宮崎駿さんの初監督アニメ「未来少年コナン」の初舞台化作品となる舞台『未来少年コナン』が、2024年5月28日(火)から6月16日(日)まで東京芸術劇場プレイハウスで、6月28日(金)から6月30日(日)まで梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで上演されます。
アニメ「未来少年コナン」は、1978年に初放送された、当時頭角を現し始めていた宮崎駿さんが監督に大抜擢されたテレビアニメーションシリーズです。最終戦争後の荒廃した地球を舞台に、恐れを知らない野生児コナンがなおも権力にしがみつく人間たちと戦う、胸躍る冒険活劇です。鳥と心を通わせる能力を持つ少女や、様々な飛行メカ、異変を予知する虫の大群など、この後に生み出される宮崎アニメの傑作へと受け継がれていく要素がつまっています。2020年にデジタルリマスター版が放送され、2022年5月から三鷹の森ジブリ美術館にて企画展示「未来少年コナン」展が1年半にわたり開催されるなど、新たなファンを獲得し続けています。
その作品を舞台化するのは、日本ではミュージカル『100 万回生きたねこ』や村上春樹原作の『ねじまき鳥クロニクル』などを手掛け、その唯一無二の空間演出で観客を魅了し続けているインバル・ピントさん。そして、表現者として多様なジャンルで才能が光るダビッド・マンブッフさんが共に演出を担います。かねてより宮崎作品を敬愛していた二人の想像を超える感性で、芝居だけでなく、ダンス、歌や音楽、美術、衣裳、照明などを巧みに操り、新しい舞台芸術作品を誕生させます。
アイデアニュースでは、ジムシーを演じる成河さんと、レプカを演じる今井朋彦さんにインタビューしました。インタビューは上下に分けてお届けします。「上」では、インバルさんの作品のどこにワクワクするかというお話、クリエーションの平等性を感じる現場についてのお話などを紹介します。「下」では、インバルさんの表現の中でキーになりそうだと考えている点、個人とは何か、劇中に役としてどう存在したいか、アニメーション作品と抽象性、抽象表現の魅力とはというお話などを紹介します。
ーーおふたりとも、インバルさんの作品はご経験されていますが、原作アニメなどをご覧になった上で、今稽古していて、どのようなところにワクワクされていますか?
成河:カンパニー全体が貪欲ですね! とにかく理想がすごく高いところにあるから、そこに向かって、あまり急がず、回り道することを怖れず、やれている感じじゃないですかね。
今井:僕は、ずいぶん前の『100万回生きたねこ』以来なんですが、あのときも、劇場で舞台装置が組まれたのを見て、「うわ! こうなるのか!」と。そこからが第2ラウンドというというか。稽古場でほぼ上演に近い形でで準備して、それを劇場に持ち込んで、本当のセットの前で音や照明を入れるという流れが通常ですが、あの時の、稽古場から劇場に入ったときの「うぉ〜、そうか!」という感覚は、今回も絶対に起こると思っています。そういうワクワクがあります。
もちろん今、こんな形やタイミングになるだろうなということを図っているわけですが、それが固まったとしても、まだワクワクの全然第1ラウンドです。これが本舞台に入ったら、「ワクワク、ウォー!」ということに多分なるだろうなと、そういう期待に満ちています。
成河:今、この時点までの稽古で何をやったかというと、検証なんですよね。作るというよりは、大前提として必要になる美術と装置が果たして、どこまで現実性があるのかというところの検証をしていく。それを一巡したという感覚です。一番のワクワクポイントは、これは間違いないのですが、美術と音楽。本当にみんなに観てほしいです。なかなか観られないものなので。
照明家のヨハンも来ているので、インバルと美術装置を生かして、最大限にその良さを増幅させるような照明プランもこれから練られていきます。美術と音楽の地盤が出来上がりつつありますが、パフォーマーはその上に乗るわけだから、これからです。美術と音楽へのワクワクは、日々間違いなく大きくなっています。
ーーお二人の撮影をさせていただいたとき、成河さんがインバルさんの描かれた美術プランの絵をご覧になって、「これはいい!」とおっしゃっていましたよね。「未来少年コナン」というアニメが、こういう絵になるのかというところに、すごく興奮していらっしゃるのが印象的だったのですが、どういうポイントに着目されていたんですか?
成河:インバルは絵を描く道具がはっきりしているんです。劇文法…舞台上の文法とでもいうような、はっきりしたものがあって。例えば、クレヨンとすると、インバルは特殊なクレヨンで描くんです。「未来少年コナン」を描くとなると、いろいろな描き方がありますが、インバルが描いたコナンは、二次創作としてとても豊かだなと思ったんです。ひとまず外身を真似たとか、みんなが観たことのあるものを提示するわけではなく、あくまでも「インバルというクレヨン」を使って描くことで、より想像が膨らむ。
最初のスケッチが、そういう「インバルにしか描けないもの」になっていると感じました。「未来少年コナン」を3D化して上演しますとなったときに、原作に近づけばいいのであれば、ある意味では誰でもできるんです。そうではなくて、インバルにしかできない、インバルしか持っていないクレヨン、美術プランで、それをシェアする。美術と音楽も、まさしくそういうものですね。だから、ワクワクするんです。
ーー今井さんは、いかがですか?
今井:御意、御意、御意です(笑)。
成河:アハハハ!
今井:僕も、ポスター撮影の日に、こんなプランが上がっていますと何枚か見せていただいたんですが、見た瞬間に「勝った」と思いましたね! 僕には、美術画を評価する資格なんてもちろんないですが、まさに成河さんが言ったことですよね。これだけの世界観を持っているんだなと。それは、作品として確実に成立する。作品の評価はお客様に委ねるわけですが、さっき彼も言ったけれど、確実に自分たちがやる意味があるなと。「未来少年コナン」×インバル・ピント&ダビッド・マンブッフというパッケージでやる意味があるものに確実になるというのは、あの絵が証明してくれたと思います。
ーー作品の設計図ということですよね?
今井:設計図以上のものが、そこにある感じがしますね。ご自身の舞台観がそこに凝縮されている気がして。もちろん、そのままではなく、多少変更はあるかと思いますが、そういうものを持っているか、持っていないかは、ものを作る上ではすごく大きいと思います。
ーー舞台を作られる中で、絵や何かを通してインスピレーションが広がる瞬間は、よくあることなのですか?
成河:インバルは、絵を描く人、美術家なので。人によっては音楽かもしれないし、戯曲かもしれないですが、インバルの場合は飛び抜けて美術です。衣裳プランまで全部自分で作るわけですから、作品が一枚の絵ですよね。説得力もあるし、統一感もあるから、スッと入ってきますよね。
今井:いい悪いではなく、美術と衣裳まで兼ねる演出家は、なかなか日本の現場ではいませんから。もちろん、分業には分業の良さがありますが、演出家が持っている世界観、特にビジュアルに関して明確なものがあると、そこにこちらが委ねたくなる、委ねようと思わせるのではと思います。
<取材協力>
衣裳:飯嶋久美子(POTESALA)、SHIRO.O
ヘアメイク:冨沢ノボル
※アイデアニュース有料会員限定部分には、クリエーションの平等性を感じる現場についてのお話などインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。インタビュー「下」では、「インバルさんの表現の中でキーになりそうだと考えている点、個人とは何か、劇中に役としてどう存在したいか、アニメーション作品と抽象性、抽象表現の魅力とはというお話などインタビューの後半の全文と写真を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)
■成河:冷静さが求められるインバルの現場。今井さんの在り方をお手本にしている
■今井:稽古場が活性化する源の成河くん。「臆することなく提示していいんだ」と
■成河:「自分もわからない」と正直に言うインバル。現場が「考えよう」と能動的に
■今井:アイデアを持っている人が出せばいい。その平等性に気づかせてくれるインバル
<舞台『未来少年コナン』>
【東京公演】2024年5月28日(火)~6月16日(日) 東京芸術劇場 プレイハウス
【大阪公演】2024年6月28日(金)~6月30日(日) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
公式サイト
https://horipro-stage.jp/stage/fbconan2024/
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今井朋彦さん、成河さん、このお二人のインタビューを待ってました!舞台がますます楽しみになることばの数々、そして楽しすぎる写真(笑)手元にあるチケットが、まさに宝の地図みたいに思えてくるインタビューでした。ありがとうございます。