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エッセイ:「Holly You and Me」(3)丘の上から青空見つめて

筆者: 堀内優美 更新日: 2015年6月4日

 

堀内優美さんの書き下ろしエッセイ「Holly You and Me」の第3回「丘の上から青空見つめて」を掲載します。(アイデアニュース編集部)

 

 

三熊山から見る青空と洲本の市街地=撮影・堀内優美

三熊山から見る青空と洲本の市街地=撮影・堀内優美

 

 

雨上がりの空に浮かぶ大きな円虹を一度だけ見たことがある。

 

中学に入学してまだ間もない頃、校舎の窓ガラスの拭き掃除をしていると、太陽の周りを囲むように大きな円い虹が七色のグラデーションを放ちながら現れた。グラウンドでサッカーをしていた高校生たちも足を止め、「すげえ…」と数分間の天体ショーに釘付けられている。

 

十二歳の春、私は雨上がりの空の美しさをはじめて知った。

 

 

幼稚園から小学校まで祖父母の家近くの学校に越境通学していた私は、なじみの友達と八年間共に過ごしたが、住民票の校区の中学校への進学を強いられ、私立中学を受験した。

 

新しい友達、新しい制服、新しい通学路、新しい風景……。「弥生が丘」と呼ばれる丘の上にある校舎は、緩やかな坂道を上ったところに正門があって、食堂、体育館、グラウンド、テニスコート、プール……と敷地は広い。放課後になるとブラスバンド部の演奏が夕暮れ時を優しく彩っていた。

 

また6年一貫教育の進学校だったので、中学生と高校生が同じ校舎で学校生活を送るというめずらしい環境だった。

 

 

小学校を出たばかりの私にとって、高校の先輩たちはずいぶん大人びて見え、キャンパス内で高校生とすれ違うと畏縮してしまい、つい下を向いてしまう。

 

そんな調子だからある時、廊下で男子生徒とぶつかった。顔を上げると、そこには背が高くて目鼻立ちの整った高校生の姿があった。大丈夫?と優しい瞳を向けてくれたにも関わらず、私は「スミマセン」とだけ言って、その場をそそくさと去った。

 

その頃の私は毎日、7限目の授業が終わると、坂の下にある小さな神社の境内で母の迎えを待っていた。

 

そこは時々高校生たちのたまり場になっていて、その集団の中にいつもその人がいるのを知っていた。彼は学園のアイドル的存在で、キャンパス内を歩いているだけで女生徒たちが騒ぐほどの人気者。この日を境に私も例にもれなく「先輩」を意識し、彼の姿を目で追うようになっていた。

 

 

バレンタインデーの日、初めて手作りチョコに挑戦し、手紙を添えて先輩の靴箱にそっとしのばせた。

 

数日後、先輩本人からお礼の電話があった。少し会話をしたような気もするが、ひたすら自分は「ハイ……」と返事をするだけで、何を話したか、ほとんど覚えていない。

 

それ以来、先輩は廊下ですれ違うと、笑顔を向けてくれるようになった。しかし当の私はお辞儀だけして、その場を走り去る始末。気まずさと恥ずかしさで、出来るだけ先輩と顔を合わせないようにと、母の迎えを待つ場所も神社の境内から国道沿いの橋の袂に変更した。

 

だが、いつしか神社の境内にたむろする高校生の輪の中に先輩の姿はなくなっていた。代わりに、他校の女子高生と一緒にいる先輩を度々見かけるようになり、何度もその後姿を見送った。

 

夕陽に溶け込んでいく二つのシルエットは、もの哀しくも美しかった。

 

 

月日はあっという間に過ぎ、先輩の卒業式の日がやってきた。

 

私は第二ボタンをせがむ女生徒たちに紛れ込み、勇気を出して先輩に声をかけてみた。「よかったら一緒に写真を、お願いしてもいいですか」。先輩はいいよ、と笑顔で応じてくれ、隣に並んでハイチーズ。

 

「ありがとうございました」とお礼を言うと、最後に握手をしてくれた。

 

坂道の手前でもう一度振り返ってみると、先輩は校舎の方をじっと見つめていた。6年間通い続けたキャンパスに別れを告げているのだろうか。私はその光景を目に焼き付け、弥生が丘から望む空を見上げた。

 

太陽の光はまぶしく、清々しいほどの青空が広がっている。例えばこれが雨上がりだったとしても、大きな虹が現れて、新しい門出を祝福してくれたことだろう。

 

 

その後、風の噂で先輩が東京の大学に進学したと聞いた。

 

私は校舎の窓から空を見つめ「東京にもこの青空が続いているんやなぁ……」と独り言のようにつぶやきながら、少しだけ大人になった自分に気づいて嬉しくなった。

 

 

故郷の青空(サントピアマリーナ)=撮影・堀内優美

故郷の青空(サントピアマリーナ)=撮影・堀内優美

 

 

「Holly You and Me」第3回「丘の上から青空見つめて」、おわり。

 

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<「Holly You and Me」これまでの掲載分(隔週木曜日に掲載中)>

第1回 紅葉色の春、訪れて   → https://ideanews.jp/archives/2891

第2回 月に願いを        → https://ideanews.jp/archives/3397

第3回 丘の上から青空見つめて → https://ideanews.jp/archives/3885

第4回 海の向こうへ       → https://ideanews.jp/archives/4406

第5回 阪神電車の車窓から   → https://ideanews.jp/archives/5131

第6回 夕陽に祈りをこめて  →https://ideanews.jp/archives/5764

 

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アイデアニュース有料会員向け【おまけ的小文】 「中学時代」は、なかなか筆が進まず一苦労(堀内優美)

 

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<筆者プロフィール>堀内優美(ほりうち・ゆみ) フリーライター。兵庫県出身。行政の広報・番組制作に携わった後、フリーアナウンサーに。女性ならではの繊細な感性で描くコラム、自身の経験を生かしたエンタテインメント分野の執筆・取材を得意とし、新聞・雑誌・WEBにて連載中。司会者、ナレーター、講師としても活動している。 ⇒堀内優美さんの記事一覧はこちら

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