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音楽さむねいる:(2)『舞踏組曲』に思い起こす沈丁花の甘く妖しい香り

筆者: Koichi Kagawa 更新日: 2016年4月19日
連載:音楽さむねいる(2)

 

 

Koichi Kagawaの 音楽さむねいる

「Koichi Kagawaの 音楽さむねいる」のタイトル

 

『舞踏組曲』(作品Sz.77:1923年)※1
ベーラ・バルトーク(Béla Bartók:1881年3月25日-1945年9月26日)作曲
推薦録音:ピエール・ブレーズ指揮、ニューヨーク・フィルハーモニック演奏 ※2

 

■バルトーク作品に春を感じるのは何故か?

 

音楽に“香り”を感じるのは私だけだろうか?というより、脳の奥底に眠っていた“香り”の記憶を、ある音楽が呼び覚ますと言った方が正しいのかも知れない。音楽は、演奏者の技能や個性にとどまらず、それが再現されるメディア(生演奏ならオーケストラと指揮者の組み合わせ、録音ならばレコード会社、録音スタジオ、エンジニア、録音技術など)、それに場所や季節といった要素も変数とし、表情を大きく変化させる。私にとって、とりわけ“香り”はその変数の代表的なものである。とすれば、さしあたりこの『舞踏組曲』は、春浅き薄暮に漂う沈丁花の甘く妖しい香りを思い起こす。それは、私が初めてこの曲を聴いたのが、喧しく戸を打ち付けていた北風がぴたりと止み、長く季節を支配していた冬が老いる頃であったことが大いに影響していると思われる。

 

前回書いた「花ざかり」もそうであるが、私の中で何故かバルトークの曲は春を連想させるものが多い。「花ざかり」はその題名と花の“色”への想像から、『舞踏組曲』は沈丁花の“香り”から、という風に。春は暖かさの裏に何故か心落ち着かなく、もの悲しい気配を漂わせる季節であるらしく、それがバルトークの作品の底流にある、彼が抱く祖国や祖国の民謡への追慕と同期する。前回に引き続き、今回もこのコラムでバルト―クを取り上げたのは、私にとって春という季節を、音楽の“色”と“香り”によって修飾する作品が、バルトークの「花ざかり」と『舞踏組曲』だからである。

 

■国からの委嘱により、祝典曲として生み出された『舞踏組曲』

 

ブダペスト市制50周年を記念して作曲されたこの曲は、エルンスト・フォン・ドホナーニ※3、バルトークの民謡採集の同僚ゾルタン・コダーイ※4という、当時のハンガリーを代表する2人の作曲家と共にバルトークに委嘱されたものである。曲の大半は東欧やアラブ風の異国情緒に彩られた舞踏音楽であるが、作曲の由来から、聴衆を祝典の乱舞に飲み込んでいくような、非常に華麗なフィナーレが特徴的な曲となっている。

 

曲の構成は、ハンガリーやルーマニアなどの東欧風の旋律が象徴する5つの舞曲と終曲から成っており、この6曲はそれぞれ独立した主題を持ち、それがリトルネロ形式(独奏と合奏が交互に現れる形式で、バロックの協奏曲によくみられる)で有機的につながっている。具体的には、第3舞曲と第4舞曲、第5舞曲と終曲の間以外、全てに同じ主題を持つ間奏曲的な役割を持つ部分(リトルネロ)が現れ、5つの舞曲が途切れることなく終局のクライマックスまで一つの曲として演奏される。

 

■曲を決定付ける“リトルネロ”の美しい旋律

 

特にこの曲の印象を決定付けているのは、第1舞曲の終盤、第2舞曲との接合部で、ハープのグリッサンドに導かれてバイオリンが静かに奏でる、リトルネロの美しい主題である。私はこの極めて短い旋律に、ハンガリーの田園を流れ始めた春風が運ぶ、萌え出たばかりの幼い木々の芽-私にとってはとりもなおさず沈丁花-の微かな香りを感じる。その香りは、まだ春浅き村々を歩き続けたための疲労も心地よく感じられるほどに、旅人バルトークの頬を優しく吹き撫でていく。その時の彼の姿は、唄に祈りを託した人々の魂の痕跡を求め歩き、つかの間の春に心を和ませる巡礼者のそれであった。しかし、彼が安らぐのもつかの間。第1舞曲と第2舞曲を繋ぐリトルネロの最終部で、ピウ・レント(piu lento=更に遅く)の指示により、クラリネットが歌う5小節が胸のざわめきを誘い、再び旅人を次の村へと駆り立てていく…

 

■春の“香り”を介してハンガリーの風景が浮かぶ

 

この祝典曲に託されたバルトークの意図は、採集した民謡をそれぞれの主題に取り入れ、故郷の美しい山々や田園を純粋に叙景することでではない。それは、後に紹介するように、この曲には現代的な語法、即ち、バルトークを後に現代音楽の巨匠バルトークたらしめる作風への意思・決意が多く見られるからだ。にもかかわらず、私にとってこの曲が、芽生えたばかりの沈丁花の胸苦しくなるような香りを漂わせ、遥か遠くの山裾を行く白装束の巡礼者の姿までを瞼に浮かび上がらせるのは何故か。それは、バルトークの作品に通底する情調-ハンガリー民謡が醸し出す民族の風景と私の感性が、私が初めて『舞踏組曲』を聴いた、春という季節の“香り”を介して共鳴する瞬間があるからなのだ。

 

 

<アイデアニュース編集部が探した参考動画>

 

楽譜が入っていて、舞曲の番号も書かれており、間奏曲的な役割を持つ部分(リトルネロ)がどこなのかわかります(2分30秒あたりなど)。

 

 

 

こちらは交響吹奏楽団の演奏ですが、本記事中の「ハープのグリッサンドに導かれてバイオリンが静かに奏でる、リトルネロの美しい主題」という部分が、ハープとフルートの動きでよくわかります(3分10秒あたり)。

 

 

 

<ここからアイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分>

 

■バルトークにとっての音楽の理想は、戦争や紛争に取って代わる民族の共存

 

■音楽の“香り”を初めて感じた『舞踏組曲』

 

■バルトーク作品の転換を高らかに祝福する、ピエール・ブレーズ指揮NYフィルの演奏

 

■私が選んだ参考動画

 

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<注(有料部分内の※も含みます)>
※1 “Dance Suite”, Sz77 (Béla Bartók)
※2 Bartók: The Wooden Prince; Music for Strings, Percussion and Celesta; Dance Suite / Scriabin: Le poème de l’extase (Pierre Boulez) (SONY SM2K 64 100 ADD)
※3 Ernst von Dohnányi (1877年7月27日-1960年2月9日)。孫はクリーブランド管弦楽団の音楽監督でもあった著名な指揮者、クリストフ・フォン・ドホナーニ (Christoph von Dohnányi: 1929年9月8日-)。
※4 Zoltán Kodály (1882年12月16日-1967年3月6日)
※5 Péter Bartók (1924年7月31日-)
※6 “Béla Bartók” by David Cooper, Yale University Press pp 196 (Koichi Kagawa訳)
※7 “Béla Bartók: Composition, Concepts, and Autograph Sources” by László Somfai, University of California Press pp18 (Koichi Kagawa訳)
※8 CBS SONY (STCL13)

 

<筆者プロフィール>Koichi Kagawa/1961年徳島市生まれ。慶應義塾大学法学部、並びに、カリフォルニア大学バークレー校大学院卒業。経営学修士(MBA)。1983年大学卒業と同時にシティバンク東京支店に入行。以後、今日まで複数の欧米金融機関でCOO等要職を歴任。現在、某大手外資系金融機関に勤務。幼少期からクラシックからジャズ、古典芸能、果ては仏教の声明に至るまで、幅広い分野の音楽に親しみ、作曲家とその作品を取り巻く歴史的・文化的背景などを通じ、「五感で感じる音楽」をモットーに音楽を多方面から考え続けている。 ⇒Koichi Kagawaさんの記事一覧はこちら

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