ミュージカル『SMOKE』(脚本:チュ・ジョンファ、音楽:ホ・スヒョン)が、2024年1月23日(火)に東京・浅草九劇で開幕しました。2024年3月31日(日)までロングラン上演されます(全95回)。本作は、2018年の日本初演以来、2019年、2021年と再演を重ね「愛煙家」と呼ばれるファンをたくさん生み出しました。4回目の上演となる今回は、原作者であるチュ・ジョンファさんの演出、森雪之丞さんの訳詞で届けられています。
『SMOKE』は、天才詩人と言われながら、27歳の若さで異国の東京で亡くなった韓国人の詩人、李箱(イ・サン、本名:金海卿 キム・ヘギョン)の作品「烏瞰図(オガムド)詩第15号」にインスパイアされ、生み出されたミュージカルです。登場人物は、詩を書く男「超(チョ)」、海を描く者「海(ヘ)」、心を覗く者「紅(ホン)」の3人。超と海が三越デパートの令嬢であるという紅を誘拐するスリリングなシーンから始まり、沸点を超える情熱や絶望が衝突しながら3人の関係性が紐解かれ、李箱の姿が煙のように立ち上る濃密な100分間が、舞台と客席ゼロ距離の空間に息づきます。
5人の超、4人の海、3人の紅の全12人による、さまざまな組み合わせを楽しめるのも2024年版のキャスティングの魅力です。2018年の『SMOKE』日本初演、そして全ての再演に出演している大山真志さんが今回も「超」として、そして日野真一郎さん(LE VELVETS)が「海」として、山田元さんが「超」として再登場されています。戸井勝海さん、石井一彰さん、秋沢健太朗さんが「超」として、風間由次郎さん、石川新太さん、LEI’OHさんが「海」として、加藤梨里香さん、入絵加奈子さん、MARIA-Eさんが「紅」として初めて出演されます。
アイデアニュースでは、日野真一郎さんにインタビューしました。インタビューは上下に分けてお届けします。上では『SMOKE』にまつわるお話を、下では、LE VELVETSの活動と日野さんご自身について伺った内容などを紹介します。
「上」の無料部分では、ジョンファさんの演出や稽古場のこと、稽古の過程で海の絵を描いたというお話、3回目のご出演にあたっての思い、大山さんの「超」と互いに仕掛けあっているというお話、稽古場での石井さんとの会話、「日野さんにとって『SMOKE』とは」というお話や、今回「海」を演じながら感じていらっしゃることなどについて紹介します。有料部分では、ご自身の中での前回との違い、先日、とても良い状態で演じながら「欲が出た」というお話、ラストナンバーの「翼」、『SMOKE』の魅力などについてのお話を紹介します。
「下」の無料部分では、先日出演されていた『プリンスアイスワールド 2023-2024』滋賀公演、2024年5月19日(日)に開幕するLE VELVETSの春ツアー『Because of you』、LE VELVETSのみなさんの出演が発表されている2024年5月24日(土)に開催される『久原本家 presents 福岡音楽祭 音恵 ONKEI 2024』について伺った内容を紹介します。有料部分では、日野さんの最近のトピックス、日本舞踊に挑戦したいというお話、「マルチエンターテイナーシンガー」になりたいという思いなどを紹介します。
※役名は<超><海><紅>の形式で記載しています。
ーーちょうど昨日も拝見したのですが、終盤の日野さんのお芝居が特に、とても印象に残ったんです。2019年に拝見した<海>(へ)ももちろん素晴らしくて、涙が止まらなかったのですが、今回は更に、李箱の心の動きをすごく感じました。日野さんは、『SMOKE』へのご出演は、2018年の日本初演では<超>(チョ)として、2019年の再演では、<超>と<海>の二役、そして今回の2024年版では<海>を演じられていますよね。今、開幕して色々な組み合わせで演じられていますが、今回ならではの手応えや感覚など、いかがですか?
初演の時には(菅野)こうめいさんと、もういろいろわからないながらも、韓国語の資料を訳しながら「どういう意味? どういう解釈だろう?」って、みんなで言いながら作っていました。作品の最初の「十三人の子供が疾走した」のところからもう、「これ、何だろうね?」ってなって。「全然わからない」というところからのスタートでした。冒頭から「第一の子供が…」っていうフレーズが、いきなり13人分続きますから。
今回は、演出がこの作品を書かれた(チュ・)ジョンファさんになりましたが、やっぱり「じゃあ、みんなで詩を読んでみましょう」みたいな感じで稽古がスタートしたんですよね。李箱の詩や「翼」など、いろんな参考資料を読んで「これは、ここの曲に当てられた詩なんだよ」というお話をしていただきました。
その時、ジョンファさんに「韓国の俳優さん達もこの詩を理解しているのですか?」と尋ねたところ、韓国の俳優さん達にとっても李箱の詩は難解だと仰っていました。僕たちも分からないながらも、自分たちで解釈しようと今までやってきたので、「理解できない言葉や表現はそのまま受け取ればいいんだ。それが李箱の詩なんだ」と思えました。もちろん、わからない中でも自分たちで解釈しながらこれまでもやってきていたんですが、「それでいいんだ」って思えましたね。
ーーこの詩(烏瞰図 詩第一号)は、最近文庫版で出版された「翼 李箱作品集」で日本語訳を読めますが、とても不思議な感じですよね。
そうなんです。今回は、やはり原作者が直接教えてくださるから、新たな発見もありました。「あ、これは<超>じゃなくて<紅>(ホン)だったんだ!」みたいな。
ーー今回、新たな発見もあったんですね。前回と今回、それぞれの演出の印象はいかがですか?
これまでの訳詩には、すごく謎めいているところが多くて、「どういうことなんだろう?」と解いていく楽しみかたがありました。今回の訳詩を書いてくださった(森)雪之丞さんは、ストレートな言葉で表現されている印象なので、初見で受ける感覚は違うかもしれませんね。
今回の初日が終わった後、雪之丞さんとお話しした時に、韓国版のメロディーを聴いて、韓国語の響きに近い言葉を当てながら訳したとおっしゃっていました。演じながら、確かにそこを大切にされているんだなと感じます。
ーー確かに、今回はより具体的な描き方になっているような印象を受けました。
演出も全体的に変わっていて、例えばお客さまの後ろもアクティングエリアになっているんです。今回はなるべく道具を排除しているので、よりお客さまと近く、一体化できるような舞台になりました。また前回までとは違う感覚で受け取っていただけるのではと思います。
ーーキャストの皆様のSNSで、お稽古の時に描かれた絵を拝見したのですが、これも初めてのご経験でしたか?
初めてです。韓国で『SMOKE』を上演する時には、「自分が感じる海って何?」というお題で、出演される俳優さんたちみなさんが絵を描かれるらしくて。今回、ジョンファさんが、僕たちにも同じ機会を与えてくださったんです。「絵の具を使って描く」というような縛りも一切なく「自由に描いてきて」と。で、みんなが描いた絵を見せたら、ジョンファさんがすごく喜んでくださって。キャストみんなそれぞれ、絵に自分のサインを書いて、ジョンファさんにプレゼントしたんです。
ーー喜んでくださったんですね。海を描くというお題がでるということは、やはり海はこの作品で重要なモチーフということなのでしょうか。
そうだと思います。僕みたいに、<海>にとっての憧れの人である<超>が海を見て佇んでいるという形で表現した人もいましたし、絶望や死の海、絶望と希望が入り混じった海を描いた人もいました。捉え方がみんなそれぞれ違っていて。海そのものではなく、「母」というか、女神みたいなイメージで描いている人もいたんですよ。「面白いな、やられたー!」と思いました(笑)。
ーー面白いですね。そんなみなさんのケミストリーが楽しめる今回の『SMOKE』だと思いますが、日野さんは今回が3回目のご出演ですよね。ご出演にあたって、どのような思いがありましたか?
まず今回は、作者ご本人であるジョンファさんが演出されるということで、「挑戦してみたいな」と思いました。僕、前回の公演で、<海>としては10回しか出ていないんですよね。みなさんから「<超>をまた演ってほしい」というお声もたくさんいただいていたんですけど(笑)、やはり<海>が一番、金海卿(キム・ヘギョン)、すなわち李箱(イ・サン)なので、そこには10回の公演では前回辿り着けなかったところがあり、もう1回挑戦したいという気持ちが僕の中にあって。
今もまだ辿り着いていないと思うんですけど…。さっき、「昨日の終盤のシーン、すごかった」って言ってくださったんですけど、僕の中では毎回もう、ただ積み上げて、最後まで辿り着いているだけなんですよ。だから多分、見え方が変わる時は、その前のプロセスが違っていて、結果としてそう見えるということなんだろうなって思います。
ーー今回、<紅>は3人、<超>は、5人いらっしゃいますよね。
そうなんです。最後の「終着点」は同じなんですけど、互いのキャッチボールで終着点までの道のりが演じている方で違ってくるところが、すごく楽しいです。例えば、大山(真志)くんとはずっと一緒にやってきているから、「こうしたらいいんだろう」というところを、お互いにすごくわかっていますね。「マーシー(大山さん)の<超>は、こういうふうに仕掛けたら火がつく」「こうしたら嫌がる」とか。逆にマーシーも、僕の<海>は、「<超>としてこうセリフをかけたり、セリフ前にこう演技すると良さが出るよね」と言ってくれていて。「確かになあ」って思います。
大山さんと山田さん以外は今回みなさん初めてのご出演なのですが、すごいなと思いながら拝見しています。僕は初演の時、皆さんが今作り上げられている、あそこまでの<超>にはなれなかったですし。今、それぞれの<超>の特徴を言おうと思ったんですけど、僕たち稽古場でシーン合わせはもちろんしていても、通しはこれからという人もいらっしゃるんですよ。石井(一彰)さんとは、稽古場で何回か通しをしていたんですけど、稽古中に「日野さんの<海>とやって、僕が作りたい<超>が見えました」って言ってくれて。そんなふうに言ってもらえて嬉しかったです。
ーー日野さんにとって、この『SMOKE』はどのような存在の作品でしょうか?
僕のターニングポイントになった作品です。芝居でももちろん、演者や役者であることにおいてもそうですし、こんなに自分の感情をぶつけられるというか、見せられる作品に出るのは、僕は『SMOKE』が初めてでした。本当にデリケートな内容ではありますが、とはいえ誰もが感じたことがある感情や心情が描かれていますし。そういう気持ちで向き合うと、一つくらいは刺さる言葉がある作品だと思うんですよね。
あと、初演と前回の再演の時には思わなかったんですけど、今回感じていることがあるんです。李箱(イ・サン)は27歳で亡くなったんですけど、なんかまだ李箱自身が成仏できていないんじゃないかなって…。そんなふうに今思っちゃってて。きっと、自分が死んだこともまだわかっていないのかなとか。でも、李箱が感じた苦しみとか苦悩とか作品とかを、僕たちがこうやって表現することで、ちょっとでも成仏というか。「こういう人がいたんだよ」っていうことを、公演を通じて、作品を通して、いろんな方に観ていただいて「李箱ってこういう人だったんだよ」と、何かを届ける。それが僕たちの今の役目なのかなと思ったりしています。
ーーその想いを伺って今そのシーンを思い出すと、また目頭が熱くなりそうです。
「(李箱と)同じ気持ちになろう」と思ったけど、絶対になれないし、国も違うし、言葉も違うし、時代も違うし。李箱が感じた批判とか、作品を認められなくて本当に苦悩した人生って、僕たちには体験できないですよね。だから同じ気持ちになることは絶対に難しいんですけど、寄り添うことはできるかなと。今回、何かそこを少しでも表現できたらなという思いがあります。
※アイデアニュース有料会員限定部分には、ご自身の中での前回との違い、先日、とても良い状態で演じながら「欲が出た」というお話、ラストナンバーの「翼」、『SMOKE』の魅力などインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。29日掲載予定のインタビュー「下」の無料部分では、先日出演されていた『プリンスアイスワールド 2023-2024』滋賀公演、2024年5月19日(日)に開幕するLE VELVETSの春ツアー『Because of you』、LE VELVETSのみなさんの出演が発表されている2024年5月24日(土)に開催される『久原本家 presents 福岡音楽祭 音恵 ONKEI 2024』について伺った内容を紹介します。有料部分では、日野さんの最近のトピックス、日本舞踊に挑戦したいというお話、「マルチエンターテイナーシンガー」になりたいという思いなどインタビューの後半の全文と写真を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)
■「凄絶さ」が欲しいと、ジョンファさんが。「李箱の苦悩はそんなものじゃない」と
■「ただそこに生き続ける、あり続ける」ことが一番難しい。今回、それが一番できた
■「今日すごく良い!」となると欲が。でも「あれは違ったね」と終演後に大山さんと
■心に刺さる言葉が、たくさんある作品。ぜひ、拾い集めて持ち帰っていただけたら
<ミュージカル『SMOKE』>
【東京公演】2024年1月23日(火)〜3月31日(日) 浅草九劇
公式サイト
https://musical-smoke.com/
<LE VELVETS コンサート 2024 「Because of you 」>
【神奈川公演】2024年5月19日(日) よこすか芸術劇場
【埼玉公演】2024年6月1日(土) 埼玉会館
【東京公演】2024年6月15日(土) 大田区民ホール アプリコ
【京都公演】2024年6月16日(日) 京都劇場
公式サイト
https://www.le-velvets.com/contents/703135
<久原本家 presents 福岡音楽祭 音恵 ONKEI 2024>
【福岡公演】2024年5月25日(土) 福岡縣護国神社
公式サイト
https://rkb.jp/onkei/
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SMOKE 全力の熱いお芝居にいつも感情を湧き立てられます。日野さんだからこその『海』感動させてもらってます。向上心豊かなNice guy の日野さん⭐︎まだまだ、これからもファンでいるのが楽しみです。