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YouTubeで学ぶ英語:(10)ファルージャで何が起きているのか 高遠菜穂子さん報告

筆者: 松中みどり 更新日: 2016年5月16日

ゴールデンウイークの後半、2016年5月4日から6日まで、高遠菜穂子さんが、イラク報告連続スピーキングツアーを関西で行ないました。その報告会のひとつ、市民社会フォーラム第179回学習会「高遠菜穂子さんトーク~命に国境はない@北新地サンボアバー」(2016年5月5日)に参加しました。そのときのレポートと、「YouTubeで学ぶ英語」をドッキングさせた記事をお送りします。

アイデアニュースではこれまでにも何度か、高遠さんの講演会や、関連した情報を掲載していますので、ご参照ください。アイデアニュースのイラク戦争関連記事→こちらをクリック

2016年5月5日「高遠菜穂子さんトーク~命に国境はない」=撮影・松中みどり

2016年5月5日「高遠菜穂子さんトーク~命に国境はない」=撮影・松中みどり

高遠菜穂子さんのイラク報告は本人が警告する通り「早口」の弾丸トーク。いつも時間いっぱい使って、大切な情報が詰め込まれています。この日も、初めて高遠さんのイラク報告会に参加される人から、何度も聞きに来ている人まで、連休中のお昼の時間帯にも関わらずたくさんの人がやってきました。5月5日、老舗バー「サンボア」で行われた講演会は、他のパネリストや報告者はなしで、高遠さんだけを囲んで行われた、講演者と聴衆の距離が近いイラク報告会。時間ギリギリまで彼女が「今、伝えたいこと」を、心をこめて話し尽くした会でした。

彼女の話の中にも出てきた、現在のファルージャの状況を知るビデオがこちらです。IRIN(Integrated Regional Information Networks 統合地域情報ネットワーク)の2016年4月7日付けレポートの中に出ています。→http://www.irinnews.org/feature/2016/04/07/three-deaths-fallujah

2016年4月、ISに閉じ込められ、イラク軍にも包囲されたファルージャで、行き場を失って絶望した26歳の若い母親が、自分とふたりの幼い子どもの体にロープで石を巻き付け、ファルージャ川に身投げしたという事件がありました。この映像は、その一家の遺体がみつかった後、イラクのソーシャルメディアに登場したものです。目だけを出すニカブ(イスラム教徒の女性が着用する顔を覆うベール)を被った女性が、かまどの前で身振りを交えて語る映像です。

See, this is the situation in Fallujah and the grievances of Fallujah.

わかりますか。これがファルージャの状況なんです。これがファルージャの苦境なんです。

★grievance(名) 抗議、苦情、不平のもと、(不当な扱いに対する)不安の原因

Is it acceptable that a woman in this city can’t even cook for her kids ?

この町の女性は子どもたちのために料理することも出来ないなんて、容認されるべきことですか?

Is it acceptable to leave us in this miserable situation ?

私たちをこんな惨めな状態にして逃げ出すなんて、許されることなのですか?

We are dying of hunger and oppression.

私たちは飢えと弾圧で死に瀕しています。

★oppression (名) 圧迫、圧制、抑圧、迫害 cf. oppress (動) 虐げる、抑圧する   oppressor (名)迫害者、人々を不当に扱う者 the oppressed (名)虐げられた人々

“Three deaths in Fallujah~How a family suicide flags a humanitarian crisis in Iraq”という記事を翻訳してほしいと菜穂子さんがFacebookで呼びかけ、私が訳したのがきっかけで、このビデオに出会いました。たった17秒の短い映像ですが、切羽詰まった女性の声のトーンが、緊迫した状況を伝えています。

ファルージャはなぜこうなってしまったのでしょうか。

2016年5月5日「高遠菜穂子さんトーク~命に国境はない」=撮影・松中みどり

2016年5月5日「高遠菜穂子さんトーク~命に国境はない」=撮影・松中みどり

菜穂子さんは、この日の報告会でも丁寧にイラク戦争前のことから説き起こしてくれました。戦争前のイラクは、世俗主義の政治家サダム・フセインの独裁の元ではありましたが、イスラム教スンニ派とシーア派が共存する政教分離を原則とする国でした。

「僕のお母さんはクルド人です。お父さんはアラブ人です。だから僕はクルド語もアラビア語も話せます」そんな子どもがたくさんいたイラク。スンニ派のお父さんとシーア派のお母さんという家族が普通に暮していたのだそうです。だから、現在の血で血を洗うような宗派対立に最も戸惑っている人たちは、イラクの人たちなのだということでした。

2016年5月5日「高遠菜穂子さんトーク~命に国境はない」=撮影・松中みどり

2016年5月5日「高遠菜穂子さんトーク~命に国境はない」=撮影・松中みどり

イラクには大量破壊兵器があるから、そして2001年9月11日の米同時多発テロをおこした国際テロ組織アルカイダに協力したから、また独裁に苦しむイラクを民主化しなければならないから、そういう理由でイラク戦争が始まったのでした。しかし、現在、戦争を開始した根拠はくつがえされています。

大量破壊兵器保有疑惑に関しては、イギリスも、戦争を始めた当事者であるアメリカも、「情報の多くが誤りだった」と認めています。世俗主義の政治家だったフセインはイスラム原理主義のアルカイダとは、実は「犬猿の仲」でした。それでもイラク攻撃を強行した結果、イラクは民主化されるどころか、多くの難民や国内避難民を生み、テロを増大させる事態になったのです。

米軍が占領して以来、スンニ派はフセイン大統領支持派として、新しい政権から排除されました。シーア派政党が生まれ、スンニ派は弾圧され、これまで共存してきた人たちは混乱し、民主化が進むどころか、事態は悪化していきました。最大の被害者は、イラク市民なのです。

こうした国際社会での常識に照らして、日本という国はあまりにナイーブだと菜穂子さんは指摘します。世界の情勢はライブで、刻一刻と変化していくのに、日本だけ時間が止まっているようだと。

2016年5月5日「高遠菜穂子さんトーク~命に国境はない」より

2016年5月5日「高遠菜穂子さんトーク~命に国境はない」より

例えば、国際連合監視検証査察委員会: United Nations Monitoring,Verification and Inspection Commission(略称 UNMOVIC アンモヴィック)は、国際連合の機関で、イラクの大量破壊兵器破棄のため、査察活動を行っていましたが、その委員長であるハンス・ブリックス氏がイラクにはそのような兵器はなかったと証言しています。先にも書いたように、アメリカ合衆国でさえ認めていることを、日本政府は今も認めていません。

防衛省が2009年国会に提出した「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法に基づく対応措置の結果(国会報告)」によると、イラクが査察への協力を含む国連安保理決議に違反したとなっているのですが、大量破壊兵器がなかったことにはついては書かれていません。→「自衛隊イラク派遣の報告書」

2016年5月5日「高遠菜穂子さんトーク~命に国境はない」=撮影・松中みどり

2016年5月5日「高遠菜穂子さんトーク~命に国境はない」=撮影・松中みどり

自衛隊が派遣される前、菜穂子さんたちイラク支援に関わる人たちは、イラクの人々の「美しき誤解」にある意味、恩恵を受けていたそうです。日本は広島・長崎の核攻撃から立ち上がった国。奇跡の経済復興を遂げた国。そして、日本は軍隊を持たない国であると思いこんでいる人たちが中東地域に相当数いたそうです。だから、日本人なら大丈夫だ、日本人大好きだという人が多くて、当時の小泉首相が「イラク復興のため、人道的支援をおこなう」と述べた時は、イラクの人たちはまさか日本から軍隊がやってくるとは夢にも思っていなかったのでした。実際には、米軍やオランダ軍と変わらない恰好をした“日本軍”がやってきて、おこなった仕事はアメリカ軍をはじめとする多国籍軍関係者を運ぶ兵站だった・・・。

自衛隊はSelf-Defense Forcesと英語で言いますが、ずっと戦争をしてきたイラクの人々にとって、「軍隊が自衛のためにあるのは当たり前だろう、どう違うんだ」という真っ当な疑問がわきます。“人道的な支援”をするためにやってきたのが、菜穂子さんのような人道的な活動をしている民間人ではなく、“日本軍”だったことはイラクの人々に大きな衝撃を与えました。しかも、後方支援と日本語で言う自衛隊の仕事は、兵站:logistics 。ブリタニカ国際大百科事典 によると、「軍事装備の調達,補給,整備,修理および人員・装備の輸送,展開,管理運用についての総合的な軍事業務」です。

2016年5月5日「高遠菜穂子さんトーク~命に国境はない」より

2016年5月5日「高遠菜穂子さんトーク~命に国境はない」より

口当たりのいい日本語表現でごまかしているうちに、世界が見る日本と日本国内から見る日本のイメージにはギャップが広がっていったと菜穂子さんは言います。2004年1月、北海道から自衛隊の先遣隊が派遣されたのを皮切りに、日本の各地から自衛隊員が派遣されていきますが、徐々に日本国内の報道も少なくなり日本人の関心も薄れていきました。しかし、イラク国内や、海外のメディアはJapanese soldiers に注目していたのです。

自衛隊がイラクにやってきて以来、菜穂子さんたちの仕事はやりづらくなりました。「私が日本人と働いていることは言わないでくれ」と、協力してくれるイラクの人に言われるようになっていきます。自衛隊が来たことで、「美しき誤解」はとけたというわけです。米軍を中心とする多国籍軍が展開した「テロとの戦い」は、イラクの民間人を多数殺傷、恨みと怒りと憎しみを遺族に残しました。その手伝いをしている“自衛隊”にも、矛先は向けられ、菜穂子さんのような人道支援をしている人たちにも,日本人であれば同様の憎悪の目が向けられた・・・つまり、自衛隊≒日本軍が来たことで、日本人は危険な状況に追いやられたのです。日本人ならOKだと、歓迎されていた人権活動家たちを危険においやったのは、日本の自衛隊の存在。皮肉な、しっかりと見るべき現実です。

2001年9月11日、国際テロ集団アルカイダが米同時多発テロをおこない、フセイン政権とアルカイダが結託しているとして、2003年3月米・英軍イラク攻撃開始。(それは事実無根だったということはすでに明らかになっています)イラク首都バグダッド陥落後、ファルージャやラマディに侵攻、非暴力のデモをおこなっていた民間人を米軍が狙撃。遺族の中には、武器を手に取るものもあらわれ、アルカイダ系組織がファルージャに入り、地元の抵抗勢力と一時的に手を結びますが、自爆テロ攻撃をおこなって、ファルージャ市民が犠牲になりました。

その後、ファルージャで“アメリカ民間人”(アメリカのセキュリティサービス会社ブラックウオーターの社員で、戦闘地域で要人の警護や輸送を行っていた。実態としては傭兵)が殺害されたことをきっかけに、2004年、大規模なファルージャ総攻撃が行われます。第一次ファルージャ総攻撃で市民700名以上が犠牲になり、第二時ファルージャ総攻撃では死者6000名ともいわれています。

2004年は、日本では「イラク日本人人質事件」の起きた年として記憶されがちですが、イラク戦争の歴史を語る上でこの年は「ファルージャ総攻撃」の年として理解する必要があります。なぜ日本人が人質になったのか、なぜ今もイラク戦争は終わっていないのかを理解するには、この戦争の歴史を見なければなりません。今、起きていることを知らなければなりません。そのためには、日本で手に入る情報だけでは、まったく足りない。それを、高遠菜穂子さんは、どの講演会でも必ず強調しています。

暴力と報復の連鎖のなかで、ファルージャは今も攻撃にさらされています。先に紹介したIRIN(Integrated Regional Information Networks 統合地域情報ネットワーク)の2016年4月7日付けの記事から引用します。

Last month, the 26-year-old roped herself and her two young children to a rock and tossed it into a Fallujah river. Their bodies were found shortly after.先月、26歳の女性が、自分とふたりの幼い子どもの体にロープで石を巻き付け、ファルージャ川に身投げした。遺体はほどなくして見つかった。

The deaths of the young family have sent shockwaves through Fallujah, a city controlled by the so-called Islamic State group and surrounded by Iraqi security forces. No one is sure how many civilians are still inside the city ? estimates range from 30,000 to 50,000, but it’s certain that food isn’t getting in and people aren’t getting out. 若い家族の死はファルージャに衝撃を与えている。ファルージャは、いわゆる「イスラム国」グループに支配され、イラク治安部隊に包囲されている町だ。何人が閉じ込められているか誰にも分からない。おそらく3万から5万という数だと思われる。食料は調達されず、人は出ていけないということだけは確かだ。

Using the common Arabic name for IS, she insisted that her family had no connection to the militant Islamists.“We are not Daesh… we are victims who have no power.”

Her insistence that she harbours no sympathy for IS points to the complications of the siege of Fallujah. There’s a deep sense of mistrust between Fallujah’s largely Sunni population and Iraq’s Shiite-dominated central government. ISを示すアラビア語を使って彼女は訴えた。「私たちはダーイッシュじゃないんです。なんの力もない犠牲者よ」
ISとなんの関係もないし、共感も抱いていないと訴える女性の言葉が、ファルージャの状況の複雑さを示している。スンニ派が多数を占めるファルージャと、シーア派が支配するイラク政府との間の不信感は根深い。

2016年5月5日「高遠菜穂子さんトーク~命に国境はない」より

2016年5月5日「高遠菜穂子さんトーク~命に国境はない」より

「イラク支援を続けていると日本が見えてくる」菜穂子さんが繰り返し使う言葉です。日本の中にいては見えないことが、外に出ると見えてくる。ISとイラク戦争が直接つながっていることも、“自衛隊”がどう見られているかも、イラク戦争の米軍主力部隊が沖縄から来たことも、イラク新政府の「スンニ派狩り」が凄まじかったことも、せっかく復興したファルージャ総合病院が2014年攻撃を受けたことも、ファルージャでは米軍待望論が出るほど極限状態であることも、私は菜穂子さんのような現場で働く人々から知りました。日本政府や、大手メディアからではありませんでした。

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<筆者プロフィール>松中みどり(まつなか・みどり) フィリピン支援ボランティア/英語講師/ライター 初めて行った外国がフィリピンで、以来かの国の人々の明るさ温かさに魅せられ、様々なNGOや支援活動に関わる。1994年からは山岳先住民アエタの教育支援主宰。コミュニケーションツールとしての英語を各地で教えている。動物好きの自称「ケモノバカ」。飼い猫は黒猫で親バカ度も加速中。 ⇒松中みどりさんの記事一覧はこちら

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