震災から5年の福島へ(中) 矛盾と葛藤の中で生まれる詩 関久雄さんと行く福島  | アイデアニュース

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震災から5年の福島へ(中) 矛盾と葛藤の中で生まれる詩 関久雄さんと行く福島 

筆者: 松中みどり 更新日: 2016年3月24日

福島県の二本松に、関久雄さんという詩人がおられます。岩手県生まれの東北人で、1986年のチェルノブイリ原発事故をきっかけに脱原発運動に参加、1994年からは二本松にご家族と暮していました。2011年福島第一原発の事故後、家族は米沢に避難。関さんは二本松に残り、福島の子どもたちの保養に取り組んでいます。また、「詩の言葉でなら、福島の今が伝わる。聞いてもらえる」と、震災以降の福島の今を、詩の形で綴っておられるのが関さんなのです。

仮置き場の前で説明をする関久雄さん=撮影・松中みどり

仮置き場の前で説明をする関久雄さん=撮影・松中みどり

関さん関連の記事は ⇒ こちらをクリック

2016年1月、関久雄さんのFacebookページに、こんな言葉を見つけました。

~~『「福島のいま」を見に来ませんか。3月スタディツアーのご案内』
5年目の「3・11」を間もなく迎えます。そこで、3月12~13日、もしくは19~20日の日程で、「福島のいまを知る」スタディツアーを実施します。1泊2日の行程で宿泊費、2食、ガイド料、車両代など一切で参加費は1万円で行います。(福島駅までの交通費は自己負担)定員は一人から受けます。最大、7名まで。1日コースも可能です。基本の内容は、福島市と周辺の視察と農家や地元で暮らす人たちとの交流です。希望によっては飯舘村や周辺を回ることも可能です。~~

まさに渡りに船、関さんに福島を紹介してもらえるなら、それ以上のツアーはないと思って申し込んだ次第です。3月11日、太田康介さんの写真展で黙祷した後、福島に移動。夜はJR福島駅前のビジネスホテルに泊まって、翌3月12日から13日まで、関さんの車で福島市、伊達、川俣、飯舘などをまわりました。以下はその報告です。

除染廃棄物① 福島駅からすぐの、町中にありました=撮影・松中みどり

除染廃棄物① 福島駅からすぐの、町中にありました=撮影・松中みどり

まずは、福島市から伊達、最後に飯舘に向かう道中、いろいろな場所にある放射性廃棄物の仮置き場を見せてもらいました。強く印象に残ったのは、人々の生活圏内に、今もこれほどたくさんの除染ゴミが置かれているのだということでした。この①の仮置き場は、隣が公園、目の前が市の公共施設という場所にあります。

廃棄物を上から見ようと昇っていく関さんとツアー参加者の皆さん。左が仮置き場、右が花の咲く公園でした=撮影・松中みどり

廃棄物を上から見ようと昇っていく関さんとツアー参加者の皆さん。左が仮置き場、右が花の咲く公園でした=撮影・松中みどり

環境省の「除染情報サイト」によると、仮置き場の安全性を確保するため、『居住地域からの距離を十分確保した上で、柵などを設置し、人が誤って仮置場に近づかないように防止します』と書かれています。除染情報サイト(環境省) しかし、今回見た幾つかの仮置き場には、“距離を十分確保”しきれていないように思えるものがたくさんありました。

除染廃棄物② 巨大なコンクリートで出来たプールの中に、ぎっしりと袋が積みあがっていました=撮影・松中みどり

除染廃棄物② 巨大なコンクリートで出来たプールの中に、ぎっしりと袋が積みあがっていました=撮影・松中みどり

山道を行くと、もっと規模の大きいものもあります。

除染廃棄物③くねくねと続く山道の途中にありました=撮影・松中みどり

除染廃棄物③くねくねと続く山道の途中にありました=撮影・松中みどり

除染して取り除いた表土や草木を、フレコンバッグや大型土嚢に入れて、遮水シートの上に積み上げ、その上を汚染されていない土で覆って放射線をさえぎります。中身が、枝や葉のような可燃物の場合は、火災の恐れがあるので通気性防水シートをかぶせて、ガス抜き管を設置しています。

除染廃棄物④ガス抜き管と思われる白っぽい管が見えます=撮影・松中みどり

除染廃棄物④ガス抜き管と思われる白っぽい管が見えます=撮影・松中みどり

再び環境省の情報サイトによると、『定期的に廃棄物の保管状態を確認し、白煙や水蒸気などが確認された場合は内部の温度などを測定し、適正に管理』するとなっていますが、その白煙や水蒸気は安全なのかと思ってしまいます。また、福島民報によると2016年3月5日朝、福島県浪江町の仮置き場で、除染作業で出た木の枝や枯れ草など約320平方メートルを焼く火災が発生したそうです。

関久雄さんの詩に、「たたり神」という作品があります。

おばあちゃん あれは なあに

あれは ゲンパツの お墓

青い 袋の中には

草や 花や 土や ミミズが 虫が ビセイブツが

ホウシャノウと 一緒に閉じ込められ

とてつもない ホウシャセンを あびながら

袋の中で うめいている

詩は、「痛いよ、苦しいよ」という声が袋から聞こえると続き、まわりを鉄の板で囲んでも、「いずれあのものたちは袋を食い破って外に出て、たたり神となって動き出す」と書かれています。今回、除染廃棄物の仮置き場を何か所も案内しながら、関さんは同じ言葉を使っていました。

「除染して、土とか草とか詰めた袋を積みあげた形が、似ていませんか。あの、“風の谷のナウシカ”っていう漫画の王蟲(オウム)に。いつかたたり神になって、動き出すような気がする」

除染廃棄物④のすぐ隣は、野菜を作る畑になっています=撮影・松中みどり

除染廃棄物④のすぐ隣は、野菜を作る畑になっています=撮影・松中みどり

私は、福島第一原発の近くに生きていた、犬や猫、牛や豚や馬や鶏のことには、何も出来ないながら気持ちを寄せてきました。でも、関さんが示してくれた命の世界は、もっと広くて大きかったのです。

「除染」の名のもとにはぎ取られた土や、刈り取られる草木、一緒に袋の中に閉じ込められるミミズや、まる虫、微生物、菌たちは、関さんの豊かで美しい故郷の立派な一員だったのに。今、そんな命たちが袋の中に閉じ込められ、苦しくて、熱くなり、水蒸気や煙を出してたたり神になろうとしているのだとしたら、私たちに謝る言葉はあるでしょうか。

「ご迷惑をおかけします」と書かれた看板に、アーサー・ビナードさんの言葉を思い出します=撮影・松中みどり

「ご迷惑をおかけします」と書かれた看板に、アーサー・ビナードさんの言葉を思い出します=撮影・松中みどり

仮置き場の前に置かれた看板の言葉「ご迷惑をおかけします」思い出すのは、3月11日の前後に様々なメディアが被災地を取り上げた中で、最も印象に残った番組「アーサー・ビナード日本人探訪」のシリーズ、「日本を福島のレンズで切り取る作家」です。

福島市の高校の先生、赤城修司さんが撮り続ける福島の現実の中に、『ご迷惑をおかけします。道路除染をしています』という立て看板の文字を見つけて、アーサーさんが言います。「でもさ、ご迷惑をかけてるのは、放射性物質を大量に降らせたことだよね」

赤城さんは、「(相手が)巨大過ぎると、触れられなくなるんだなあ・・・例えば、海外からの非難はそんなに響かないけど、近所の人から非難されたら、それこそ居る場所ないですよね、だからこそ人々は、難しい事態で声を上げなくなるし、いろんな悲劇の中で人々が発言力を失う。こういう理屈で世の中回らなくなるんだ、当たり前のことができなくなるんだっていうのが、震災後に思ってること」と答えます。

今回のスタディツアーでも、同様のことが何度も関さんの口から語られました。「だんだんと微妙な空気が出てきて、物が言えなくなっています。甲状腺癌とその疑いのある子どもたちが167人という数になり、大人の中にも健康被害が出たり、急に亡くなってしまうケースを耳にしているのに、原発事故との関係は考えにくいと専門家は言い続ける。それを信じたい人も多い」。

「がんばろう福島」「復興」「帰還」、そうした言葉と雰囲気の中で、水や食べ物や子どもたちを外で遊ばせることへの不安を口にすることは、福島で暮らしていこうとしている人たちの間に「微妙な」空気を生んでいます。「まだそんなことを言ってるの?関さん、気にしすぎですよ」……そんな言葉が投げかけられるのだそうです。

阿武隈川には、白鳥飛来地があります。市民のいこいの場所=撮影

阿武隈川には、白鳥飛来地があります。市民のいこいの場所=撮影

阿武隈川の河川敷にさりげなく、空間線量の値を示す看板が立っていて、川にはたくさんの白鳥や鴨がいました。

こういう場所で遊ぶ子どもたちは、白鳥のいる川に入り、川底の土を触ってしまうのではないでしょうか。その放射線量は、空間線量よりも高いと思われます。放射性物質の含まれた土は、山の斜面を下って谷川に注ぎ込みます。海にまで運ばれるものと、川底に沈殿するもの。川の流れの強さ、早さ、雨の量などで、どの程度になるか分かりませんが、看板が示している値よりはずっと高いはずです。でも、ここは毎年白鳥がやってくる、素敵な場所のひとつ。子どもたちも白鳥を見るのを楽しみにしているし、除染をして、確かに数値は下がってきている……矛盾と葛藤と不安。そういうことを考えると、白鳥の白さが胸に痛いような気がしました。

阿武隈川「白鳥飛来地」=撮影・松中みどり

阿武隈川「白鳥飛来地」水の中に入って餌をあげる人=撮影・松中みどり

関さんの詩、「5年目の福島」にはこう書かれています。
保養 黙って出かけるんです

ふだん ホウシャノウなんて

気にしていません って顔している

だから わたしは 隠れキニシタン

『隠れキニシタン』とは、またなんと悲しい言葉でしょう。不安を素直に口に出せず、周りの人の顔色を見てしまう。同じような苦労をしているはずの近所の人や職場の人と、少しずつ気持ちがずれていく。「また保養に行ったの?」と言われてしまう。「福島はもう大丈夫」と言う人がいる。本当にそうなのかという気持ちを隠す。その微妙な、複雑な感じが、5年たったということなのでしょうか。「5年目の福島」は、こう続けられます。

勉強しましたよ 郡山はもう安全 だから

保養は必要ありません むしろ

福島に遊びに来てください と 市の職員

おとうとに 新潟のコシヒカリ送ったら

「良かったあ 県産でなくて」と言うもんだから アタマきて

ああ もうやんねえ わがで買って食えと 言ったんです

福島産のコメ 測っているから

他県のものより安心だと思いますよ

福島は危ないのイメージ

払拭したいと あえて外に作った遊び場

指さす モニタリングポストは 0,16マイクロシーベルト

その数値 高いのか 低いのか

飯舘村にやってきました=撮影・松中みどり

飯舘村にやってきました=撮影・松中みどり

ツアー1日目は、最後に飯舘村まで行きました。原発から30キロ以上離れているのに、風向きや雨の影響で汚染がひどくなり、事故から1ヵ月以上たった2011年4月22日、全村避難の指示が出た飯舘。関さんの知り合いの方に、避難された方のお家の中を案内してもらいました。

飯舘村の、避難された方のお家の中=撮影・松中みどり

飯舘村の、避難された方のお家の中=撮影・松中みどり

ほとんどの持ち物を置いて、急いで避難されたのだなということが分かります。誰もいなくなった村では、野生動物が食べ物を求めて里に降り、家の中にも入ってきました。このお宅にも、ハクビシンやアライグマが住みついているような跡がありました。

飼い猫のみーちゃんが、上り口のところでミイラのような姿になっていました=撮影・松中みどり

飼い猫のみーちゃんが、上り口のところでミイラのような姿になっていました=撮影・松中みどり

ミイラのような姿になった、このお宅の飼い猫だったみーちゃん。手を合わせてから写真を撮らせてもらいました。外は雪がちらつく寒さ。5年間、寒さも暑さも耐えて、こんな姿になったのかと思うと、本当に可哀想で、申し訳なくて、たまりませんでした。

<関連サイト>
関久雄さんのFacebookページ
福島と結ぶ佐渡へっついの家

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細川牧場の馬たち

飯舘村にある細川牧場で生きている馬たち=撮影・松中みどり

飯舘村にある細川牧場で生きている馬たち=撮影・松中みどり

たましいになったブチ 3・11飯館村の牧場で起きたこと/詩

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<筆者プロフィール>松中みどり(まつなか・みどり) フィリピン支援ボランティア/英語講師/ライター 初めて行った外国がフィリピンで、以来かの国の人々の明るさ温かさに魅せられ、様々なNGOや支援活動に関わる。1994年からは山岳先住民アエタの教育支援主宰。コミュニケーションツールとしての英語を各地で教えている。動物好きの自称「ケモノバカ」。飼い猫は黒猫で親バカ度も加速中。 ⇒松中みどりさんの記事一覧はこちら

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