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エッセイ:「Holly You and Me」(6)  夕陽に祈りをこめて

筆者: 堀内優美 更新日: 2015年7月16日

 

西浦(淡路島の西岸地域)にはサンセットラインと呼ばれる道がある。夕暮れ時になると夕陽が水平線の向こうへ沈み、海に光が反射して鮮やかなオレンジ色に染まりゆく。サンセットラインには五つの色の天然石が敷き詰められた「五色浜」と呼ばれる浜がある。

 

島からみた夕陽(撮影:堀内優美)の写真

島からみた夕陽(撮影:堀内優美)

 

短大卒業後、浜のそばにある町役場に就職した。その年、島で第一号となる公営のCATV局が開局し、アナウンサーとして採用された。CATVが開局したきっかけはテレビの難視聴解消と双方向システムを活用した五色町在宅保健医療福祉支援システムと緊急通報システムを構築する目的からだった。加入世帯は町全体の9割を超え、自主放送番組の内容も地域住民の生活に密着したものだった。

 

わずか6人のスタッフで週5本以上の番組を手がけ、アナウンスだけではなくニュース原稿も自分で書いた。慣れてきた頃には、先輩のディレクターから編集機やカメラの使い方を教わり、映像の編集や撮影にも携わった。取材から戻るとニュース原稿を起こしてスタジオ収録の準備をし、翌日には放送がはじまる。大変なこともあったが、番組の構成を考えたり、企画物を担当したり、思い描く内容が番組化される感動はひとしおだった。

 

CATVアナウンサー時代の筆者写真

CATVアナウンサー時代の筆者、6人のスタッフで自主放送番組を制作していた

 

そんなある日の明け方、大魔神のような怪物が登場し、ビルを大きく揺さぶられる夢を見た。あまりにも怖くて目を覚ますと、夢の続きなのか、ゴーッと雷のような地鳴りと激しい揺れが襲い掛かり、ガラガラガシャーンと物の壊れる音が響き渡った。両親の悲鳴が聞こえ、「これは夢ではない」と思って飛び起きた。ほんの数十秒間だったが、とても長く感じた。棚の上にあったものは全部落ち、食器は割れ、大きな仏壇の位置がずれている。テレビをつけると、震源地は島の北部だという。神戸では火災が起きていると知り、神戸の親戚に電話したが回線がパンクしてつながらない。

 

ひとまず役場に出勤しようと車を走らせると、いつも渡っている橋が渡れなくなっていた。電信柱や木々は倒れ、北へ進むごとに無惨な光景になっていく。足を震わせながら運転し、ようやく到着すると役場はパニック状態だった。

 

このとき救世主となったのが「有線放送電話」というもので、CATV回線を使って加入者同士で無料通話ができる「おまけ特典」のような電話が、NTTの回線がこみあった際に、とても役立った。

 

この日は、避難所や救援物資のありかを中心に放送し、放送中に余震が何度もきたので「落ち着いて行動してください!」と必死で呼びかけた。ニュースでは死傷者の数字がどんどん増え、火災や液状化現象、停電、断水と、不安な情報ばかりが耳に飛び込んでくる。絶望の中に希望を見出そうと、日々祈るような気持ちで、1日も早い復興を願った。

 

しかし、被災地ではたくさんの真心もあふれていて、ボランティアの方々にはずいぶん助けられた。ビルや橋といった「文明」のもろさを痛感することで、思いやりや助け合いという人間本来の「文化」が生まれたことには間違いない。(のちに1995年は「ボランティア元年」と呼ばれるようになった)

 

数ヶ月経つと、少しずつ日常の生活に戻りつつあった。その頃になると、毎日のように報道陣がCATV局を訪れた。地元メディアはどう動いたのか、命綱となった有線電話について聞かせてほしい等々、同じ質問が何度も飛び交う。そして私も、なぜ島のアナウンサーになったのか、これからアナウンサーとしてどう使命を果たしていこうと考えているのか・・・等々、繰り返し質問された。だが、震災後は島に明るいニュースはほとんどなかっただけに、若干21歳の自分は無力さを痛感し、それらの質問に答えることができなかった。

 

筆者、スタジオ収録風景写真

CATVアナウンサー時代の筆者、スタジオ収録風景

 

梅雨にさしかかる頃、ある交響楽団が慰問コンサートのため仮設住宅を訪れた。島のために来てくれたことへの感謝として、司会のお手伝いをさせていただいた。演奏したのは「赤とんぼ」「ふるさと」といった童謡やなじみの愛唱歌だった。聴衆は涙ぐみ、メロディにあわせて歌を口づさんでいる。今日も生きてて良かったね、1日1日大切にしようね……そんな風に語りかけてくれているようで、優しい気持ちに包まれてゆく。終了後、楽団長が私に言った。「よかったら私たちと一緒に、被災地をまわりませんか」。

 

私は再び島を離れ、司会者としてやっていく決意をした。自身の声を使えば何か人の役に立てるかもしれない、島で生まれ育った自分が元気にがんばることで、島の人々に希望を与えていくことができるかもしれない、なんて思いながら……。

 

その年の夏、お世話になった町長の勇退とともに私は役場の制服を脱いだ。役場を去っていく私に、誰一人として嫌な顔をすることなく、あたたかく見送ってくれた。夕陽の沈んでゆくサンセットラインを見つめながら、お世話になった島に別れを告げ、私は再び船に乗った。

 

その後、市との合併により、CATV局は2008年に閉局したという。しかし、カメラを担いで番組制作に情熱を燃やした仲間たちが確かにいたことを、夕陽は今もきっと覚えていて、今日も明日もあさっても、記憶の中のあの頃を照らし続けてくれることだろう。

 

 

「Holly You and Me」第6回「夕陽に祈りをこめて」 おわり

 

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<「Holly You and Me」これまでの掲載分(隔週木曜日に掲載中)>

第1回 紅葉色の春、訪れて   → https://ideanews.jp/archives/2891

第2回 月に願いを        → https://ideanews.jp/archives/3397

第3回 丘の上から青空見つめて → https://ideanews.jp/archives/3885

第4回 海の向こうへ       → https://ideanews.jp/archives/4406

第5回 阪神電車の車窓から   → https://ideanews.jp/archives/5131

第6回 夕陽に祈りをこめて  →https://ideanews.jp/archives/5764

 

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おまけ的小文 :島生まれの筆者オススメ!絶景夕陽スポット

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<筆者プロフィール>堀内優美(ほりうち・ゆみ) フリーライター。兵庫県出身。行政の広報・番組制作に携わった後、フリーアナウンサーに。女性ならではの繊細な感性で描くコラム、自身の経験を生かしたエンタテインメント分野の執筆・取材を得意とし、新聞・雑誌・WEBにて連載中。司会者、ナレーター、講師としても活動している。 ⇒堀内優美さんの記事一覧はこちら

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