2022年9月25日(日)から9月30日(金)まで東京・Bunkamuraオーチャードホールで、10月7日(金)から10月10日(月・祝)まで福岡・キャナルシティ劇場で上演される、ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』にトキ役で出演する小西遼生さんとジュウザ役で出演する伊礼彼方さんの対談、後編です。「下」では、長年親交のある二人に、幅広くお話していただきました。最近の互いの出演作や役を見て思っていること、アドリブについて、小西さんの『ピーターパン』のフック船長や、伊礼さんの『レ・ミゼラブル』のジャベール、『ミス・サイゴン』のエンジニアの話、伊礼さんの芝居には、鴻上尚史さんの演劇論が基礎にあるのではという話、小西さんが演劇論を勉強していた頃のこと、「ミュージカルを芝居にしたい」と以前からお互い話していたということなどについてお話ししてくださった内容と、再演にあたっての、お客さまへのメッセージを紹介します。
――この機会に、おふたりで話しておきたいことはありますか?
伊礼:『ピーターパン』しかり、『北斗の拳』もだけれど、ちょっと路線を変えてきた? 何か新しいチャレンジしようとしてる?
小西:いや、基本的にはやらせたいと思ってくれる人がいるからやる。だから『ピーターパン』や『ジョセフ・アンド・アメージング・テクニカラー・ドリームコート』などの、最近の結構はっちゃけた役というか、自由度の高い役や、お馬鹿な役とか。チャレンジというよりかは応えるつもりでやってるかな。「何でもできるよ」みたいな。
伊礼:じゃあ、そういう年齢に差しかかってきたんだ。
小西:お客さんや関係者が持ってくださっているイメージって、今までに演じてきた役柄の経歴なんだと思うけど、意外と思われる役をくれる人が、今までそんなに多くなかったのかもね。
伊礼:増えてきたんだね。やらせてみたいってことだ。でもそれをちゃんと体現できてるんだもんね。『ピーターパン』は観れてないけれど、あの陽気な写真を見た時に「多分ここまでやるんだろうな」というイメージはできた。
――今年は拝見できませんでしたが、初演はすごく面白かったです。
伊礼:やり切ってましたか?
――はい。舞台に登場されたときの、姿勢や立ち姿から凄かったですね。
伊礼:動画で見て、結構行ききってるなと。男は40歳も過ぎると、小西くんもいろいろ考えているのかなと思って。
小西:以前に比べたら、今はむしろ柔軟になったね。求められたものは何でもやるつもりだし、自ら挑戦したいと思うこともないことはないけれど、基本的には必要なことをやっているつもり。
伊礼:なるほどね。最近出演している作品が今までとテイストが違うから面白いなって。
小西:確かに「そんなイメージがなかった」という人が多いんだけど、俺の中では全然そんなことはなくて、役との乖離はいつもあまりないから。自分からしたらこれも自分だよ、って。
伊礼:それは分かる。俺もそうだから。そういうイメージを持たれているだけなんだよね。
小西:クールな役をやっても、これもこっちだよとも言えるから、自分自身を決めつけない。そんなもんじゃん。
伊礼:分かる。なるほどね、面白いね。
小西:俺は結構、文学的な作品や、繊細な話、陰鬱な物語、ちょっと小難しいものも好きだから、そういう作品もやっぱり楽しい。そしてお客さんに自分のいろんな面を見てもらいたいということではなく、常に作品に必要なピースとしているつもりでやっている。伊礼くんこそ、最近特に幅広い役柄や作品をやってるよね?
伊礼:色の幅が広がった感じがする。自分自身もそうなんだけれど、それは年齢がそうさせているのか、ようやく周りがそれをさせてもいいと思ってもらえるようになったのか。こちらはいつだってやれる準備はできていたはずなのに、周りがようやく使ってくれた。
小西:お互い同じことを感じてるね。昨年初めて『ピーターパン』に出演する時、演出の森新太郎さんには、衣装合わせで初めてお会いして。それまでに、『生きる』の小説家役とかを観てくださっていて、所謂シュッとしたイメージをもたれていたみたいなんだけど。
森さんはとにかく格好良く見せたくなくて、まず見た目から滑稽に見せるために衣装を剥がれ、白塗りメイクをしてみたりして、「それで何か面白いことやってみて」と言われて色々やってみせたら、「あれ!? お前、元々そっちなんだ」と言われて。
伊礼:(笑)。
小西:もう森さんを笑わせるために稽古してた気がするけど、楽しかったよ。キャストも若い子も多いから、率先してちょっとやったほうが士気も上がるし。
伊礼:その勇気がすごいなと思うんです。僕も初演のジュウザでは、実は稽古場でアドリブを一回もやってなくて、稽古場でやったところで面白くないと思っているんです。観客じゃないから、スタッフを笑わせようという気があまりない。カメラの前でも面白いことがあんまりできないんですよ。
――「カメラの前では、面白いことができない」と、昔からおっしゃっていますよね。
伊礼:そう、スペイン語講座の時から。
小西:スペイン語講座やってたの!?
伊礼:NHKでやってたんだけど、面白くできないの。でも、トークショーでお客さんを目の前にすると全然違うんです。だからジュウザのアドリブも、ゲネぐらいから始めました。小西くんは、森さんを笑わせようとチャレンジできるのが、すごいなと思う。
小西:もちろん役の上でだよ。お客さんの前に出したら、何を指標にするかというと、「あの時、森さんが笑ってたから面白いだろう」と。
伊礼:なるほどね。
小西:それで笑わなくても、「俺のせいじゃないもん。森さんが笑ったから、面白いもん」と思ってやってました(笑)。
――そうすると、アドリブではないんですね?
小西:いろんなものを稽古で試していくんです。アドリブって毎回違うことをやることだと思われがちだけど、その場で芝居を生むのがアドリブなんです。だから同じセリフ、同じ芝居でも、その場で生まれた言葉や感情ならアドリブ。そういう意味では、アドリブでやっていましたね。
伊礼:その指標が、俺にとってはお客さんで、演出家じゃない。演出家が笑わなくてもお客さんが笑うと思ってやっているから、本番でやる。芝居でのコメディーは、僕には難しくてできないかも。でも、お客さんをトークで笑わせるというのは経験上あるので、どうすればこの空気感を上手く使えるかということについては、すぐに頭が回転する。だから、持っている武器が違うんだね。
小西:もちろん、お客さんからもたくさんもらうけどね。ふたりともお調子者だしね。
伊礼:そうね。だから尊敬するよね。
――逆の役をやったら、どうなるんだろうと思いますね。
小西:伊礼くんの『ピーターパン』のフック船長見たいよね。
伊礼:ゴリゴリのイケメンにやるから。
小西:意外とこれまで、その路線だったんだよね。
伊礼:そうなんだよね。
小西:森さんがイメージしてたのは、ブロードウェイのメアリーマーティン版『ピーターパン』でシリル・リチャードが演じたフック船長。
伊礼:それは、三の路線だったの?
小西:いわゆる白塗り貴族みたいな感じで、自分では高貴ぶってるんだけど、周りから見たら滑稽で、くすりと笑えるおバカなお山の大将。でもなんだか憎めないみたいな。
伊礼:ああ!
小西:森さんは、フック船長をそんなイメージにしたかったんだけど、対面した結果「お前は元からそっちじゃん」となった(笑)。
※アイデアニュース有料会員限定部分には、伊礼さんの『レ・ミゼラブル』のジャベール、『ミス・サイゴン』のエンジニアの話、伊礼さんの芝居には、鴻上尚史さんの演劇論が基礎にあるのではという話、小西さんが演劇論を勉強していた頃のこと、「ミュージカルを芝居にしたい」と以前からお互い話していたということなどについてお話ししてくださった内容と、再演にあたってのお客さまへのメッセージなどインタビューの後半の全文と写真を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)
■伊礼:最近、求められていることに応えたい気持ちのほうが、強くなってきている
■小西:伊礼くんの演劇論の基礎は鴻上さん? 僕も本をほぼ全シリーズ読んで実践した
■小西:芝居に飢えていた伊礼くん 伊礼:ストレートプレイばかりやっていた頃も
■伊礼:非常に情熱のある大貫勇輔を筆頭に 小西:他人事や別世界の物語ではない
<『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』>
【東京公演】2022年9月25日(日)〜9月30日(金) Bunkamuraオーチャードホール
【福岡公演】2022年10月7日(金)〜10月10日(月・祝) キャナルシティ劇場
公式サイト
https://horipro-stage.jp/stage/musical_fons2022/
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三浦さんと大貫さんのインタビューに続き、上下読ませて頂きました。福岡公演大楽のカーテンコールの時も思いましたが、仲良しですね!
お二人ともずっと喋っていられそうな雰囲気を感じられる対談でとても面白かったです。