ブロードウェイミュージカル『カム フロム アウェイ』が、2024年3月7日(木)に開幕しました。3月29日(金)まで東京・日生劇場で、4月4日(木)から4月14日(日)まで大阪・SkyシアターMBSで、4月19日(金)から4月21日(日)まで愛知県芸術劇場 大ホールで、4月26日(金)から4月28日(日)まで福岡・久留米シティプラザ ザ・グランドホールで、5月3日(金・祝)から5月4日(土)まで熊本城ホール メインホールで、5月11日(土)から5月12日(日)まで群馬・高崎芸術劇場 大劇場で上演されます。
トニー賞、ローレンス・オリヴィエ賞、ニューヨーク・タイムズ紙の批評家賞をはじめ、数々の演劇賞を受賞し、日本初演となる本作は、2001年9月11日の同時多発テロの裏で、カナダにある小さな町・ニューファンドランドで起きた驚くべき実話を基に生まれた作品です。12人の出演者が100人近くの役を次々に演じ、それぞれのドラマが交錯しながら、開演と同時に一気に展開されていく濃密な100分間の物語です。音楽と共にスピーディーに伝えられる5日間の物語を通して、人種、国、宗教を越えて生まれる希望の光が届けられるでしょう。
安蘭けい、石川禅、浦井健治、加藤和樹、咲妃みゆ、シルビア・グラブ、田代万里生、橋本さとし、濱田めぐみ、森公美子、柚希礼音、吉原光夫(五十音順)の12人のみなさまと、スタンバイとして上條駿、栗山絵美、湊陽奈、安福毅(五十音順)の4人のみなさまで構成されるカンパニーです。アイデアニュースでは、浦井健治さん(ケビンT&その他)、加藤和樹さん(ボブ&その他)、田代万里生さん(ケビンJ&その他)にインタビューしました。インタビューは上下に分けてお届けします。
「上」の無料部分では、2月末頃の稽古の中で感じていることについてお話ししてくださった内容を、有料部分では、「あなたはどうですか?」という問いについてのそれぞれの思い、作品を通して感じる「今も続いている」という感覚についてのお話を紹介します。「下」の無料部分では、稽古が佳境に入っているタイミングで感じていること、この作品をご覧になるみなさまにお伝えしたいことなどについて伺った内容を、有料部分では、みなさんそれぞれにとっての、「人と人との出会い」についてお話ししてくださった内容を紹介します。
(※2月末にインタビューしました)
ーー稽古は、何回くらい通されたんですか?
田代:通常の他の作品であれば稽古場での通し稽古は2〜3回ですが、今回は10回以上だと思います。
浦井・加藤:そうだよね。
加藤:最初の「通っちゃった」回も含めるとそうだね。毎日通しだから。
田代:開幕の3週間前には、もう通し稽古をしていたってことだよね。
ーーその段階で通しができる現場は、少ないのかなと思いますが。
3人:ないですね。
ーーこの段階で、10回も通せているということについては、いかがですか?
加藤:やっぱり、通さないとわからないというか。どこでミスしているのかとか、全体の繋がりなど、バラバラにやると逆にわからなくなるところも、正直あるかと思います。
田代:スタンバイキャストの方もそれぞれ3役ずつ全部通してくれたので、いろんな組み合わせでできたことも、すごく大きいですね。
ーーこれだけ通して、すぐにできそうな手応えですか? それともまだまだな感覚ですか?
田代:まだまだブラッシュアップ出来るところはありますね……。
加藤:通しだからこそ、見えてきたこともあります。音楽的なことや一体感ですね。自分は体に入っていても、それがみんなとずれてしまうと、このメンバーでやってるからこその良さでもありますが、個々が立ちすぎてしまうんです。大きな1つの「個」で見たときにという観点がありますね。
浦井:本当にみんなで合わせることがここまで必要な作品って、なかなか珍しいというか。客観的に見ていても、全員で統一しないとお客様にメッセージが伝わらないと思うんですよ。100分間集中するって、半端ないなと思います。
田代:集中力、大事だね。休憩がない一幕ものだし。
加藤:本当に。今日は万里生さんが前から見て、スタンバイキャストが入って通しをやりました。通しの後で万里生さんがおっしゃっていたのが、出演者のみんなが思っている以上に、セリフを発していない人物の存在の仕方がとても重要だということ。
田代:意外とメインで喋っている人以外にすごく目が行くから、気が抜けてしまっている人がいると、せっかく演劇の集中力が上がっているのが、逆に台無しになって勿体ないと思ったから、自分も肝に銘じました。
ーー客観的にご覧になったからこそ見えたことなんですね。皆さんもそれぞれ、前からご覧になったんですか?
3人:はい。全員、順番に見ました。
田代:むしろ、周りが集中していると、メインの人が力を抜いていても、緊張感がすごく生まれるんです。フォーカスが当たってないと思われるシーンが、とても大事だなと思いました。ずっと舞台に出ているだけに。
加藤:なるほどなと思いました。
浦井:あとは、余計な感情を入れない。
田代:うん。入れすぎない。とにかくシンプルに。
浦井:トゥーマッチになってしまうんです。そうじゃなくて、失礼のないようにメッセージを伝えることが大切だなと。
田代:それくらい、作品の完成度が高いというのはありますよね。色をつけると、伝えたいことがブレてしまうというか。
ーー「12人が、一体となる」みたいな感じですか?
加藤:もちろん一体感もありますけど、やっぱりそれぞれの役割があるので、本当にみんなでベースを支えて、「今はこの人がメイン」という感じです。
田代:個性を出そうとか、歌とか芝居の技術をひけらかそうとした瞬間に、いろんなバランスが崩れてしまうんです。シンプルにその役として存在してこそ、そこから滲み出るものがあるじゃないですか。そこが多分この作品を、このキャストで届ける魅力でもあると思うから、「何か出そう」「演じよう」と思ったり、「歌おう」とすると、作品の核がブレていくんです。だから余計に淡々と、表情、セリフ、歌が続くほうが、メッセージや感情がより伝わり、逆に個が立つような気もしてきました。
浦井:振付補のジェーンが、ブロードウェイ版のスタンバイキャストだった時に、数日前にオファーがあって出演してくださいと言われたり、今回の日本公演のスタンバイキャストがすぐにやれるぐらいに、「全員がステージングにはまれば、それで成立する作品」と言っていて。それを肝に銘じないといけないなと思いました。
ーーそれは皆さんのキャリアの中で、初めてのご経験ですか?
3人:初めてですね。
浦井:日本では少ないと思いますね。
加藤:レプリカなので、やっぱり自分たちが合わせにいく感覚です。だから「自分はこう思うから、こう芝居しよう」というところが、本当に不必要で。もちろん役作りや、それぞれがベースで作り上げてきたものはありますが、「それを出しすぎるとうるさいな」とか、「今はその感情が邪魔だな」とか、そういうふうに見えるのを、僕も客観的に観て感じました。逆に、本当に熱くならない方が、お客さんは物語の中に入れると思います。
田代:そうかもね。
加藤:多分、誰かひとりに感情移入するという感じではないから。そこはやっぱり、結構特殊な作品だなと思いますね。
浦井:実話であり、物語じゃないっていうのが大きいね。
加藤:それが大きいかもしれないですね。
田代:うんうん。
浦井:そして、過去じゃない、悲しみだということ。
田代・加藤:そうだよね。
ーー先日、石川禅さん、咲妃みゆさん、シルビア・グラブさん、橋本さとしさんの座談会をさせていただいた時に、シルビアさんが「小劇場でやるような演出方式だから、演劇を楽しめる人たちにとっても、すごく面白いものではないだろうか」とおっしゃってたんです。
加藤:すごくわかります。
ーー例えば「誰々を観たい」ではない、作品全体の魅力みたいなところを、ぜひ皆さんに伺いたいなと思っているのですがいかがでしょうか。
加藤:変な言い方ですけど、全員主役だし全員脇役なんすよ。だから本当に「誰」とかじゃなくて「みんな」。他のミュージカルだったら、「見せ場になるシーンはどこですか?」とよく聞かれますが、今回は、この物語そのものが、本当に1個の大きなシーンなので。何と言えばいいのかちょっとわからないですが、多分それぞれのファンのみなさんもびっくりすると思います。
ーー「こういう〇〇さん、こういう作品は観たことがない」みたいなことですか?
加藤:芝居しているようで、してないときもありますし。「今回、どういう芝居をするんだろう?」という期待感は、あまり持って来ない方がいいかもしれません。
田代:普通、この役はこの人じゃなきゃダメ、というのがあると思いますが、それとは真逆な作品なんですよね。だからこそ、スタンバイキャストとスイッチしても違和感がないように作られているのも面白いし、だからといって軍隊的になっているわけじゃなくて、すごく滲み出るものがいっぱいあります。そして、観客のみなさんが想像することも多いんですよ。
僕らが過度に表現しすぎず、でも情報と動き、言葉、音楽を伝えるだけで、お客さんの中では、いろんな物語がカオスに、同時進行していく。でも想像しながら目の前で演じている役者さんよりも気持ちがいっぱいになっちゃうようなシーンもあるかもしれない。
それは、脚本・音楽・歌詞をご夫婦で作られたからかなと思います。クリエイターが分かれていると、なかなかこういう作品にならないと思うんですよ。あくまでもコアなクリエイターが、少ない人数で、なおかつ家族で作られていて。
周りから見たら尖った作品にも見えるけど、お二人としては、「いや、これがやりたかったんだ」っていうものになっているし、あまり見たことがない演出ですし。だからこそ、この演出がトニー賞を獲っているのだと思いますし、僕らも新鮮な気持ちで向き合っています。
加藤:めちゃくちゃ楽しいですよ!
田代:その楽しさを言語化するのがすごく難しいんです。でも、劇場マジック、演劇マジックの100分間を、この12人を中心に最後の一瞬まで生ききったときの達成感みたいなものがあるんです。物語としての達成感もありますが、演劇としての達成感をも、お客さんも役者も感じる。この作品の作り方として、それが半分混ざってるような感じがしますね。
浦井:うまく言葉で表現するのは難しいのかもしれないんですけど、シーンが主役で、それが100分間続くんです。人生もしくは人間の愛と関わり合いの、未来へのタクシーというか。シーンの中で、いろんなもの、今を生きている人たちが描かれていて。だから誤解を恐れず言うと、「シーン」を見ていないと、言葉に置いていかれる可能性は高いです。
ーー例えば、誰かを追って観ていると、置いていかれるみたいな?
田代:そうかもしれないですね。
浦井:全員に意味があるので特定の人を見ていると、他の情報がお客様に入ってこない場合があるかもしれないですね。だから、「100分間、もしくは9.12からの5日間が、どのように?」というところを一度見失うとすると、「あれ? なんだっけ?」となって、言葉について行けなくなる可能性が生まれる気がしますね。
ーーブロードウェイの映像を拝見しましたが、スピード感がすごいですよね。
田代・加藤:やばいです、本当やばい。
ーー特に字幕で見ていると、画像と字幕を交互に見ることで忙しくて。
田代:しかも字幕で書ききれていない、歌詞とセリフがあるんです。同時進行しているシーンでは、多分どちらかしか字幕になっていなかったりもするので、もっと複雑ですね。
加藤:重なっている部分もあるもんね。いろんなことが一斉に起こったりするから。
ーー逆に言うと、100分だから見れるということもあるんでしょうね。これが3時間続いたら……。
加藤:きついですよね。
ーーお客様も100分間集中すると、先ほどおっしゃったみたいに、一緒にゴールに辿り着いたという達成感がありますね。
田代:そして、この作品は基本的に拍手をほぼさせないんですよ。拍手できるシーンが、3ヶ所しかないんです。オープニングと、スクリーチという真ん中あたりのドンチャン騒ぎのところと、フィナーレのみ。めぐさん(濱田めぐみさん)のソロもありますが、あえて絶対拍手させないセリフやタイミングが差し込んであって。多分みんな、拍手したいけどできない。このもどかしさが、最後に「うわー!!!」ってなるところも、よくできているなと。
加藤:タメて、タメて、最後でね。
田代:幕間にお客さんがお互いに感想を言い合えないのも面白いなと思って。最後まで誰ともシェアできずに、自分の中の「何だろう? すごい! 何これ!?」という思いを最後まで誰ともシェアできず、他者からの影響には捉われずに自分だけの自由な発想や受け止め方を、終わってから初めて話せる。それも、一幕ものの面白さかなと。
浦井:(吉原)光夫さんが、「あなたはどうですか?」という問いがお客さまに投げかけられるとおっしゃっていて。その言葉は印象的でしたね。
※アイデアニュース有料会員限定部分には、「あなたはどうですか?」という問いについてのそれぞれの思い、作品を通して感じる「今も続いている」という感覚についてのお話などインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。24日掲載予定のインタビュー「下」の無料部分では、稽古が佳境に入っているタイミングで感じていること、この作品をご覧になるみなさまにお伝えしたいことなどについて伺った内容を、有料部分では、みなさんそれぞれにとっての、「人と人との出会い」についてお話ししてくださった内容などインタビューの後半の全文と写真を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)
■田代:完結させず、考え続けることが大事 浦井:「今も続いている」という感覚
■加藤:「終わった物語」を語るのではない。我々がリアルタイムで感じなければ
■加藤:演劇的な括りでは「群像劇」かもしれないけど、「劇」ではないような
■浦井:「今も」というエネルギーが 田代:映像ではできない、演劇ならではの作品
<ブロードウェイミュージカル『カム フロム アウェイ』>
【東京公演】2024年3月7日(木)~3月29日(金) 日生劇場
【大阪公演】2024年4月4日(木)~4月14日(日) SkyシアターMBS
【愛知公演】2024年4月19日(金)~4月21日(日) 愛知県芸術劇場 大ホール
【福岡公演】2024年4月26日(金)~4月28日(日) 久留米シティプラザ ザ・グランドホール
【熊本公演】2024年5月3日(金・祝)~5月4日(土) 熊本城ホール メインホール
【群馬公演】2024年5月11日(土)~5月12日(日) 高崎芸術劇場 大劇場
公式サイト
https://horipro-stage.jp/stage/comefromaway2024/
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怒涛の100分間でした。何度も息をのみ、緊張し、笑い、涙し、気づけばエンディング。凄い、としか言えない舞台でした。
こんな舞台は観たことがありません。もう一度見に行きます。
最後まで皆さんが無事に生ききってくださることを願って、いえ、祈っています。