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エッセイ:「Holly You and Me」(1)紅葉色の春、訪れて

筆者: 堀内優美 更新日: 2015年5月10日

 

兵庫県・淡路島出身のフリーライターで、エンタテイメント分野などで執筆している堀内優美さんの自伝的エッセイ、「Holly You and Me」を連載します。第1回目は、淡路島の自然を背景に祖母との思い出をつづった「紅葉色の春、訪れて」です。(アイデアニュース編集部)

 

幼いころよく散歩した裏山の曲田山=堀内優美さん撮影

幼いころよく散歩した裏山の曲田山=堀内優美さん撮影

 

モミジの新芽が顔を出しはじめた。

 

根元に近い枝から芽吹き、初夏を迎える頃にはてっぺんの枝まで葉をつけ、立派な緑の樹木となる。モミジといえば秋を連想しがちだが、四季を通じて七変化する様は美しく魅力的だ。

 

幼少の頃、祖母に連れられ、家のそばにある裏山をよく散歩した。標高80メートルの小さな山であったが、春には桜、秋には紅葉と賑わいをみせていた。

 

裏山への散歩が日課だった祖母は、私が幼稚園から帰ってくると、「山へ登らんか」と言っては連れ出した。

 

 

ある日、山道を歩いていると、道端に小さなモミジが地面からちょこんと生えているのを見つけた。

 

5つに切り込まれた葉っぱが土から顔を出す光景に、「見て!おばあちゃん。モミジが地面から生えてるよ!」。めずらしがって興奮する幼い私に祖母は、「ああ、モミジの芽やな」と言って根からすくい上げるように優しく摘み、家に帰るや植木鉢に植えて水をやった。

 

「これはな、おまえさんの背を超す大きな木になるんやで」

 

祖母の言葉に私は、へぇ……と感心し、「じゃあ、どっちが先にノッポになるか競争だね」なんてことを言いながら楽しみに観察した。

 

小さな芽はやがて二叉に分かれて枝を持ち、2つ3つと葉をつけていく。夏が来る頃には10センチほどの高さになり、秋になるといっちょまえに紅葉した。

 

 

小学校に上がると友達と過ごす時間が増え、祖母と一緒に出かけることに気恥ずかしさを感じるようになってきた。 だから「山へ登らんか」と言われても、いやや、と首を振った。 祖母は寂しそうに、そうか、と言ってひとりで出かけた。

 

その頃の私は、アサガオやヒマワリといった色鮮やかに花を咲かせるモノに夢中で、モミジへの関心はなくなっていた。

 

「だってな、モミジは大きな花も咲かへんし地味やもん……」

 

しかし祖母はモミジの水やりを欠かさず続けていた。 ある程度大きくなってくると大きな鉢に植え替え、剪定しては芽摘みをし、見映えよい形に整えていく。

 

当時、祖母は和裁を生業とし、家業を営む祖父を支えていた。着物をこしらえる合間に庭いじりをするのが唯一の楽しみで、数十種類もの花や草木が植えられていた。

 

そんな中でもモミジを特に可愛がり、5年、10年、15年……と、まるで子供を育てるように、祖母は愛情を注ぎ続けた。

 

 

歳月が流れ、成人式を迎えた朝、私は祖母が用意してくれた振袖に手を通した。

 

「早いなあ……もう二十歳か……」

 

そうつぶやき、祖母は着物姿の私を嬉しそうに見つめた。すっかり年老いた祖母は痩せて小さくなり、昔のようなたくましさの面影はない。

 

一緒に写真を撮ろうと言って庭先に出ると、落葉したモミジの裸木が私たちを見つめていた。葉を失い、寂しげな裸木はいつのまにか私の背を越し、幹は祖母の腕よりも太く成長している。

 

「心配せんでも春になったらな、ちゃんと新芽を出すから、もうちょっとの辛抱や」

 

裸んぼの木にもたれかかり、隣に並んで記念撮影をする。考えてみたら、ツーショット写真を撮るなんて小学校の卒業式以来で、お互いちょっぴり照れくさい。

 

ピースサインをする私に「晴れ着姿でチョキなんてはしたない」なんてブツブツ言いながらも嬉しそうだ。

 

照れ隠しに「今年は久しぶりに裏山の紅葉を観にいきたいね」と言ってみると、「そんな情緒のあること言える歳になったんやな。ほんまや、楽しみやな……」 と瞳を細めて笑った。

 

曲田山(散歩した裏山)=堀内優美さん撮影

曲田山(散歩した裏山)=堀内優美さん撮影

 

しかしその年の紅葉の季節、祖父が他界し、祖母も後を追うようにあっけなく亡くなってしまった。 あまりにも突然の別れに、私は体内の水分がなくなってしまうほど、涙を流した。

 

主人をなくした庭先のモミジも葉を失い、裸のまま呆然と立ち尽くしている。

 

それでも春になれば新芽が再び顔を出し、例年どおりに春夏秋冬のならいを重ねていく。 夜が来て朝が来るように、生命は成住壊空を繰り返す。

 

もしも輪廻転生というものがあるならば、肉体は朽ちても生まれ変わり、新しい生が再び始まる。 そう考えると、宇宙に溶け込んでいった祖母の生命は、永遠に生き続けるのかもしれない。

 

 

庭先のモミジは、今や植木のレベルではなく3メートルを超す立派な樹木となった。 春の陽射しを全身に受け、カレンダーどおりに移り変わる季節とともに七変化しながら、今年も色をつけてゆく。

 

あとで知ったのだが、モミジの花言葉は「大切な思い出」だという。

 

私は時折、木の幹にもたれかかっては空を見上げ、天国の祖母に向かって話しかける。

 

「おばあちゃん、今年もまた春がやってきたよ」

 

天国にも四季はあるのだろうか。

 

祖母宅の庭先の紅葉=堀内優美さん撮影

祖母宅の庭先の紅葉=堀内優美さん撮影

 

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<「Holly You and Me」これまでの掲載分(隔週木曜日に掲載中)>

第1回 紅葉色の春、訪れて   → https://ideanews.jp/archives/2891

第2回 月に願いを        → https://ideanews.jp/archives/3397

第3回 丘の上から青空見つめて → https://ideanews.jp/archives/3885

第4回 海の向こうへ       → https://ideanews.jp/archives/4406

第5回 阪神電車の車窓から   → https://ideanews.jp/archives/5131

第6回 夕陽に祈りをこめて  →https://ideanews.jp/archives/5764

 

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☆読者の声

 

曲田山、懐かしい響きに胸が熱くなりました。わたしにとっても思い出深い場所です。淡路島に実家が無くなってしまった今でも、変わらず私の故郷であり、懐かしい場所として、いつまでもそのままであってほしいなあと願うばかりです。(てんすけ)

<筆者プロフィール>堀内優美(ほりうち・ゆみ) フリーライター。兵庫県出身。行政の広報・番組制作に携わった後、フリーアナウンサーに。女性ならではの繊細な感性で描くコラム、自身の経験を生かしたエンタテインメント分野の執筆・取材を得意とし、新聞・雑誌・WEBにて連載中。司会者、ナレーター、講師としても活動している。 ⇒堀内優美さんの記事一覧はこちら

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