「物語だけど、自分にとても近い話」、『アメリカの時計』矢崎広(上) | アイデアニュース

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「物語だけど、自分にとても近い話」、『アメリカの時計』矢崎広(上)

筆者: 岩村美佳 更新日: 2023年9月14日

アーサー・ミラーの『アメリカの時計』が、2023年9月15日(金)から10月1日(日)まで、KAAT神奈川芸術劇場のメインシーズン「貌(かたち)」の幕開けとして、KAATの芸術監督である長塚圭史さんの演出で上演されます。アーサー・ミラーは世界的な劇作家として知られ、日本でも『セールスマンの死』をはじめ、『るつぼ』『橋からの眺め』『みんな我が子』等、多くの作品が上演されています。1980年に発表された『アメリカの時計』は、同年サウス・カロライナ州チャールストンのスポレット・フェスティバルで初演後、ブロードウェイでも上演されました。ミラー作品のなかでもあまり上演されることがなかった本作では、1929年の世界恐慌を扱ったアメリカ史劇で、株の大暴落により富の頂点にあった“アメリカの貌(かたち)”が脆くも崩れ去っていく姿が描かれています。 今回、50数名に及ぶ登場人物がたった13人の役者で上演される点も、見どころのひとつとなっています。

史上空前の繁栄をとげ、アメリカ人の誰もが、株さえ持っていれば金持ちになれると信じて疑わなかった1920年代のアメリカ。しかしこの状況に疑いを持ったアーサー・ロバートソン(河内大和さん)は、いち早く株から手を引き、親しい者に警告して回るのだが誰も聞く耳を持たないのでした。そして1929年、株式市場を襲った大暴落は、裕福なボーム家にも大打撃を与えていきます。父親モウ・ボーム(中村まことさん)は剛直な実業家であったが、株に打ち込みすぎて、市場の崩壊とともに財産を失います。母親のローズ(シルビア・グラブさん)は、家族が生きるために、宝石類を現金に換える日々。息子のリーは、人々が職にあぶれて飢えていく様を目の当たりにしながら、自身の人生を歩んでいくのでした。アイデアニュースでは、ボーム家の息子、リー・ボーム役を演じる矢崎広さんにインタビューしました。インタビューは上下に分けてお届けします。

「上」では、稽古場でプレゼンテーションをした時のこと、長塚さんの演出やアーサー・ミラー作品への想い、ご自身の役のことなどについてのお話や、どの作品においても役作りのプロセスは変わらないということ、ご自身の中で「ジャンルへの意識は消した」というお話などを紹介します。「下」では、これまでにも何度も共演し、今回は母と息子役を演じることになるシルビア・グラブさんのこと、先日韓国の大学路でミュージカルをご覧になって感じたことなどについて伺った内容と、お客さまへのメッセージを紹介します。

矢崎広さん=撮影・岩村美佳
矢崎広さん=撮影・岩村美佳

――稽古場でプレゼンをしたと伺いましたが、どんなことを発表されたのですか?

歴史背景がすごく重要な作品ですので、最初に俳優同士でそれぞれのテーマを調べていろいろと発表し共有する時間がありました。僕は初めての体験でしたし、しかも自分が発表したということもあり、すごく有意義な時間でした。発表することによって、自分が調べた歴史背景がまた頭に入ってきますし、しゃべることで、「ここの情報が自分は足りていないな、さらに調べよう」という気付きにもなります。いろいろと自分の身になる体験でした。稽古はまだ本読みの段階なのですが、知識があって本読みをすると物語の入り方が全然違うと感じます。こういう体験を通して、役や作品への向き合い方すら、長塚さんに教えていただいているところもあります。

――矢崎さんの発表のテーマが「第一次世界大戦頃の世界の光景」ということですが、そのテーマを初めて聞いたときは、どう思いましたか?

広いテーマだなと思いました。でも広いからこそ、チョイスもいろいろあると思います。

――どう見るか、ということですね。

テーマが「大戦後の世界の光景」だったので、まず大戦がどのような影響を世界に及ぼしたのかを知らないと、その後の光景を探れないと思い、最初にデータとしてどのぐらいの人が亡くなった戦争で、どのくらいの兵力を注ぎ込んで、どのぐらいのお金が使われたのかというところを調べました。調べ出すと、「これだけ使われたからこういうことがあった」というような不満が付随してどんどんついてくるんです。その不満を探ると世界の光景が見えてくるんだなという感じで、調べさせてもらいました。

――大戦が起きたことによる不満からの「光景」ということですね。広がった光景の答えはありますか?

僕が調べた物によると、勝ったイギリスとフランスは、勝つために全力を注いだので、戦勝国のほうがダメージをくらっています。お金も人も注ぎ込んでいるし、イギリスとフランスでは18から25歳の男性が30パーセント減るということがありました。それによって30パーセントの生産層がいなくなって、それが回復したのがほぼ100年後でちょうど今くらいですよ。やっと比率が回復したらしいです。国力としては相当しんどかったんじゃないかなと思います。やっぱり国が回らないとお金が生まれないし、人も活気づかないので。勝った国だけではなく、敗戦国の中心となるドイツもお金の面では激しくやられているんですが、ドイツはその後ヒトラーが率いるナチスが現れるんですよね。だから、ドイツが一番ぺちゃんこになっているはずなのに、その後の第二次世界大戦を見ると、何であんなに勝っていったんだろうという人間の脅威も感じました。

――『アメリカの時計』というアメリカのお話ですが、学んだことと物語とを照らし合わせると、アメリカという国はいかがですか?

アメリカという国は、この第一次世界大戦後にものすごく栄えたというか、バブルを迎えるんですね。それは大戦の参加がそもそもぎりぎりだったからなんです。簡単に言うと、「ぎりぎりに来て、パスをもらって、シュートを決めた」というイメージ。だから被害も少ないし、成果も上げているし、お金の面でも他の国を助けてもいるので、変な話、戦後にそのバックとして、すごく莫大な利益が来るんですよ。兵器もたくさん売っていたので、イギリスも「ありがとう、後で払っとくね」みたいなことをたくさん繰り返して戦争に勝てたんです。アメリカにはものすごいバックがあってお金も入ってきているし、国もやられていない。その結果、アメリカが世界的にナンバーワンになるというバブルが起きて、「この国は終わりがないだろう、この繁栄は一生続くだろう、イェーイ!」みたいな状態のところが、世界恐慌の前です。

――そこから物語が始まるわけですね。

競争の20年代、黄金の20年代、いろんな呼び方がある1920年代なんですが、それが世界恐慌というもので一斉に世界が大不況になるという崩れ方をする。みんながつらい経験をするという作品で、ピックアップする時代としてはとても面白いと思います。

――矢崎さんがいろいろ調べたことや、戯曲、矢崎さんが演じる役を含めて、この作品の面白さをお伝えいただくと、いかがでしょうか?

データ的にはこういうことがあって、世界恐慌が起こり、大統領が変わり、失業者の支援が始まり、国は今ぐちゃぐちゃしている…という時代背景です。いろんな情報がたくさん入ってきて、ファシズムの考えがアメリカまで届いてきたりしていて、今度は第二次世界大戦に向かっていくというタイミングなので、情報としてはとても多いし難しいのですが、突きつめていくと、本当にその時代を生きた人間のお話になっていくし、もっと言えば物語のはずなのに自分にとても近いんです。(周りを示しながら)本当に、この辺の話なんですよ。

まだこの輪っかが自分に触っていないだけであって、いつでもリンクしちゃう世界線になるだろうなという恐怖を感じることもできる、とても身近なお話だなと思います。だからひとたび物語にぐっと入っていただけたら、僕らが今感じている、その時代を生きる人間のすごさとか、こうなっちゃったら怖いなということを同時に体感していただける作品になっているんじゃないかなと思います。

――長塚さんとお話した中で、面白いと思ったことはありますか?

長塚さんのお話は基本的に全部面白いんです。でも今回の作品に関しては、「とても表現の難しい戯曲なので、ぜひとも皆さんと一緒に、いろいろ試しながら作っていきたい」というスタートでしたので、すごく安心しました。長塚さんの中できっちりと決まっていて、「こうでなければならない」ではなくて、いろんな可能性を探りながら、戯曲も直しながら進んでいます。お客さんに演劇を届けるということに、本当に寄り添って作っているなと思います。

――海外戯曲でのストレートプレイは、久しぶりですか?

ストレートプレイでいうと、2年ぐらい前にやった『真夏の世の夢』ぶりだと思います。コロナ中は僕が舞台をやっていなかった時期もあり、最近は劇場に来る度に「あれ? 久し振りだな」と思う感覚が自分でもあって、久しぶりにまたここに立てて嬉しいと思うことが多いです。

――『真夏の夜の夢』は独特な世界観でしたよね。

あれをストレートプレイと呼んでいいのかというのはありますよね。

――今回はいわゆる会話劇だと思いますが、そういう作品でいうといかがですか?

こんなにいろいろと、がちがちにしゃべったりするのは、2015年のシアタートラムで上演した『Shakespeare’s R&J』ぶりになってくるかもしれません。

――この作品のどういうところに惹かれましたか?

第一にKAAT 神奈川芸術劇場で、しかも長塚さんの演出でというところです。僕は長塚さんの演出作品に出演することに憧れも持っていたんです。もうひとつはアーサー・ミラー作品だということはとても大きいです。今、演劇でアーサー・ミラーの作品はすごく増えていて。同時期にアーサー・ミラー作品をもう1本上演しているはずなんですけど、アーサー・ミラーが日本の演劇界にどんどん入ってきているなという中で挑戦できることが嬉しいです。そして、この戯曲に難しさは感じたものの、僕が演じるリー・ボームという役が、割とその時代を生きるお客さんたちを引き連れて行くナレーション的役割があるという役どころにもすごく惹かれました。その3つが大きいですかね。

――矢崎さんにとって、大きい作品になりそうですね。

そうですね。演劇をすごく観ている人ほど、観て欲しいなという作品です。そして、矢崎広という名前で集まっていただけるなら、すごく嬉しいです。

――もしかしたら、ミュージカルを観たことのない方もご覧になるかもしれないですね。

僕がミュージカルをやっていると、ご存じない方もいそうですよね。

※アイデアニュース有料会員限定部分には、どの作品においても役作りのプロセスは変わらないということ、ご自身の中で「ジャンルへの意識は消した」というお話などインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。インタビュー「下」では、これまでにも何度も共演し、今回は母と息子役を演じることになるシルビア・グラブさんのこと、先日韓国の大学路でミュージカルをご覧になって感じたことなどについて伺った内容やお客さまへのメッセージなどインタビューの後半の全文と写真を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)

■統一性のない俳優だと思うけど、煉獄杏寿郎もリー・ボームも、作る過程は一緒

■毎回いろいろ調べて役作りを。ニース・ヤングも原作や韓国のミュージカルを研究

■ジャンルへの意識は、『ミュージカル テニスの王子様』の次の舞台くらいで消した

■「2.5次元の子」「ミュージカルの人」など、レッテルを貼られることと戦ってきた

<KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『アメリカの時計』>
【神奈川公演】2023年9月15日(金)~10月1日(日) KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
公式サイト
https://www.kaat.jp/d/the_american_clock

■アフタートーク開催決定
・2023年9月20日(水)14:00開演公演終演後
トーク出演:シルビア・グラブ、中村まこと、大谷亮介、長塚圭史(演出・KAAT神奈川芸術劇場芸術監督)
・2023年9月25日(月)14:00開演公演終演後
出演:矢崎広、河内大和、天宮良、長塚圭史(演出・KAAT神奈川芸術劇場芸術監督)
※アフタートークは当日のチケットをお持ちの方のみ参加できます。

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矢崎広さん=撮影・岩村美佳
矢崎広さん=撮影・岩村美佳

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<筆者プロフィール>岩村美佳(いわむら・みか)  フォトグラファー/ライター ウェディング小物のディレクターをしていたときに、多くのデザイナーや職人たちの仕事に触れ、「自分も手に職をつけたい」と以前から好きだったカメラの勉強をはじめたことがきっかけで、フォトグラファーに。「書いてみないか」という誘いを受け、未経験からライターもはじめた。現在、演劇分野をメインに活動している。世界で一番好きなのは「猫」。猫歴約25年。 ⇒岩村美佳さんの記事一覧はこちら

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最近のコメント

  1. りん より:

    アメリカの時計でナレーション的役割のリーを演じられるとのことですが、演劇に感じて矢崎さんが私の水先案内のように世界に誘ってくれる存在です。いつも濃い内容のインタビュー記事をありがとうございます。ジャンルに囚われない広い世界をこれからも観ていける幸せを感じています。

  2. とろろ より:

    長塚さんとのお仕事をずっと熱望されていたのですね。今回念願叶いしかも主演舞台なんて!都内から横浜へお稽古への長距離移動大変だったと思いますが、舞台でその結果を観られるのが楽しみです。

  3. たま より:

    これまでお芝居を続けてこられた中での葛藤や決意、今作の現場の雰囲気や意気込みなどなど。普段、矢崎さんの口からはなかなか聞くことのできないお話もたっぷり聞かせて頂き、とても有難いインタビューでした。お写真もかっこいい!素敵な記事をありがとうございました(^^)

  4. ひろしごはん より:

    アメリカの時計についてのお話はもちろん、ジャンルを超えた演劇に対する矢崎さんの思いや、韓国でのお話が聞けて嬉しかったです。矢崎さんの魅力を引き出して下さる岩村美佳さんのインタビューとお写真も最高です!

  5. かっち より:

    矢崎さんのお芝居への真摯な姿勢と、言葉を大切に選択しながらお話されるインタビューにいつも元気を分けてもらっています。
    アメリカの時計、いよいよ初日を迎えますね。楽しみです。

  6. りん より:

    アメリカの時計について、矢崎さんの役や作品にへの向き合い方などお聞きしたかった話ばかりです。
    読み応えのある記事と素敵な写真をありがとうございます。
    岩村美佳さんの写真と記事が大好きなのでとても嬉しいです

  7. のり より:

    岩村さんの記事はちゃんと矢崎さんの今までの経歴をふまえたうえでインタビューしてくださっていて踏み込んだ内容なのでとても読み応えがあります。写真もどれも素敵なものばかりで大好きです。

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