岸田國士戯曲賞受賞の劇作家・山本卓卓さんによる新作書き下ろし音楽劇『愛と正義』が、2025年2月21日(金)から3月2日(日)まで神奈川芸術劇場 中スタジオで上演されます。人を助けるヒーロー達の物語を、演出:益山貴司さん、音楽:イガキアキコさん、振付:黒田育世さん、出演は、主人公コチ役:一色洋平さん、コチの妻ソチ役:山口乃々華さん、コチの相棒カレ役:福原冠さん、カレのパートナー、カノ役:入手杏奈さん、コチのいとこであり、後にコチと敵対するウチ/アク役:坂口涼太郎さん、大江麻美子さん(BATIK)、岡田玲奈さん(BATIK)のみなさんがお届けします。
アイデアニュースでは、主人公コチ役の一色さんにインタビューしました。インタビューは上下に分けてお届けします。「上」では、はじめて山本卓卓さんの作品に触れた時の思い出や、益山さんの演出と稽古場の様子、山口さんの印象などについて伺った内容を紹介します。「下」では、共演の福原さん、入手さん、坂口さんの印象と、『朝日のような夕日をつれて』の思い出、今年はどんな1年にしたいかということなどについて伺った内容とお客さまへのメッセージを紹介します。

――音楽劇『愛と正義』へのご出演は、いつ頃決まりましたか?
昨年(2024年)の夏前ぐらいで、小沢道成くんと『漸近線、重なれ』を創っていたころだったと思います。確か最初は「音楽劇」というサブタイトルはなかったような…。しばらくして頂いた企画書を見て「音楽劇になったんだな」と思った印象があるので、段階を経てそうなったのかなと思います。
――その時は、作品についてどのような情報がありましたか?
「こんなことを考えています」という、山本卓卓さんのプロットを読みました。それだけではどんな物語になるかはわからなかったんですが「面白そうだな」という匂いはすごくしました。それというのも、僕が最初に山本卓卓さんの作品を観たのが、水天宮ピットであった『20年安泰。』(2011年)という演劇の企画でしたね。
これから20年先も安泰だろうと思われる劇団が集まって、オムニバスを披露するというもので、その中に、卓卓さんの「範中遊泳」の作品もあって、観たときに「面白いな」と思ったんです。卓卓さんは、ご自身のことを「詩人」とおっしゃっていて、それは当初からすごく感じました。あとは視覚的にもとても演劇で遊ばれる方で、その当時、僕は早稲田の演劇研究会に所属していた頃だったので「演劇にはこんな可能性もあるんだ」ということを、戯曲の面でも教わりましたし、視覚的な演出の面でも教わる時間になったんです。
その時から卓卓さんの世界観には触れていたので、企画書を読んだとき「面白いだろうな」と。いただいたのはプロットというよりは「卓卓さんの脳みその断片のようなキーワードたち」みたいな感じでした。実際にお会いしてみるとやっぱり卓卓さんは「僕は詩人です」っておっしゃって「どちらかというと物語を書くというよりは、脳みそでスパークした詩を吐き出しているに近いんです。だから書きあがった後『なんで僕はこれを書いたんだろう?』って思うことが多々ある」っておっしゃっていて、それは「範中遊泳」の劇団員でいらっしゃる福原冠さんも「そういう人だから」とおっしゃるので、その企画書の作り方に、いろいろ合点がいきました。
――「物語を書くというよりは、詩を吐き出している」というのはとても興味深いですね。
僕の中では、一緒にものを作る感覚として「串田和美さんに近いかな?」という思いがあります。遊びながら作っていったり、イメージをみんなで共有して、「しっかりした言語化は、あまりしたくない」みたいなところであったり。多分卓卓さんは、お客さまにそれをそのまま投げて、お客さまが楽しんだり、違和感を持ったりというのを、そのままこちらも楽しむ、みたいなのがお好きだろうなとすごく感じますね。
――とても面白そうですね! 演出の益山貴司さんとも、今回がはじめてですか?
はじめましてですがお芝居を観ています。『逐電100W・ロード100Mile(ヴァージン)』(2014年)という作品を、あうるすぽっとで観たのが最初だったと思います。いろいろ挑戦的な演劇をたくさんされていて、100人でマクベスをやったり(100人芝居シリーズ『マクベス』2017年)、すごく「面白い企画を思いつかれる方」という印象でした。益山さんの作品は「視覚の記憶」にすごく残りやすいと思っていたんですけど、今回稽古に入って益山さんが「僕は視覚で作るタイプの演出なんです」とおっしゃっていて合点がいきました。卓卓さんが書かれたすごく詩的な戯曲を、益山さんは「あくまで僕はこれをエンターテイメントにしたい」という第一義があるようなので、だからその掛け算は面白いと思ったし、今回はどちらの魅力もすごく納得して、再確認させられた部分が大きい気がします。
――山本さんの独特の世界観を、益山さんがきっちりと視覚に落とし込んでくださる感じになりそうですね。
だから多分、必然的に舞台装置も遊びがいのあるものになさっていて、僕は「おもちゃを多めに買っといた」みたいな感じがすごくするんですよ。最初から全てのビジョンがあって「こういうものがあれば作れる」というんじゃなくて、益山さんもすごく手探りな感じが……。益山さんを僕らは「ボス」って呼んでるんですけど(笑)。小学生の頃から、あだ名が「ボス」だったらしくて。確かに風貌的にボスなので「すごいわかるなー」と思って。
――そうなんですね(笑)。
その「ボス」もすごく手探りで、「卓卓さんの作品を遊びたい」というのが大前提として「でも、どんなおもちゃで遊べるかわからない。だから、とりあえずおもちゃは多めに用意しとこう」みたいな感じがあります。今回の舞台装置は「最低限」にも見えるし、「遊ぶおもちゃがいっぱい」にも見える。使い方によってはそういう両極面があるような気もします。
だから今僕らは多めのおもちゃで遊んでいて、今日の稽古も結構「遊ぶ」のが中心で、立ち稽古で台詞をバーっと読むというよりは、「ここを皆でどう立ち上げようか?」ということに、ほぼ時間を使う予定なんです。この間もそういう稽古があったんですけど、それがめちゃくちゃ面白い(笑)。
――先日Xに「全員で舞台装置使って遊ぶ」とポストされていましたね。ワークショップのような稽古を想像していました。
例えば「ここにあるもので、どうやったら公園が表現できるだろう?」と。これはよくあるワークショップだと思うんですよ。でもそこから結構、キーワードにあるように「ヒーロー」が出てきたり、SFで特殊な世界観だったりするので「このヒーローたちの特殊なアレコレを、ここからどう表現しよう?」とか、「次は舞台をまっさらにして、物をなくしたいんだけど、みんなだったらどうやって転換(セットを変えること)する?」とか。
「やっぱりただ捌ける(舞台上からなくなること)だけじゃ物足りないから、プラスでダンスを~」とか。ダンサーである大江麻美子さんと岡田玲奈ちゃん、お2人の身体性もあるので、「だったら、次のシーンで風が出てくるから、このシーンでお2人に風になってもらえれば、次のシーンで風として出てきてもらうのに違和感はないよね」とか。
――ワークショップの手法で、直接シーンを組み立てていくんですね……!
そうそう。戯曲の前後を考えながら遊ぶみたいな。だからもう頭も体も使って、終わるとお腹ペコペコになるから、ケータリングのお菓子の減り方が尋常じゃなくて、僕と坂口涼太郎さんで「もうお菓子がないです! もう大阪万博のクッキー1個しかないです!」みたいな状態がありました(笑)。稽古で脳みそはめちゃくちゃ使うんですけど、それを山口乃々華ちゃんが「面白い」って言いながら前のめりで参加されていたのがすごく印象的でしたね。
※アイデアニュース有料会員限定部分には、益山さんの演出と稽古場の様子、山口さんの印象について伺った内容などインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。19日掲載予定のインタビュー「下」では、共演の福原さん、入手さん、坂口さんの印象と、『朝日のような夕日を連れて』の思い出、今年はどんな1年にしたいかということについて伺った内容とお客さまへのメッセージなどインタビューの後半の全文と写真を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)
■「どうする?」と投げかけられる前に、意見が出る現場。「遊ぶ」のに慣れているチーム
■「他者や世間を優先する」ヒーローが、初めて「自分の命」に目を向け、恐れる物語
■卓卓さんの持つ視点そのものが、偏らない。10人いたら10人の優しさと、正義がある
■芝居の中で、相手から飛んできたもの、相手の眼差しを一番大事にしている乃々華ちゃん
<KAAT神奈川芸術劇場プロデュース 音楽劇『愛と正義』>
【神奈川公演】2025年2月21日(金)~3月2日(日) KAAT神奈川芸術劇場<中スタジオ>
公式サイト
https://www.kaat.jp/d/aitoseigi
『愛と正義』 関連記事:
⇒すべて見る一色洋平 関連記事:
- 「SFも入っているけど、絶対条件として“人”の話」、KAAT神奈川芸術劇場プロデュース 音楽劇『愛と正義』一色洋平(上) 20250218
- 「節目」「夢」、『朝日のような夕日をつれて 2024』玉置玲央・一色洋平・鴻上尚史鼎談(下) 20240810
- 「観たいと言ってくれる人がたくさん」、『朝日のような夕日をつれて 2024』玉置玲央・一色洋平・鴻上尚史鼎談(上) 20240810
※一色洋平さんの写真1カットとサイン色紙を、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。有料会員の方がログインするとこの記事の末尾に応募フォームが出てきますので、そちらからご応募ください。応募締め切りは3月18日(火)です。有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。

アイデアニュースは、有料会員のみなさんの支援に支えられ、さまざまな現場で頑張っておられる方々の「思いや理想」(ギリシャ語のイデア、英語のアイデア)を伝える独自インタビューを実施して掲載しています。ほとんどの記事には有料会員向け部分があり、有料会員(月額450円、税込)になると、過去の記事を含めて、すべてのコンテンツの全文を読めるようになるほか、有料会員限定プレゼントに応募したり、コメントを書き込めるようになります。有料会費は取材をしてくださっているフリーランスの記者のみなさんの原稿料と編集経費になります。良質な取材活動を続けるため、どうか有料会員登録にご協力をお願いいたします。