山野靖博さんによる自主企画公演『王と兵士と骰子の目』(山野さん企画・翻案)が、2025年10月23日(木)から10月25日(土)まで、東京・世田谷の「ムリウイ」で上演されます。原作は大正期に高田保によって書かれた戯曲『王様と骰子の目』です。2025年3月に浅草九劇で上演した『TARRYTOWN』で、演出・翻訳・訳詞を担当した中原和樹さんが演出を務め、同じく『TARRYTOWN』に出演された、水野貴以さん、山田元さん、山野靖博さんが、王様と兵士の役を演じます。3名によるコミカルかつシリアスな、寓話的なお芝居です。
アイデアニュースでは、山田元さんと山野靖博さんにインタビューしました。インタビューは上下に分けてお届けします。「上」では原作との出会いと上演のきっかけ、舞台美術とキャスト、初共演当時の印象と、これまでのお互いの変化について伺ったお話などを紹介します。「下」では、演出の中原和樹さんについて、お客さまへのメッセージと、2025年の『ジャージー・ボーイズ』出演についてお話ししてくださった内容などを紹介します。

――原作である戯曲『王様と骰子の目』との出会いと、『王と兵士と骰子の目』上演のきっかけを教えてください。
山野:「戯曲」ありきというより、「企画」ありきだったんです。僕のスケジュールがちょっと空いていたので何かやりたくて、何ができるかといろいろ探したんですが、いかんせん予算がなくて。大勢人を雇って、大きなお金が必要ということはできないので、少人数で上演できる作品にしようと考えました。山田くんに声をかけるのは最初から決めていたので「2人でできる戯曲がないかな?」というところからでした。僕はちょっと不条理演劇っぽい要素のある作家が好きなので、当初は別役実、ハロルド・ピンター、清水邦夫という劇作家の戯曲を探したんですが、良さそうな作品が全く見つからず…。
山田:(笑)。
山野:「自分の手元にある戯曲集には、無いな」と思って、古本屋さんでいくつか戯曲集を探す中で、大正時代の劇作家協会の “今年の劇作集” みたいな戯曲本を見つけて、そこに高田保の『王様と骰子の目』という戯曲が入っていたんです。3人芝居でシンプルな話だし、良さそうだなと思ったのが作品との出会いです。
――山野さんのnoteに「自分が書いた戯曲をじっさいに舞台として上演するのは初めての経験」と、書かれていました。
山野:戯曲自体は、何作か書いているんですけど「人間の俳優」で上演するのは初めてです(笑)。
――「人間の俳優」では初めてというのは、どういうことですか?
山田:トマトの話です(笑)。
山野:『トマト屋さん』という戯曲など、いくつか書いていたんですけど、自分で上演台本として作ったものを、きちんと上演するというのは、今回が初めての機会になります。
――山田さんは、台本を初めてお読みになったときの印象はいかがでしたか?
山田:僕は、最初にそのまま原作をいただいて「すごく面白くなりそうだな」と。ただ、どうしても大正時代の作品で、今だとちょっと読みづらかったり、伝わりづらかったりする表現が多いので、どうなっていくのかなと思いました。山野くんが台本を何稿か新しく上げて、最終的に今の形になって、現代に通じる演劇的なダイナミクスもすごくついたので、楽しめる作品になったなと思います。
――原作の『王様と骰子の目』を翻案されて、『王と兵士と骰子の目』が誕生したということですが、時代的な言い回しを現代風にするなどの工夫をされたということですか?
山野:意外と原作のまま使っている台詞もありますし、基本的に “最初兵士2人がいて、骰子遊びをしているところに王様がやってきて、3人でやることになって…” という大筋は原作のままですが、その間で起こるトピックを足したりしています。言い回しも比較的平易にしている部分もありますし、あえて高田保の文章をそのまま残している部分もあります。意外と、王様が出てきてからの台詞が読みづらいよね(笑)。
山田:口が回らなかったりして、読みづらいね(笑)。
山野:まだちょっと「口が慣れてないな」というところはあります。やっぱり王様と兵士の対峙のときには「階級」が出てきますから。そのあたりは、高田保の当時の文章をそのまま生かした方が、その「階級性」が出るかなと思っています。そこは僕たちも、きちんと口を訓練しなきゃいけないって感じだね。
山田:そうですね。しかも王様の台詞は、言い回しはほとんど変えていなくて。
山野:言い回しとかはあんまり変えてないね。喋っている内容は、結構僕が継ぎ足したりしています。
――今回「ムリウイ」さんの「屋上劇場」での上演ですが、舞台美術などはどうなりそうですか?
山野:演出の中原和樹から、昨日プランが出てきまして。この作品の中に、“一天地六の骰子 これが宇宙である” という描写があるんですが「骰子が宇宙だとしたら、『我々は宇宙の外に居る』ということになる。あるいは骰子を転がしていく中で『我々が骰子の中に居る』のでは? みたいなことも描かれてるんじゃないか?」ということで「骰子の中に入っている、みたいな美術にしたいね」と中原は言っています。
――どんな美術になるか楽しみですね! 台本を拝読した印象では、素舞台に近いのかなと思っていました。
山野:素舞台でもできますよね。
山田:できるね。
山野:僕は素舞台というか、基本的に机1個ぐらいで成立するかなと思っていたんですけど、中原は「ある程度の構造物を作りたい」と言ってきたので、それはそれで面白いと思っています。
――台本では、サラッと語られる台詞の中に、登場人物の人生が透けて見えるところなどもあって、演者に力量が求められる作品で見応えがありそうだなと期待が膨らみました。
山野:確かにそうかもしれないですね。「簡単に上演できるシチュエーションで」という前提があったので「俳優の身体だけあればどうにかなる」みたいに考えていて…。だから、その分俳優は大変だという話ですよね(笑)。
山田:山野くんのコンセプト的に「ムリウイ」さんでやるというのは、もっと演劇をカジュアルにというか、今みたいに敷居がすごく高いところから、もうちょっと下げる、みたいな意図があるの?
山野:敷居という感じではないんだけど「劇場でやらない方が面白そうだな」という感覚がありますね。なんだったら本当はこの作品は「野っ原」でやった方がいい。
山田:そりゃそうだ。
山野:「野っ原」でやった方がいいけど、野外でというのはちょっと、いろいろ越えなきゃいけないハードルがあるので。ありがたいことに「ムリウイ」さんという、素晴らしいスペースが「やっていいよー!」と言ってくれたので。
――「屋上劇場」ですね。
山野:そうです。とは言っても、室内の演劇になります。ビルの3階、祖師ヶ谷大蔵の商店街の途中にある、3階建てのビルの屋上に広いテラスと、それと同じ平米数ぐらいの室内がある、という感じです。
――3人芝居の作品ということで、キャスティングは山野さんがされたのでしょうか?
山野:キャスティング…。
山田:キャスティングと言えばそうだね。
山野:キャスティングというか、なんだろう…仲間集め、言い出しっぺ?
山田:あはは(笑)。言い出しっぺ、良いね。
山野:「一緒にやろうよ~!」って、……あ、幹事! 幹事は僕ですね(笑)。
――では幹事として、水野貴以さんにお声をかけられたんですね。
山野:僕たちは今年3月に、浅草九劇さんで『TARRYTOWN』という、登場人物が3人のオフブロードウェイ作品を2週間24公演上演しました。僕と水野貴以さんは同じチームで、僕と山田くんは「ブロム」という同じ役のトリプルキャストだったので、別組で演ったという中で、やっぱり『TARRYTOWN』での創作のときの感触が「なんか、いいんじゃないかな?」と思えたんです。他にも『TARRYTOWN』のメンバーの、他の人だったらどうかなとも考えたんだけど…。
山田:なるほど。
山野:土井ケイトさんとか、これまでに共演した同世代ぐらいの仲間だったらどうかなとか考えましたけど、最終的にこの作品には、水野貴以さんのキャラクターが、すごく面白いだろうなと思ってお願いしました。
山田:面白かったですね。
山野:面白かったね。今日読み合わせをしましたけど、初めて3人で声に出して読んでみて、僕もこんなに笑いどころがある芝居だとは思っていなかった(笑)。
山田:そうだね(笑)。
――実際に「声」としてアウトプットしてみたら、予想していたものと違いましたか?
山野:違います。やっぱり面白いですね。
山田:うん、3人の俳優がいろんなものを持ち合って。
山野:そうそう。演劇をやる上で「肉体を通す」というのは、やっぱり偉大なことですね。「戯曲」は、単なる文字情報でしかないので、その間で身体がどう動くかで、劇空間は変わってくるから。われながら良い戯曲だなと思うよ(笑)。
山田:いや、良い戯曲ですよ。
※アイデアニュース有料会員限定部分には、初共演当時の印象と、これまでのお互いの変化について伺ったお話などなどインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。21日掲載予定のインタビュー「下」では、演出の中原和樹さんについて、お客さまへのメッセージと、2025年の『ジャージー・ボーイズ』出演についてお話ししてくださった内容などインタビューの後半の全文と写真を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)
■山野:全部覚えて日替わり配役。それはそのうち(笑) 山田:全然別の俳優でも面白そう
■山野:第一印象は「なんだこの綺麗な顔の同い年は!?」 山田:なんだよそれ!(笑)
■山田:お互い大人になって丸くなった 山野:適切に距離を取れるようになった感じ
■山野:同い年は大事だと無条件に思うところがある 山田:仲間としてすごく大切
<『王と兵士と骰子の目』>
【東京公演】2025年10月23日(木)〜10月25日(土) ムリウイ
公式サイト
https://note.com/yamanononote/n/nb74341b37869
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山田さんと山野さん、お二人とも映える低音ボイスで高身長で貴重な同世代の仲間であるけれど、それぞれの個性は同じではない感覚がよく伝わってきました。だから面白い作品が組めるのですね。初対面の山田さんの印象が「綺麗な顔」なのは全力で同意します。それも素敵な実力です!