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音楽さむねいる(18)華燭の典と音楽(下) 後輩の結婚式のためにフランクが書き下ろした作品

筆者: Koichi Kagawa 更新日: 2017年1月11日
連載:音楽さむねいる(18)

 

『ヴァイオリン・ソナタ イ長調』より第四楽章(1886年)

セザール・フランク(※1)作曲

 

音楽さむねいる

音楽さむねいる

 

 

■ ヴァイオリンとピアノによるソナタの最高傑作

 

前回に引き続き結婚式の音楽ということで、私が是非とも紹介したいもう一曲は、ベルギー出身で、フランスで活躍した作曲家、フランクの『ヴァイオリン・ソナタ イ長調』より第四楽章である。この曲は、フランクと同じベルギーの後輩ヴァイオリニスト、ウジェーヌ・イザイの結婚式のために書き下ろされた作品である。

このイザイというヴァイオリニストは大変凄い人で、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の前身の楽団でコンサート・マスターを務める傍ら、ソリストとしても活躍し、アメリカのオーケストラで指揮活動も行っている。また、イザイ弦楽四重奏団を主宰し、この楽団によってドビュッシーの『弦楽四重奏曲』が初演されている。その後、ブリュッセル音楽院の教授として後進の指導にあたり、彼の没後はその業績を記念して、現在のエリザベート王妃国際コンクールの前身であるイザイ国際コンクールが創設されている。

年下とはいえ、このような大ヴァイオリニストに対して、フランクは大いなる尊敬の念を抱いていたことであろう。この大きな規模のヴァイオリン・ソナタは、同郷の大ヴァイオリニストであるイザイの結婚式に献呈する曲として、当時64歳のフランクが渾身の力を振り絞って書いたものである。

 

ルノー・カピュソン(Renaud Capuçon)のヴァイオリンとカティア・ブニアテシヴィリ(Khatia Buniatishvili)のピアノによる名演

 

 

 

■ フランクの“話法”

 

四楽章から成る『ヴァイオリン・ソナタ イ長調』は、フランクの独特の緻密な“話法”によって構成されている。それはまず、第一楽章の第5小節でヴァイオリンがゆっくりと奏でる主題が形を変え、続く楽章全てに現れる“循環形式”を採っていることである。各楽章にはそれぞれの主題が提示されるが、第1楽章の主旋律によってそれらが有機的に結びつけられ、一つの大きな流れを形成するように曲が展開し、全曲を通しての一体感を醸し出す効果を担っている。

第一楽章の冒頭は、4小節のピアノの独奏の後に、ヴァイオリンによって第一主題が演奏されるが、ピアノの属九の不協和音がどことなくけだるい感じを漂わせている。第二主題はピアノで演奏され、感傷的な表情を見せる。第二楽章では、“Allegro”(速く)の指示と、主題の冒頭に休符が置かれることにより、ヴァイオリンとピアノの情熱的な協奏が、ニ短調の楽章全体に切迫した雰囲気をもたらす。第三楽章は、“Recitativo-Fantasia”という標題がついているが、“Recitativo(レチタティーヴォ)”とは、オペラのアリアなどの旋律の間に置かれる独唱部分で、叙唱とか朗唱と呼ばれ、旋律によらない状況説明などに用いられる。それに“Fantasia”という語が付随されているため、“幻想的な叙唱”と訳すことができよう。第一楽章の主題を、ピアノの分散和音の中であたかも自由に浮遊するかのように、もの悲し気に歌うヴァイオリンの語りが印象的である。第三楽章の後半では、第四楽章の主題を予告しながら、静かに曲が閉じられる。

次に特徴的な“話法”は、ピアノが単なる伴奏ではなく、ヴァイオリンと対等に二重唱を歌い上げるかのような役割を果たしていることである。グリーグの「トロールハウゲンの婚礼の日」のように、ピアノの右手と左手が、あたかも夫婦の会話を象徴している如く、フランクの『ヴァイオリン・ソナタ イ長調』では、ヴァイオリンとピアノがその役割を演じている。そのため、性格の違うこの二つの楽器が同様の旋律を奏でることにより、イザイ夫婦へのオマージュを表現しているようだ。それは、次の第四楽章で顕著になる。

 

 

■ 華麗なる第四楽章-幸福のカノン

 

第四楽章は、ピアノが美しい平和的な旋律を奏でると、即ヴァイオリンがそれを引き継ぎ、なぞっていくことで始まる。そして、第一楽章から第三楽章の主題が変奏され、やがて華麗なフィナーレに昇華していく。フランクは、この楽章の随所で“dolce cantabile”(ドルチェ・カンタービレ=優しく歌うように)、“sempre cantabile e molto”(引き続き歌うように、そして強く)というように、“cantabile”を使った発想系指示を与えている。まさに、同じ旋律を、二つの楽器が優しく歌うように、掛け合いながら展開するカノンの語法は、夫婦が幸せな会話を楽しんでいるかのような気分にさせてくれる。

第一楽章で見せたもの憂げな表情、第二楽章の蠢くような感情の起伏、そして第三楽章の哀しく沈んだ印象が一転して、第四楽章では至福に満ちた情景が描かれる。それまでの悲しみや苦しみが第四楽章で回想されるが、それらを超越した先にある、穢れなき天上の世界へ誘うようなヴァイオリンとピアノのロンドは、我々の心を打つ至上の美しさがある。そして、一つの頂点を形成する第四楽章の175小節目でピアノが華やかに打ち鳴らすのは、教会の結婚式の鐘。直後、再びこの楽章の第一主題に立ち帰った後、ヴァイオリンとピアノが歌い上げる喜びが一気に昇華し、この曲は大団円を迎える。

 

 

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、生涯つつましく謙虚で敬虔なカトリック信者であったフランクの生涯についての解説を掲載しています。

 

<有料会員限定部分の小見出し>

 

■ フランクの不遇とその音楽に流れる高邁な精神

 

■ フランクへの定まらぬ評価の理由

 

■ 結婚式のBGM

 

 

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<筆者プロフィール>Koichi Kagawa/1961年徳島市生まれ。慶應義塾大学法学部、並びに、カリフォルニア大学バークレー校大学院卒業。経営学修士(MBA)。1983年大学卒業と同時にシティバンク東京支店に入行。以後、今日まで複数の欧米金融機関でCOO等要職を歴任。現在、某大手外資系金融機関に勤務。幼少期からクラシックからジャズ、古典芸能、果ては仏教の声明に至るまで、幅広い分野の音楽に親しみ、作曲家とその作品を取り巻く歴史的・文化的背景などを通じ、「五感で感じる音楽」をモットーに音楽を多方面から考え続けている。 ⇒Koichi Kagawaさんの記事一覧はこちら

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