2023年2月5日(日)に東京・新国立劇場中劇場で千穐楽を迎えたミュージカル『キングアーサー』が、2月11日(土・祝)から2月12日(日)まで群馬・高崎芸術劇場大劇場で、2月24日(金)から2月26日(日)まで兵庫・兵庫県芸術文化センター KOBELCO大ホールで、3月4日(土)から3月5日(日)まで愛知・刈谷市総合文化センターアイリス 大ホールで上演されます。
アイデアニュースでは、公演開幕後にランスロット役の平間壮一さん(太田基裕さんとダブルキャスト)と、マーリン役の石川禅さんにそれぞれインタビューしました。当初はお二人の対談を予定しておりましたが、スケジュールの都合により、それぞれのインタビューとして「上」「下」に分けて掲載します。
「上」ではまず、石川禅さんのインタビューをお届けします。この作品のベースとなった「アーサー王伝説」のこと、伝説には書かれていないこの作品ならではの物語のこと、「想像力を逞しく」してマーリンという役を演じていらっしゃる理由について、『レディ・ベス』で初めて共演された平間さんのこと、若い世代の成長についての想いなどについて伺った内容を紹介します。
「下」では平間壮一さんのインタビューをお届けします。ランスロット役を演じながら感じていること、ランスロットの心境のこと、石川禅さんのこと、ミュージカル『ヘアスプレー』を終えて反省しているというお話や、橋本さとしさんからの言葉のことなどについて伺った内容と、お客さまへのメッセージを紹介します。
ーー公演が始まって、いかがですか?
お客様が喜んでくださってるのを、とてもありがたく感じています。
ーー舞台上で、みなさまの反応を感じていらっしゃるんですね。
はい。演出のルピナさんから言われてもいるのですが、ケイ役のみっくん(東山光明さん)と一緒に、笑いを生ませなければならない使命のある役どころなので、お客様の反応が割とダイレクトに返ってくるんです。いただく拍手によって、ちゃんと見てくださってるなと感じますし、あとは、カーテンコールの反応ですよね。
ーーメイクにはちょっとラメが入っていたり、扮装・お芝居・お客様とのコミュニケーションなど、結構いろいろな要素があるかと思うのですが、一番大事にされてきた部分や、演技プランなどをお聞かせいただけますでしょうか。
このフレンチミュージカルは、「アーサー王伝説」を元にした創作劇ですが、元の伝説からもかなり逸脱した物語になっています。そもそもメレアガンは、伝説には登場しない人物です。そしてマーリンが、アーサーの父親であるユーサー王を導いて変身させ、モルガンのお母さんと契りを結ばせたことで、アーサーが生まれてくるという筋は伝説にも出てきますが、そのことによって、マーリンとアーサーへのモルガンの恨みがメインの物語になっていくという流れは伝説にはない描写です。
僕が参考にした「アーサー王伝説」の資料には、アーサーの母親(イグレイン)の前夫(コーンウォール公ゴルロイス)の子供としてモルゴースとモーガン・ル・フェイ(またはモルガン・ル・フェイ)という姉妹が登場します。モーガン・ル・フェイは成長と共に邪悪な魔女に変身すると記されていますが、アーサーの死期が近付くと一変、彼を手厚く看護する聖女に変わります(笑)。恐らくこの女性がミュージカルのモルガンのモデルだと思うのですが、実はアーサーの子供を宿すのはモルゴースなんです! しかもアーサーが自分から彼女の美しさに魅了されて求愛します。
一方モルゴースは、彼が弟だと知りながら身籠ります。モルドレッドはモルゴースから生まれるんです。(物語によってはこの姉妹が同一人物として描かれているものもあるようですが、いずれにしてもグィネヴィアに化けたモルガンがアーサーの子を身籠るという筋は創作です。)物語の冒頭、ドラゴンが、イグレインを陵辱したユーサー王とマーリンの罪で混乱する王国を救うために、王の息子を探せと告げるエピソードも創作です。アーサーを王室から遠ざけたのはマーリン自身で、彼はアーサーの居場所を知っていますから。
ということはマーリンがドラゴンを崇めることも、ドラゴンの許しを得て妖精の世界に帰るのも創作ということになります。時代背景などもあるかもしれませんが、「アーサー王伝説」そのものがケルト神話の流れを汲んでいて、そもそも、神話に近い話なのかなという気もするんですよね。日本もそうですが、神話の世界って、そういう今の倫理では考えられない話がすごく多いじゃないですか。
ーー確かに、ギリシャ神話などにもありそうな話ですよね。
そうです。そういう神話的な世界観の中に、「もしも人間の感情で考えたとしたら、モルガンはこういう想いなのでは」という創作によって、この物語は生まれているんだと思うんです。しかも、伝説の中では、マーリンはどこぞの高貴な女性と、夢魔の間の子どもで、人間界で育った存在として描かれています。でも、このミュージカルでは、マーリンは妖精なんです。
フランスでは、「アーサー王伝説」は、観に来られるお客さんそれぞれの中に、「こういう話」という、DNAにも組み込まれているくらいの文化的土壌があるので、「この話を、こんなふうに作り変えたんだ!おもしろい」という感じで、このミュージカルは観られるエンターテインメントなんだと思います。
フランスでの上演映像を少し拝見したのですが、まるでシルク・ド・ソレイユみたいなんです。床に仕込まれたトランポリンで壁を登って行ったり…。すごく視覚的に楽しめる、ショーアップされたエンターテインメント作品という雰囲気なんです。おそらく、ルピナさんが韓国でこの作品を上演される際に、「アーサー王伝説がDNAに入っていない」場所で、どうやってわかりやすくみせるかを考えて、台本にちょっとずつ手直しなどをされて。それが、今日本で上演されているミュージカル『キングアーサー』なんです。
ですが、分かりやすくなった分、日本のお客さまがご覧になると、辻褄が合わないと感じるところも出てきちゃったりもするんです。今お話しした、「モルガンがアーサーやマーリンに恨みを持っている」というところも、伝説を知っている方は「こういう風に変えたんだ、面白い」と思えるのでしょうが、日本だときっと「マーリンってひどいやつだな」という見え方になるんですよね。そのあたりが、フランスと日本とで、やっぱり一番大きく違うところだと思います。
ーーでも、そこを見せなければいけないんですものね。
そうなんです。一番救いになっているのは、多分、「妖精さん」という設定ですね。人としての人生を少年時代から歩んできた者ではなく、「妖(あやかし)のもの」という存在なので、「人外には倫理は理解できないか」みたいなところで納得してもらうという目論見が隠れている気がします。。もっと飛躍させた考えとしては、「人間なんて滅んでしまえ」と思っていた妖精もいたと思うんですよね。
というのも、当時は乱世です。国取り合戦みたいな凄まじい時代だったでしょう。血で血を洗い、私利私欲のために命を奪い取るということをしていた生き物ってたぶん、人間だけだったのではないでしょうか。伝説の時代から1000年以上が経った今でも、人類は同じことをしています。私欲のために命を奪い、森を切り拓いて何をするのかといったら、人を殺す武器を作る。妖精の立場から人類を見ると、もしかするともう滅んでしまえと思う連中かもしれない…という見方もできるのではと思います。元の伝説とは随分離れたアプローチですね?でも僕は「原作がこうだから、こういう演技になりました」は、してはいけないと思っています。原作を知らずに舞台を御覧になったお客様に、その言い訳は通用しないからです。「台本に書かれていることが全て」です。ならば台本から空想の翼を広げて、こんな突飛な発想も膨らませてみました。
僕の想像の中だけの話なのですが、マーリンは、ドラゴンに「あの一帯は争いごとをしていて、黙って見ていられないから制してこい」と言われて、「え!? 私が行くんですか?」と遣わされて行ってみると、「人間って、実際に触れてみると意外とハートフルなところもあるな」とか。そこで出会ったユーサーは、なかなか優秀で、「コイツに国を統治させたら、全て治るんじゃないかな。じゃあこいつを王にしてみよう」と、ドラゴンに提案して、「じゃあ、王にしてこい」と言われて。「ユーサーが、好きだって言うから叶えてあげよう」って加担して、アーサーが生まれたみたいな。
※アイデアニュース有料会員限定部分には、「想像力を逞しく」してマーリンという役を演じていらっしゃる理由について、『レディ・ベス』で初めて共演された平間さんのこと、若い世代の成長についての想いについて伺った内容などインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。12日掲載予定のインタビュー「下」では、平間壮一さんのインタビューの全文と写真を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)
■自分が納得してマーリンという役を演じ、真実として伝えるために、想像力を逞しく
■ルピナさんの「物語を伝えたい」という想いを汲んで生まれた、今のマーリン
■『レディ・ベス』のときから、平間壮一は光っていた。今は「末恐ろしいな」と
■若い世代の成長は頼もしい。一緒に仕事をしていく仲間だなという意識で見ている
<ミュージカル『キングアーサー』>
【東京公演】2023年2月5日(日)まで 新国立劇場 中劇場(※1月17日より開幕)
【群馬公演】2023年2月11日(土・祝)~12日(日) 高崎芸術劇場 大劇場
【兵庫公演】2023年2月24日(金)~26日(日) 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
【愛知公演】2023年3月4日(土)~5日(日) 刈谷市総合文化センターアイリス 大ホール
公式サイト
https://horipro-stage.jp/stage/kingarthur2023/
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役者さんてここまで考えて、1つの役を作っていくのですね。読んでいて感動してしまいました。だからこそ舞台上で、創作ではあるけれど真実を観ているような感覚になるのだなと思いました。石川禅さんのこういったインタビューは貴重な気がします。読み応えのある素敵なインタビューをありがとうございました!