にはもう「カトゥリアン」の「役割」が書かれていて、その「役割」の解釈が出来た状態で稽古に入ると、「カトゥリアン」という「役」を演じる時にすごく役に立つということが、僕にとっては大発見だったんです。翻訳家が一生懸命訳して、訳してもらった日本語を、僕らが自分たちなりに解釈していると、「戯曲」の解釈はできても「役割」の解釈までにはたどり着けないんです。

ーーそうなんですね。

成河:その翻訳家によって解釈されたものを僕たちが解釈します、という演劇の作り方ももちろんあります。僕は色々なジャンルの作品をやらせてもらっているので、台本ごと稽古場で作ったりする現場も経験があります。たとえばインバル・ピントさんの現場もそうです。キャスト・スタッフ総がかりで台本というか作品を作っています。戯曲の、あるいは役割の解釈って、それが必要じゃない場所や作り方の現場もあるわけです。そういう現場で僕が開けているチャンネルは、絵梨子さんの現場では開けちゃいけない。解釈をして「役割」に徹して集中していくときには別のチャンネルを開ける必要がある。なので、僕の心がけることとしては、「普段開けているチャンネルを、いかに閉じるか」ということです。そうしないと集中できないものってあるんですよね。

俳優ですから、そのときどきの現場で「もっと役に立ちたい」とか、「もっと、もっと」ってなるんですけど、実際自分が体験して、一つのやり方としてこれだけ信用できるものに巡り会って、そうすると、閉じていいチャンネルが自然と見つかってくるんです。今までもぼんやりと頭では描いていたけど、もうはっきりと自信を持って、「閉じる」みたいな。

※アイデアニュース有料会員限定部分には、演じるにあたって成河さんが心がけていらっしゃることについて伺った内容とお客さまへのメッセージなどインタビューの後半の全文と写真を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)

■成河:個人的な楽しさ以上に、「信じられるものが見つかった」みたいな感覚はデカい

■成河:絵梨子さんは「その役割ってこうなのかな?」ということを、相談して託せる存在

■成河:僕たちはある種、意味をつけられない世界で生きている。それが怖いと思うことも

■成河:「生きていける」。そこをお客さまとシェアしたい 小川:「ダークコメディ」な面も

<『ピローマン』>
【プレビュー公演】2024年10月3日(木)〜10月4日(金)
【東京公演】2024年10月8日(火)~10月27日(日)
公式サイト
https://www.nntt.jac.go.jp/play/the-pillowman/

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(写真左から)成河さん、小川絵梨子さん=撮影:NORI
(写真左から)成河さん、小川絵梨子さん=撮影:NORI

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<筆者プロフィール>達花和月(たちばな・かずき) 遠方の友人を誘って観たお芝居との出会いをきっかけとして演劇沼の住人に。ミュージカルからストレートプレイ、狂言ほか、さまざまな作品を観劇するうち、不思議なご縁でライターに。自らの仕事を語る舞台関係者の“熱”に、ワクワクドキドキを感じる日々。 ⇒達花和月さんの記事一覧はこちら

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最近のコメント

  1. もんろ より:

    成河さんが出ているのとフライヤーがかわいかったので惹かれました。インタビューを読んで少し難しそうですが楽しみです。

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