2024年9月21日(土)に、LE VELVETS CONCERT TOUR 2024『VIVERE~彩りの未来へ~』が、NHK大阪ホールで最終日を迎えました。バリトンの宮原浩暢さん、テノールの佐賀龍彦さん、日野真一郎さん、佐藤隆紀さんの4人で構成されていたヴォーカルグループ「LE VELVETS」は、結成16年目の集大成として提示したこのツアーの終演と共に、来年からの新体制に向けて第一歩を踏み出しました。
今年の5月に、9月末をもって佐賀龍彦さんがグループを一時脱退することが発表されました。佐賀さんは2021年に脳梗塞を発症後、懸命なリハビリを経て2022年10月の秋ツアー『Eternal』でグループ活動に復帰されましたが、10月以降はご自身の完全回復を目指し、リハビリに専念されることが決定しています。宮原さん、日野さん、佐藤さんの3人による新体制での活動は、2025年に開始されます。
このツアーの東京公演と大阪公演の模様をおさめた特別番組が、10月26日(土)にCSテレ朝チャンネル1で独占放送されます。アイデアニュースでは、9月21日の大阪公演の様子をお届けします。
こちらは、コンサート終演後に佐賀さんが投稿されたポストに添付されていたお写真です。アンコールで「Granada(グラナダ)」を歌い終え、客席の鳴り止まぬ拍手に応える佐賀さん。その姿を舞台袖で見守る宮原さん、日野さん、佐藤さんの後ろ姿を捉えた1枚です。自他共に認めるメンバーの仲の良さで知られ、真剣にぶつかり合いながら、互いを心から信頼し、紆余曲折の歴史を共に歩んできた「LE VELVETS」の4人。この日のコンサートの全てを物語っているお写真のように思えました。
■メンバーお一人お一人が、思いを込めて選んだ曲で構成。冒頭は「明日への階段」
今回のコンサートのプログラムは、メンバーのみなさんそれぞれが思いを込めて選ばれた曲で構成されたとのことです。クラシカル・クロスオーバー、カンツォーネ、ミュージカル曲、歌謡曲、映画音楽、オリジナルソングと、多彩な楽曲が揃っており、彼らがこの日まで育ててきたハーモニーの魅力が余すところなく伝わります。
佐賀さんが「一旦のファイナル」と決意された公演の開幕が、遂に近づいていることを知らせるベルが鳴ります。盛大な中にも、どこか静粛さのある拍手がステージに登場した4人を迎え、ミュージカル『ルドルフ〜ザ・ラスト・キス〜』より「明日への階段」。背中を押してくれる歌詞と、次第に高揚感を増すハーモニーに続くのは、カンツォーネの名曲「’O SOLE MIO(オー・ソレ・ミオ)」。会場に響く拍手の中にも、万感の思いの去来が聞こえる空気感を一変させたのは、佐賀さん自らの言葉でした。「みなさん、気持ちがセンチメンタルになっていると思うのですが、気分を上げていきます!」。
■佐賀さんと縁の深いオリジナル曲、「寒月」「EXILE〜ダッタン人の踊り」
3曲目はLE VELVETSのオリジナルソング「寒月」。佐賀さんが選ばれた曲です。この曲は、2017年に開催された展覧会「特別展 木島櫻谷ー近代動物画の冒険」のテーマソングにもなりました。音楽と美術の調和をテーマにソロコンサートを開催されたこともあるほど美術もお好きな佐賀さんは、展覧会のナビゲーターも定期的に務められています。実際に屏風絵「寒月」の前で歌われる機会があり、この絵と一体になれたような感覚があったと当時を振り返られました。
屏風絵に描かれた、月に照らされた雪原の、寒空に澄んだ空気から、次はカンツォーネ「帰れソレントへ」。一転してイタリアのソレントへと誘われます。続いて、中村泰士さんがLE VELVETSのためにアレンジされたバージョンで、「リンゴの唄」(並木路子さん)、「喝采」(ちあきなおみさん)の2曲が届けられました。一部追加されている歌詞があるほか、原曲とは趣の異なる仕上がりになっているため、LE VELVETSならではの表現を楽しめます。
そして、「EXILE〜ダッタン人の踊り」。佐賀さんが神山薫さんと作詞されたオリジナルソングで、タペストリーに綴られた物語が広がるような一曲です。次いで「(メンバーが)みんな大好きな曲」と、佐藤さんが紹介したのは「ADAGIO(アダージョ)」。クラシカル・クロスオーバーの名曲です。
さて、早くも一幕の終盤へ。まずは、佐藤さんが選ばれた「誓い〜Sicilienne(シシリエンヌ)」です。「フォーレ作曲の旋律に、優しい愛の歌詞が乗っています。“形あるもの皆、いつか消えて行く”というところがいい。でも、愛する心は消えないんじゃないかなと」(佐藤さん)。そして一幕最後は、「僕らの定番です」と日野さんが紹介された「Nessun Dorma!(ネッスンドルマ)」。グループの姿が投影され続けてきた曲でもあるでしょう。
■映画音楽とミュージカルの名曲、「ロクサーヌ」「The Phantom of the Opera」
二幕の冒頭は、2023年にグループ結成15周年を記念して発表されたオリジナル曲「ROMANTiCA〜愛の祈り〜」(湯川れい子さん作詞、葉加瀬太郎さん作曲、武部聡志さん編曲)でスタート。壮大な愛の一曲です。映画音楽の世界へ。「Time for us」(『ロミオとジュリエット』)、「ロクサーヌ」(『ムーラン・ルージュ』)の2曲が続きます。「ロクサーヌ」は、宮原さんの選曲です。ロミオとジュリエットの、互いに相手を見つめるひたむきな甘い視線のように美しく重ねられる「Time for us」のハーモニーから一転し、宮原さんの魅惑的なバリトンによる「ジェラシー!」から始まる「ロクサーヌ」。照明の効果とも相まって、横顔に投影される赤黒い情熱が、彼らの表情をも一変させます。4人4様の嫉妬が声色でも表現され、ミュージカルご出演の経験を経て培われた魅力も感じられる曲です。
続いては、今年開催されたパリオリンピック、パラリンピックに因み、フランスを舞台とするミュージカル曲が3曲披露されました。1曲目は、日野さんが選ばれた「The Phantom of the Opera」。2曲目は、佐賀さんがこの作品のことを知らなかった小学生の頃から、旋律がずっとお好きだったという「シェルブールの雨傘」。そして3曲目は、今年2024年に上演される『レ・ミゼラブル』に3回目のジャン・ヴァルジャン役で出演が決まっている佐藤さんにちなみ、「民衆の歌」が届けられました。
ロック調のイントロで始まる、LE VELVETSオリジナルアレンジの「The Phantom of the Opera」では、それぞれのソロが妖艶なハーモニーとなり、ダイナミックに広がります。初めて聴かれる方は、「クリスティーヌがいる?!」と驚かれるでしょう。日野さんの声の魅力の一つである、ソプラノの音域まで出る美しいハイトーンヴォイスが、3人のファントムの声と呼応しながら、より美しい高音へと変化していきます。更に、地を突き破り、地下に轟くような佐藤さんファントムのセリフ「Sing!Sing for me !」が加わったことで、より劇的な余韻が残ります。「シェルブールの雨傘」の冒頭は、佐賀さんのソロ。心をそっと打ち明けるような、切なく繊細なトーンが物悲しくも美しく響きます。「この旋律が最も好き」と佐賀さんが以前おっしゃっていた部分は、宮原さんが深くゆったり語りかけるように、感情を揺さぶりながらメロディアスに表現されています。「民衆の歌」では、4人の迫力のハーモニーが、会場を魅了し、『レ・ミゼラブル』のバリケードの名シーンが蘇ります。
■彩りの未来の先には、また一緒に歌を届けられたら。「VIVERE〜生きる」
ここからは、コンサート終盤へ。モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」に菅野こうめいさんが歌詞をつけられたオリジナル曲「クワトロ・ジョバンニ」。4人のドン・ジョバンニが、それぞれの恋の手練手管を競い合うという、遊び心のあるお洒落な一曲です。盛り上がりの頂点は、葉加瀬太郎さんの曲に歌詞が付けられたオリジナルソング「情熱大陸」。ステージと客席の一人一人が心を一つに合わせ、渾身の思いを伝え合う光景に、目頭が熱くなりました。
熱気が去り、静かにフィナーレの足音が聞こえてきます。みなさんが最後の一曲に選んだのは、「VIVERE〜生きる」。「佐賀くんと僕たちは別々の道を歩いて行くことになるが、彩りの未来の先には、また一緒に歌を届けることができたら」と、メンバーを代表して宮原さんがお話しされました。路上ライブの頃からずっと大切に歌ってこられた曲を、コンサートの最後に届けてくださいました。本当は、全ての瞬間に別れを告げながら誰しも生きています。毎日、実はその繰り返しでしょう。「記憶に残したい」という瞬間、去り行く時間の名残惜しさを感じられる瞬間に出会えるということは、幸福なのかもしれません。
■凛と美しく、輝く眼差しで愛と感謝の「Granada」。晴れやかな笑顔と共に
アンコール1曲目は、佐賀さんのソロで「Granada」。バンドの前奏と共に幕が開くと、階段の上に凛と一人。静かに美しく立つ、佐賀さんの姿がありました。声の限り響く、力強く鮮やかなロングトーン。輝く眼差しで、二階席、一階席、会場にあまねく視線を送りながら、愛と感謝の「Granada」。晴れやかな笑顔が印象に残っています。16年間、LE VELVETSのテノールとして活動してこられた佐賀さん。その全てを届けてくださったように思います。
照明が変わり、ステージの上は幻想的な夜の光へ。イントロが始まると、宮原さん、日野さん、佐藤さんが、再びステージへ。アンコール2曲目は、ショパンの同名の名曲に、佐賀さんが歌詞とメロディーをのせたオリジナルソング「夜想曲」です。佐賀さんらしい、真摯に一途な愛が歌われている歌詞ですが、この日はこの歌詞が特に響きました。「ぼくら色 必ずまた創るまで」。
■宮原:時間は一瞬ですが、記憶には一生残っていく。永遠に息づいてくれたら
「夜想曲」が終わると、宮原さん、日野さん、佐藤さんから佐賀さんへのエールとメッセージ、そして佐賀さんからのご挨拶がありました。
「時間は一瞬ですけど、たぶん、僕もメンバーも、記憶には一生残っていくんじゃないかと思っております。お客さまの心の中にも、永遠に息づいてくれたらいいなと」(宮原さん)
■日野:いつでも戻って来れるホームがあると思って、精一杯、頑張ってください
「実感がまだ湧きませんが、本人が決めたことなので、本当に背中を押す気持ちでいます。いつでも戻って来れるホームがあると思って、リハビリ精一杯、頑張ってください。」(日野さん)
■佐藤:皆さんから受けた愛を、これから佐賀さんに関わる人に。応援しています
「皆さんから受けた愛を、LE VELVETSにいた一員として、これから佐賀さんに関わる人にあげていってほしいです。頑張ってください。応援しています。」(佐藤さん)
■佐賀:納得できる歌を歌えるようになるまで、僕なりの方法でやってみたい
お手紙を書いてこられた佐賀さん。復帰までのリハビリの原動力となったファンのみなさまへの、そして帰る場所を作り、復帰後もステージでサポートし続けてくれたメンバー3人への感謝と、ご本人の決意を伝えてくださいました。
「僕が納得できる歌を歌い、このような原稿を見なくてもお話できるようになるまで、あとどのぐらいかかるのかわかりません。が、僕なりの方法でやってみたい。ここは、一旦離れてリハビリを主にした生活をしながら歩いていこうと決心しました。どうか、僕のわがままを許してください。僕は必ず、完全回復します。」(佐賀さん)
時に、意思をスムーズに伝えたり、思い通りに体を動かすことが難しいことがあるということ、脳梗塞の方を見かけたら、理解して見守っていただけたら、とご自身の経験を踏まえた思いをそっと添えられました。
■あなたがいるから、乗り越えることができる。「You Raise Me Up」
アンコール最終曲は、「You Raise Me Up」。「僕たちからのメッセージです。あなたがいるから、乗り越えることができる」(宮原さん)。曲のイントロが流れ、宮原さん、佐賀さん、日野さん、佐藤さん、4人がそれぞれソロパートを歌い繋ぎ、視線を交わしながら、声が次第に重なり合います。その様子はまるで、このコンサートに向かう、彼らの手が重ねられた写真のようでした。
■「明日への階段」を登る4人。未来のいつかの「始まりのハーモニー」か
カーテンコールを終えたLE VELVETS。バンドの音に見送られながら、宮原さん、日野さん、佐藤さんが、お一人ずつ佐賀さんの肩をポンと笑顔で叩き、ステージ中央の階段を登っていきます。客席の方を向いて佐賀さんを待つ、一列に並んだ3人。佐賀さんが客席に背を向け、階段を一人で登っていきます。そして再び一列に並んだ4人が届けてくれたラストハーモニー。「あなたたちこそ、時代の主役だ」(「明日への階段」)。
階段の前で、3人と1人になり、階段の上で、再び4人になる。未来への祈りを見せてくれたように感じられるラストシーンでした。私たちが聴いたのはラストハーモニーではなく、未来のいつかの、始まりのハーモニーだったのかもしれません。「明日への階段」を登る佐賀さんの後ろ姿を見ながらふと思い出したのは、サン=テグジュペリの言葉です。
「経験によれば、愛するとは互いに見つめあうことではない。一緒に同じ方向を見つめることだ。同じザイルに結ばれて、ともに頂上を目指すのでなければ、仲間とは言えない。向き合うのは頂上に着いてからでいい。」( サン=テグジュペリ. 『人間の大地 』. 光文社古典新訳文庫, 光文社, p.200, ebook : Kindle )
LE VELVETSを一旦去ると決断された佐賀さんの背中に向かってエールを送ることは、佐賀さんと同じ方向を見つめることになるでしょう。「頂上」、すなわち、佐賀さんご自身の言葉で伝えてくださった「完全回復」を、それぞれの思いと共に目指しながら。
<LE VELVETS CONCERT TOUR 2024 VIVERE~彩りの未来へ~>
【CSテレ朝日チャンネル1】2024年10月26日(土) 12:00〜15:00 独占放送
公式サイト
https://www.tv-asahi.co.jp/ch/contents/variety/0748/
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