新潟・佐渡島を拠点に、国内外で活躍する太鼓芸能集団「鼓童」の新作「鼓童ワン・アース・ツアー2015 ~混沌」が、全国ツアー中だ。2012年から鼓童の芸術監督を務める歌舞伎役者の坂東玉三郎さんによる演出で、「伝説」「神秘」「永遠」に続くシリーズの4作目。注目は、ドラムセットが登場すること。元ザ・ブルーハーツのドラマー、梶原徹也さんがドラム監修で参加している。プロの和太鼓奏者が、ドラムを叩く。それを舞台で成立させる。打楽器奏者として叩くことの本質に挑む「混沌」は、鼓童の新境地ともいえるステージだ。
この作品で初めて鼓童のステージを見る人は、和太鼓奏者が、西洋のドラムを打ち鳴らすという一見、異質な光景に初めは戸惑うかもしれない。鼓童の中心的奏者の坂本雅幸さんでさえも、「ドラムと和太鼓は、なかなか踏み込みにくい部分で、両者を馴染ませるのは難しい」とインタビューで話していた。そして、「初め、太鼓打ちの自分たちがドラムを叩くと、異質な感じがありましたが、その異質さをいい意味での違和感に変えていきたい。僕たちにとって今回の作品は挑戦です」とも語っていた。2015年12月5日、NHK大阪ホールでの公演を観た筆者も、一幕と二幕で印象がガラリと変わった。
開演時間が過ぎても、照明が消えない。数人がそれぞれ床に座り、太鼓の胴部分をロープで締めて組んでいったり、音を確かめたり、まるで稽古場を見ているかのような雰囲気の中、いつの間にか演奏に移行していた。一幕は主に、視覚から入ってくるものの印象が強い。とりわけ目を引いたのが、タイヤにテープを巻いた手作りのタイヤドラム。赤やシルバーのウィッグに、皮ジャン姿でビジュアル系バンドのような姿で現れた女性奏者たちが、うつ伏せになってタイヤの表面の音を出したり、バット撥をタイヤに叩きつけるように振り下ろしたりと奔放な印象を与える。タイヤドラムは、ドスッとした鈍い音で、振動が起こらない。その分、人が「叩く」という行為を観客が視覚で捉えていくような感じがした。
対照的だったのは、中国の代表的な民族楽器の一つ、揚琴(ようきん)。百数十本の弦が張られた表面を、2本の竹製のバチで軽く叩く打弦楽器で、メロディアスな音色を響かせていた。それにフルートや、太鼓とドラムのセッションがあり、これまでのシリーズの神聖なイメージとの違いに、こんな鼓童もアリなのか!?と驚いたまま一幕が終わった。
二幕では、中でもドラムセットによる鼓童メンバー3人のソロ演奏が見どころだ。舞台正面にドラムセットが3台並び、鼓童の坂本雅幸さん、小田洋介さん、住吉佑太さんがドラムを叩く。小田さんは、気の強さが伝わってくるパワフルな演奏で、ドラムに勝負を挑んでいるかのようにも見えた。観ているこちらも思わず拳を握りしめる。そんな「猪突猛進型」の小田さんに対し、梶原さんは「ブルーハーツ仕込み」の「まっすぐなエイトビートを伝授」したという。坂本さんは、ドラムの音色と溶け合うような調和を感じさせ、住吉さんは、リズムを楽しんでいるような軽やかな印象があった。
ソロ演奏で、三者三様の個性が際立って見えたのには、これまでの着実な歩みがあった。本作でドラム監修を担当している梶原さんは、佐渡に通ってメンバーと交流を重ねてきた。時間をかけて彼らと向き合い、それぞれの個性を引き出し、構想を含め4年の歳月をかけてドラムで鼓童独自の表現ができるところまで、たどり着いたという。
そして二幕の終盤になると、もはや太鼓かドラムか、といった違いが気にならなくなっていた。初めに視覚から入り込んだ違和感が、いつしか聴覚から払拭されていた。太鼓を始め、竹筒を床に落として音を出すシンプルな楽器トンガトン、拍子木、スネアドラム、ティンパニ、ドラムセットまで、作品全体を通してあらゆる打楽器がリズムの線でつながり、音で風の流れが作られていく感覚を覚えた。
クライマックスの平桶大太鼓とドラムセットによる演奏では、鼓童の奏者だからこその一体感が感じられた。住吉さんのドラムは、3人のソロ演奏の時とは打って変わり、個性は控えめに、呼吸を合わせて大太鼓の響きに呼応していた。大太鼓奏者を務める中込健太さんからは、大地を踏みしめるような力強さが感じられた。大太鼓のソロと、今回のドラムとの共演の違いは、ドラムで音色の幅が広がった分、太鼓とドラムの響きが重なった時に余韻の長い響きが広がり、互いに歌っているようにも感じられた。
最後にストンと落ちてきたのは、鼓童としての存在感。それは、どんな楽器を演奏していても、「打つ」という行為の根幹において、「鼓童」としての存在感を示せることの強さだ。それは、佐渡で培われた揺るぎない土台があるからなのだろう。佐渡の海、大地、自然の恵みが育んでくれたものが、鼓童のパフォーマーの身体の奥深くに刻まれているのではないか。
この作品は、とりわけ何かに挑戦したいと思っている人に、おすすめだ。伝統芸能としての基盤を大切にしながら、変化を恐れずに果敢に挑む鼓童の姿勢に、触発される何かがあると思う。そう、これは〈パンク〉な舞台だから。
<鼓童ワン・アース・ツアー2015 ~混沌>(12月15日以降分)
12月15日(火) 愛知県名古屋市 愛知県芸術劇場 コンサートホール
12月17日(木) 神奈川県横浜市 神奈川県民ホール
12月19日(土)~12月23日(水・祝) 東京都文京区 文京シビックホール
公演詳細 → http://www.kodo.or.jp/news/20151123oet_ja.html
<関連リンク>
太鼓芸能集団 鼓童
→ http://www.kodo.or.jp/index_ja.html
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「鼓童ワン・アース・ツアー2015 ~混沌」公演の幕間の休憩時、ドラム監修の梶原徹也さんに少しだけ、お話をうかがいました。鼓童のパフォーマンスについて、ニコニコしながら何度も「気持ちいい」と言っていた梶原さん。ドラムと太鼓による音楽的な気持ちよさを解説してくださる中で、あるキーワードが印象的でした。ドラムの専門知識が無い筆者でも、このキーワードを手がかりに、もう一度コンサートを見たくなりました。解説を梶原さんの言葉でお届けします。(ログインボタンが表示されている時は、ボタンを押すと全文閲覧に進みます)
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