conSept Musical Drama #7 『SERI~ひとつのいのち』が2022年10月6日(木)から10月16日(日)まで東京の博品館劇場で、 10月22日(土)から10月23日(日)まで大阪の松下IMP ホールで上演されます。同作は「両眼性無眼球症」の子を持つ母である倉本美香さんが出版した『未完の贈り物(2012 年刊)』を原作としています。タイトルロールの千璃役を山口乃々華さんが、千璃の母・美香役を奥村佳恵さんが、父・丈晴役を和田琢磨さんが演じます。7月28日(木)に行われた合同取材会の内容をご紹介します。
■山口:台本を読み進めながら、この家族だったら私も千璃として生きたいなと
ーー台本を読んだ時の印象を、それぞれ聞かせてください。
山口:台本を読んでいる途中から、(母親の倉本)美香の気持ちが自分の中に入ってきて、どんどん私の気持ちも落ちてしまいました。前が見えず、どうすればいいのかわからない。そんな不安もありましたが、台本を読み進めていくうちに、障害とともに生きていく両親の愛を目の当たりにして、この家族だったら私も千璃として生きたいなと思いました。
奥村:実在している人たちの物語であるということが信じられないくらいの衝撃を受けました。正直、私は「両眼性無眼球症」という病気のことも知らなかったので、この物語に圧倒されました。私が演じる美香はいろいろな苦しみを抱えながらも前を向いて闘い続ける人で、本当に強い人です。だからこそ、物語としても成り立つのだと思います。私が同じ立場に立ったときに、果たして同じようにできるんだろうかと思いつつ、そんな果敢な美香をいかに体現するのかというところで、私も台本と向き合い、闘っていきたいなと思っています。
和田:最初に台本を読んだ感想は、両目の眼球がない子どもを持ち、自分では想像ができないくらいくらいの苦しみをご経験されている家族の物語なのですが、その反面、自分の身近にも潜んでいるテーマがあるような気がしました。親の苦悩や、親子の距離感など、そういうところをヒントに物語をどんどん掘り進めていけたらなと思いました。
■奥村:私の体や声で、この作品を皆さまにお届けするという役割なんだと思う
ーー同じ時代を生きている、実在の人物を演じることについてはいかがですか?
和田:ご本人とお会いしたことはありませんが、役者として、ひとつ言えることは台本を信じて真摯に向き合うことが自分の務めだと思っています。多分、皆さんそうだと思うのですが、作品に携わる人間は、悪い作品にしようと思っている人は誰もいない。良いものを作りたいと思って取り組んでいるので、必ずそういった思いがご本人に、また観にきてくださるお客さまにも伝わるのだと信じてやっていきたいなと思います。
奥村:実在の方を演じることについては、やはりいつもと違う意味でドキドキはしております。ただ、演じるのは私ですし、私の体や声で、この作品を皆さまにお届けするという役割なんだと思うんです。台本の中には、しっかりと苦悩や喜びが描かれているので、作品の芯の部分をしっかりと自分で感じながら、みんなで稽古をしていく中で作品の素敵なところを探して、見つけて、それを集めて皆さまにお届けできたらいいなと思います。
山口:私が演じるのは、幼いころの誕生から学校に入るまでの千璃なので、今24歳の私がマイナス24歳の千璃を演じるのはとても難しいなと思っています。今回は、自分にとって本当にチャレンジが多くなりますが、とにかくピュアな気持ちで台本を繰り返し読んで、まっすぐな気持ちで取り組むつもりです。本当の千璃はどうだったか分からないけれど、魂の千璃はきっとこんな感じだったのではないだろうかという想像も含めて描かれているので、その自由な気持ちや豊かな感情を目いっぱい表現できたらと思います。
■和田:子どもに対しての母親と父親の価値観のずれは、身近なテーマなのではと
ーー先ほど和田さんが「身近の自分の近くに潜むテーマでもある」とおっしゃいましたが、具体的に、どういうところがそういうふうに感じたのかを教えてください。
和田:私は未婚で子どもはいませんが、子どもの世話をする時間が長い役割の人と、外で働く人の「もっとこうしてほしい」「私はこう思っている」という気持ちは、私も友人夫婦から聞くことがあります。子どもに対しての母親と父親の価値観のずれは、身近なテーマなのではと思いました。
ーー山口さんと奥村さんも、そのように感じる部分があったら教えてください。
山口:……。
和田:分からないよね。
山口:分かります!(笑)。夫婦でも本当は言いたくても言えなかったり、子どもと向き合っていく時間が増えていく中で、本当に2人の絆もグッと近寄っていったり、子どもが生まれるということは、きっとより問題が増えるとともに、絆も深まるんだなと思いました。
■奥村:会話の中で「あるある!」というざらつきのようなリアリティーを見せれたら
奥村:私も「身近なテーマ」と聞いて、確かにそうだと感じました。夫婦の会話は、本当に夫婦だけの空間の中でやり取りをしているものなので、客観的に見れば人間対人間の本当に小さな世界の中で、「もう、どうしようもないな」と思うようなこともあると思うんです。ミュージカルなので、歌や踊りなどの身体表現もある中で、ショーアップされた部分と、会話の中で「あるある!」というざらつきのようなリアリティーが見せられると、おもしろいかなと思います。
ーー本作品は東京と大阪で上演されますが、それぞれの会場のお客さまの反応の違いは感じられたりするんでしょうか。
和田:大阪に来たから「これやったるで!」みたいなものはありませんが、東京では反応があったところでも、大阪では特に反応がない、などの違いはあるかもしれませんね。
奥村:でも、笑いのシーンに関しては、やはり大阪のお客さまはよく笑ってくれる気はします。笑う準備ができているんでしょうか(笑)。関西のお客さまは、ちょっとしたおもしろさも拾ってくださって、素直に笑ってくださるような印象を個人的には持っていますね。
■和田:笑える部分は、全面的に私が担っている。今、すごくプレッシャーに感じる(笑)
ーー今回の作品では、そういったシーンもあるのでしょうか。
奥村:そこはお父さんが……。
山口:丈晴さんが……。
(会場笑い)
和田:そこは私が全面に担っているんですね。いま、すごくプレッシャーに感じていますが(笑)。内容的にゲラゲラと笑うな作品ではありませんが、ちょっとした緩急としてクスッと笑える部分は台本を読んでいてもあるのかなと思うので。まあ、私の技術次第ですね(笑)。
山口:会場が違えば、きっと感じる空気も違うと思います。私にとってはどちらも(東京の博品館劇場、大阪のIMPホール)初めましての会場で緊張感はありますが、来てくださった方にきちんとメッセージをお届けできるように頑張りたいです。
■奥村:知らない、知っているの差は大きいと思う。この作品を通して、新しい視点が生まれた
ーー身近なテーマでもあるというお話がありましたが、これまでの人生を振り返って、身近な人をきっかけに何か視点や見方が変わたというようなできごとはありましたか。
奥村:やはり知らないことと、知っていることの差は本当に大きいと思うんです。千璃が患っている「両眼性無眼症候群」は目に見える疾患ですが、普段生活している中でも、一見分からなくても、実は通院したり、薬を飲んだりして病を抱えている人もいますよね。健常者として生きていると、身近にそういう存在がいない限り、「こういうときはしんどいかもしれない」という視点を持つことは、なかなか難しいと思います。この作品を通して私自身も、周りの人が協力したり、闘ったりする中で生きている人がいる世界があると知ることで、自分の中に新しい視点が生まれました。
■山口:目が見えない人生を送った祖父。身近すぎて聞かなかったことに、今回向き合えたら
山口:私の祖父はもう亡くなりましたが、目が見えない人生を送った人でした。だから、私にとっては「目が見えない」ということは、とても身近だった反面、当たり前すぎて祖父に「どういうふうに感じているの?」「どうして足音で私が来たとわかるの?」というようなことを聞いたことはありませんでした。祖父の目が見えなくなった理由や、両親にどういう手助けをしてもらっていたか、苦悩している部分を私は知らずに接していたので、改めて今回この障害と生きていくということは、どういうことなのかを本当にしっかり向き合って学べる機会になると思っています。祖父は長い時間を過ごしてきて、自分の中でいろいろと試行錯誤をしていたと思いますが、やはり不自由な部分もあったと思うので、そういうところに私も気づけるようになりたいです。
■和田:感じていたけれど、言葉にできなかったことを家族や周りに言う勇気を与えてくれる作品
和田:私は4年くらい前に、父が100万人に1人という割合の脳の病気になりまして。それまでバリバリ働いていた人が急に働けなくなり、車の運転や自転車に乗ることもだめだと言われて、すごく驚きました。今は普通にひとりで生活をできるくらいになりましたが、父の病気をきっかけに家族と距離が空いてしまうようなこともあったりして、家族はこんなにふとしたことをきっかけに、環境ががらっと変わるんだなと実感しました。私もそういった実体験があり、今まで伏せがちだったことに対して、きっちり目を向ける機会をいただいたような気がしています。この作品は、もしかしたら自分が今まで家族や周りの人に対して、感じていたけれど言葉にできなかったことを言う勇気を与えてくれるような作品だと思います。見に来てくださった方の、そういうきっかけになれば嬉しいです。
■山口:初主演ミュージカル。培ってきたダンスを生かして、千璃の気持ちを拡張して演じる
ーー山口さんはミュージカル初主演ですが、今までの舞台とはまた違うハードルがあると思います。その点に対して、どういうふうに取り組もうと考えていらっしゃいますか。また、魂と実体としての千璃の演じ分けについても、どう感じているか教えていただければ。
山口:初主演のミュージカルですが、今回はセリフがほぼなく、歌も魂の状態で参加するときはありますが、身体的な表現がメインなので、今まで培ってきたダンスを生かしたいと思います。魂と実体の千璃を演じ分けるというよりは、「自由だったらこんな気持ち」のように、千璃の気持ちを拡張して演じるようなイメージですね。まだ稽古が始まっていないので、どうなるか分かりませんが、魂の千璃は解放された状態を表現したものなので、「千璃はもしかしたら、こうだったんじゃないか」という部分を豊かに演じられたらいいなと思います。今までやってきたのはヒップホップが中心でしたが、今回はコンテンポラリーとジャズバレエを基本にした表現なので、私にとってもチャレンジです。
■和田:「重い作品」と感じられるかもしれませんが、希望や救いを見いだせるような作品に
ーー最後に、皆さまから一言ずつメッセージをお願いします。
和田:今回の作品は家族や親子、夫婦の関係性が主なテーマです。物語としては両の目の眼球がない子供が生まれたというところから始まるので重い作品に感じられるかもしれませんが、そういう現実の中から希望や救いを見いだせるような作品にしたいと思います。今回は歌だけではなく、楽器もステージ上に加わって生演奏するステージになりますので、見せ物として、とても華やかな作品に仕上げたいと思っています。ぜひ東京や大阪の劇場に足を運んでいただければ嬉しいです。よろしくお願いします。
■奥村:歌や身体表現、会話劇も。千璃ちゃんの世界観を想像し、豊かな作品の色をお届けしたい
奥村:和田さんもおっしゃったように生演奏があったり、歌や身体表現、会話劇のシーンもあったりと、たくさんの要素が詰まっている作品です。千璃は目がなく生まれてきたので、色という概念がなかったりするんだろうなと想像するんですが、もしかしたら彼女の中には私たちが見ている情報以上に、もっと自由で豊かなのかもしれません。作品を通して、千璃の世界観を想像した豊かな作品の色をお届けできればなと思います。一生懸命頑張りますので、ぜひ見に来ていただければと思います。
■山口:「みんなが生きていられるのは、周りにいる人が支え、愛してくれているからだよ」と
山口:この作品には、「みんなが生きていられるのは、周りにいる人が支えてくれているから、愛してくれているからだよ」というメッセージがあります。今回の作品の中では、障害を持っているからと感じられるかもしれませんが、「本当は誰もが必要で、みんなが生きやすい環境をつくっていきましょう」というメッセージもあります。そんなメッセージを感じに来てもらえたらと思うので、ぜひ劇場に見に来てください。よろしくお願いたします。
<conSept Musical Drama #7 『SERI~ひとつのいのち』>
【東京公演】2022年10月6日(木)〜10月16日(日) 博品館劇場
【大阪公演】 2022年10月22日(土)〜10月23日(日) 松下IMP ホール
公式サイト
https://www.consept-s.com/seri/
出演:山口乃々華 奥村佳恵 和田琢磨
植本純米 小林タカ鹿 樋口麻美 辰巳智秋 内田靖子 ⾧尾純子 小早川俊輔
原作:倉本美香『未完の贈り物』
脚本・作詞:高橋亜子
作曲・音楽監督:桑原まこ
演奏:桑原まこ(Key.)、成尾憲治(Gt.)、山口宗真(Reed)、平井麻奈美(Vc.)
アソシエイト・プロデューサー:川村徹也
プロデューサー:宋元燮
後援:一般社団法人未完の贈物 / 製作支援:杉本事務所
企画・製作:conSept / 主催:conSept、関西テレビ放送
(C)2022,conSept LLC
SERI~ひとつのいのち 関連記事:
- 「無償の愛って」、『SERI~ひとつのいのち』和田琢磨(下) 20220828
- 「最初は“おい!丈晴”とも思った」、『SERI~ひとつのいのち』和田琢磨(上) 20220827
- 「周りの人が支え、愛してくれるから」、『SERI~ひとつのいのち』合同取材会より 20220802