僧・安珍に裏切られた少女・清姫が激怒のあまり大蛇となり、紀州・道成寺の鐘の中に逃げ込んだ安珍を、口から吐く炎で焼き殺すという「安珍・清姫伝説」。能や歌舞伎の題材となり、映画やアニメにもなったこの物語を、太鼓芸能集団「鼓童」の名誉団員、小島千絵子さんが紡ぐ。そんな写真集「襲(かさね)の清姫物語」を、小島さんとフォトグラファーの宮川舞子さんが出版した。
撮影場所は「鼓童」の拠点である新潟県の佐渡島。宮川さんは、鼓童が佐渡島で開催している「アースセレブレーション」に2002年から毎年、公式カメラマンとして携わっており、小島さんのパフォーマンスを佐渡の四季を舞台に撮り続けてきた。
- 春
少女は日がな一日 野に遊び
花と戯れ蝶を追い 清らかに過ごしていた
名を 清姫 といった……
写真集を開くと、こんな書き出しで、清姫の物語が、短く、美しく語られている。そして、ページをめくってゆくと、溢れんばかりの黄色の菜の花畑の中で物思い、艶やかな桜の花々を薄い傘を通して見上げ、日本海の白浪の前で風に衣を流し、紅葉を敷き詰めた境内で太鼓を打ち、躍り上がる炎を前に舞う小島さんの姿が迫ってくる。
小島さんは、1976年に「佐渡の國 鬼太鼓座」に入座して「鼓童」創設にかかわり、太鼓中心の舞台の中で独自の舞踊の世界を切り開いてきた。女性ユニット「花結」やソロ活動「ゆきあひ」で表現の場を広げ、2006年には坂東玉三郎主演演出の「アマテラス」で初代アメノウズメを演じている。道成寺物語を元に創作した「清姫」は、彼女の代表作となっている。
筆者は以前の職場で担当していたウェブサイトで、宮川さん撮影の写真を何度も扱ってきたが、背景の鮮やかな色を大胆に使うなど、鮮烈で斬新な彼女の写真には、いつも舌を巻いてきた。撮影現場に一度だけ立ち会ったことがあるが、彼女は男優に動きを任せ、遠く離れた場所から、望遠レンズで静かに、ゆっくりと、撮影した。被写体の中にある物語性を引き出す才能は、天下一品だと思っている。その宮川さんの写真ならと思って1冊購入したが、彼女は期待を裏切らなかった。
写真集「襲の清姫物語り」は2015年4月21日発行、A4変形版、全32ページ、定価2,500円。「鼓童」のオンラインストアで販売している → http://www.kodo.or.jp/store/34_1468.html
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