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世界が困難に覆われている2020年に再演が叶った尊さを感じた、ミュージカル『生きる』

筆者: 橘 涼香 更新日: 2020年10月23日

ミュージカル『生きる』が2020年10月9日から日生劇場で上演中です(10月28日まで。のち、11月2日から11月3日まで富山・オーバードホール、11月13日から11月14日まで兵庫・兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール、11月21日から11月22日まで福岡・久留米シティプラザ ザ・グランドホール、11月28日から11月30日まで愛知・御園座でも上演)。遅くなりましたが、開幕直前に実施されたゲネプロの模様を紹介します。(※このレポートは、渡辺勘治役が鹿賀丈史さん、小説家役が新納慎也さんの組み合わせの回を観たものです)

(左から)小説家役の新納慎也さんと渡辺勘治役の市村正親さん=ミュージカル『生きる』より、写真提供・ホリプロ
(左から)小説家役の新納慎也さんと渡辺勘治役の市村正親さん=ミュージカル『生きる』より、写真提供・ホリプロ

この作品『生きる』には、「私は何を残しただろう」というテーマが貫かれています。ひと度生を受けた者は、いつか必ずこの世を去る。その時に「私はこれを残した」と、胸を張って言える人が果たしてどれくらいいるでしょうか。それほどこのテーマは深く、重いのです。だからこそ、作品の主人公・渡辺勘治が、限りがあると明確にわかった人生の最後の日々をかけて、市民の為の、何より未来の子供たちの為の公園を作ろうとし、実際にそれを実現させて一人ブランコを漕ぐ、あまりにも有名な原作映画の名シーンが深く心に刺さります。自分の心に確かな「私が残したもの」を得た渡辺は、紛れもなく市井の人のヒーローです。『生きる』はそんな滋味深いヒューマニティを描いた映画なのです。

そんな風に、この映画が名作だということは誰もが認めるところでしょうが、ひとたびこの映画がミュージカルになる?と考えた時に、やはり「そう来たか!」と膝を打つ感覚よりも、驚きの方が大きかったのが初演の企画発表時点での正直な感想でした。作品の静かなる一個人の闘いと、ミュージカルの世界観とが結びつく感覚は決してストレートに結ばれるものではありませんでした。

けれどもこの映画をミュージカルにしようとした、全ての人々に感じる敬意は、今回の2020年版再演に接して、ますます大きく膨らんでいきました。舞台の中央に印象的に位置する大時計が、渡辺の永遠に変わらないと思われた日常に、突然人生のカウントダウンを刻みはじめる。その懊悩や迷い、更にそこからの決断と前進が、音楽に乗せて、時に猥雑なまでにカラフルなダンスシーンや、時に切々と胸を打つ絶唱で綴られていく様がなんとも見事なのです。ここには、数々のミュージカルナンバーによって、感情とドラマが一気に飛翔していく「ミュージカル」という世界の持つ力が、ふんだんに活かされた強みがあります。

(左から)小説家役の小西遼生さんと渡辺勘治役の鹿賀丈史さん=ミュージカル『生きる』より、写真提供・ホリプロ
(左から)小説家役の小西遼生さんと渡辺勘治役の鹿賀丈史さん=ミュージカル『生きる』より、写真提供・ホリプロ

特に、新しいことをしようとして役所内で孤立していくばかりか、男手ひとつで育てた息子との隔たりも深まり、果てはやくざ者に襲われさえする渡辺の苦難が、音楽の中で描かれていくことで、ドラマのスピード感が落ちないのが素晴らしいのです。だからこそ、畳みかけるクライマックスへの怒涛の展開のあとで迎える、終幕の美しさには息を飲みます。ここには、日本のミュージカル界が今後更に次々と手掛けていって欲しい、日本生まれのオリジナルミュージカルへの創造にとってのひとつの道筋、大きな希望が示されていると感じさせられます。

思えば不朽の名作ミュージカルとして輝く『レ・ミゼラブル』も、ビクトル・ユゴーの原作世界に立ち返れば、これをミュージカルにしようと、はじめに考えた人の発想力も、計り知れないものです。そう思うと、黒澤映画の「生きる」をミュージカル化しようとの着想もまた、意表をついたものだったからこそ、これだけの鉱脈を掘り当てたとも言えるのではないでしょうか。ミュージカルの魅力を知り尽くした宮本亞門さんならではの、時にコケティッシュに、時に華やかに場を弾ませて物語を牽引していく力も、再演に際して更にブラッシュアップされていて、一層の起伏とテンポの良さを感じさせます。

※アイデアニュース有料会員限定部分には、レポートの全文と写真を掲載しています。

<有料会員限定部分の小見出し>

■日本のある時代までの家長を体現している渡辺の苦みが、鹿賀の個性に合って

■自由人に見える持ち味を生かした新納。初演よりも更に説得力を深めた歌いぶり

■大人な個性に瑞々しさを生むMay’n、キュートで内面表現にハッとさせられる唯月

■思考が短絡的になる光夫役、村井の伸びのある歌唱と温かな資質が押し上げ

■助役役の山西惇、組長役の川口竜也ら、ミュージカル界の常連組が底支え

■懸命に生きる美しさを描いた、上演を重ねるべき日本産オリジナルミュージカル

<ミュージカル『生きる』>
【東京公演】2020年10月9日(金)~10月28日(水) 日生劇場
【富山公演】2020年11月2日(月)~11月3日(火・祝) オーバードホール
【兵庫公演】2020年11月13日(金)~11月14日(土) 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
【福岡公演】2020年11月21日(土)〜11月22日(日) 久留米シティプラザ ザ・グランドホール
【名古屋公演】2020年11月28日(土)~11月30日(月) 御園座
公式サイト
http://www.ikiru-musical.com

<キャスト>
市村正親、鹿賀丈史、
村井良大、新納慎也、小西遼生、May’n、唯月ふうか、山西惇、
川口竜也、佐藤誓、重田千穂子、
治田敦、林アキラ、松原剛志、上野聖太、鎌田誠樹、砂塚健斗、高木裕和、福山康平、飯野めぐみ、あべこ、彩橋みゆ、五十嵐可絵、石井亜早実、河合篤子、中西彩加、竹内真里、高橋勝典、市川喬之

<クリエイター>
作曲・編曲:ジェイソン・ハウランド
演出:宮本亞門
脚本・歌詞:高橋知伽江

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渡辺勘治役の市村正親さん=ミュージカル『生きる』より、写真提供・ホリプロ
渡辺勘治役の市村正親さん=ミュージカル『生きる』より、写真提供・ホリプロ

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<筆者プロフィール>橘涼香(たちばな・すずか) 演劇&音楽ライター。母親がミュージカル、レビューファンで幼少期からの観劇歴を経て、自身もLIVEの虜に。専門誌への投稿がきっかけで演劇ライターの道を進み、近年は音楽大学出身の出自を生かしたクラシック取材にも力を入れている。語り手の声が聞こえる原稿を目指して奮闘中。 ⇒橘涼香さんの記事一覧はこちら

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