アイデアニュースではこれまで、使ってみて本当に役立つと思った介護製品や、新しい福祉用品、リハビリ機器を紹介してきました。今回、お父さんを自宅で介護している友人Sさんから、こんな情報を得たので早速拝見してきた次第です。
~~~うちのいま、一番大ヒット!大阪府箕面市の座位保持椅子を作っておられるピーエーエスさんの「p!nto」驚いたのは、すわるだけで姿勢が矯正?椅子の上に置くだけのクッション!さすが31年のベテラン作業療法士さんがデーターを収集して専門でつくられているだけあります!うちの父の円背(えんばい)が改善されたのです!あれだけ背中のばし運動したり、矯正グッズもためしてみたり、健康器具もあれこれ、整骨院あれこれ試し、円背なおらなくて、肩甲骨まわりも固い。なのに、1週間もしないうちに、肩甲骨まわり柔らかくなる?うちの父は気管切開している関係で腕が後ろに伸びにくいはずが、腕が後ろに柔らかく伸びています!背中 もしっかり伸びて、足も腰もしっかり伸びています!~~~
これを読んで、ぜひ一度、お父さんの様子を拝見したいと思い、今やp!ntoのヘビーユーザーであるSさんのお宅をお訪ねしました。その報告です。
初めてお訪ねしたそのお家には、リビングのソファにも台所の椅子の上にも、赤やピンクの座椅子のようなクッションが置かれていました。「だって家族3人で取り合いになるし、犬もここに座りたがるから、父のだけじゃなくて、母の分も、私のも買ったの」 2015年11月にこのクッションを使い始めてから、自宅介護中のお父さんがあまりにも調子がよくなり、若返っているというので、家族全員でマイp!ntoを持つようになったそうなのです。
Sさんのお父さんは、28年前に喉頭がんを患い、声帯を摘出されています。そして2005年、再び喉頭がんになり、食道再建手術をされた結果、最初の手術後には獲得していた「食道発声」が出来なくなり、話すことができません。また、嚥下障害ほか、様々な症状が出るようになりました。
2015年夏には、趣味にしておられる家庭菜園の水やりのときに脱水をおこしたお父さん。心臓の肥大など別の疾患も出てきて、Sさんたちご家族の自宅介護の負担が大きくなってきたのだそうです。そこで、ケアマネージャーさんに来てもらうことになり、訪問サービスでは珍しい言語聴覚士さんのリハビリができるようになりました。
ケアマネージャーさんをはじめとする人と人とのつながりからうまく情報を手に入れ、p!ntoを開発した作業療法士、野村寿子さんとの出会いにもつながったと聞きました。
「p!ntoに座ったたった一日で、お父さんの28年が巻き戻ったみたいだったよ。後ろ姿が違うもん、あなた誰?って感じだった」。2015年11月20日、p!ntoのデモ機が来た日のことをSさんは鮮やかに覚えていました。前屈みだった姿勢がもとに戻り、胸元に落ちていた首と頭が上がって、若々しい後ろ姿を取り戻したお父さんの姿に、家族は驚きました。
そして、その体の変化にもっと驚いたのが、言語聴覚士の福原桃子さんです。「2015年9月中頃から、こちらでリハビリを担当させてもらっていますが、11月にp!ntoが来て以来、背中側のマッサージの時間が短くなりました」
喉頭ガン後のリハビリで、発声練習や、嚥下障害の改善のためのマッサージに時間を取りたいけれど、背中や首の筋肉がこりかたまっていたら、まずはそこをほぐすことが必要になります。週1回の訪問ですから、先週ほぐした背中が、今週また固まっていると、せっかくの訪問リハビリの肝心な部分が短くなってしまいます。ところが、p!ntoを使って座るようになってから、お父さんの背中はやわらかくなり、肩の動きが改善されているので、必要なリハビリに十分時間をかけられるというわけです。 「良い姿勢がとれると、しゃべりやすいし、食べやすいのです」と福原さんは言います。p!ntoに座っていると、骨が支えられて、姿勢が整うので、いわば常にリハビリを受けている状態なのだそうです。
では、p!ntoとはどんな製品で、どんなコンセプトで作られたのでしょうか。製造したのは株式会社ピーエーエス。障がいのある方たちとの関わりの中で、快適な生活を送るためには、身体への負担が少ない「正しい」姿勢が大切だということに着目しました。ひとりひとりの体に合わせて採型をし、快適に機能的に過ごせる座位保持装置を作っている会社です。そこで年間300件を超える採型をし、オーダーメードのクッションを作ってきた作業療法士野村寿子さんが、その経験と技術とデータを生かして作り上げたのがp!ntoというわけです。
p!ntoについて詳しくはこちらをご覧ください→ http://pin-to.net/pinto/
初めてSさんのお家を訪ねた日にお会いしたのが、このp!ntoの開発者野村寿子さんでした。お父さんの暮しをもっと快適なものにするべく、新製品の「ピントチェアリビング」を試してもらおうとデモ機を持ってこられたところだったのです。こちらがその様子です。
p!ntoに比べるとピントチェアはハイバックなので、頭の骨が左右から支えられ、首の負担が軽減されています。頭、肩甲骨、肋骨、お尻、骨盤、脚の6点を支える構造で、重力から解放され、安心感をおぼえるという特徴があるそうです。
まだ発売したばかりの新しい製品ですが、座ってみたところ、お父さんのニコニコ顔に加えて、印象的だったのはお母さんの次の言葉です。
「なんだかこの頃、気持ちがざわざわして落ち着かなかったけど、この椅子に座ると包み込まれたみたいで、スーッと気持ちがしずまるわ」
私にも自宅介護の経験がありますが、一番大変なのはご本人とはいえ、それを支える家族にも、言うに言えない葛藤や疲れがあります。お母さんの心が落ち着き、ゆったりした気持ちになれるなら、お父さんはきっと何より嬉しいと思うのです。
体をしっかりと支えてもらうと、重力から解放され、心からリラックス出来ます。この椅子に座った瞬間にお母さんの顔がほっと安らいだのは、年間300件以上採型をおこない、人の身体と環境とリハビリテーションについて豊富な経験をもっている作業療法士、野村さんの開発したピントチェアリビングだからなのでしょう。確かな理論に裏打ちされた製品の実力を見た思いがしました。
ピントチェアリビングについて詳しくはこちらをご覧ください→ http://pinto-chair.net/living/
ただし、どんなに素晴らしい道具や機械も、使う本人と、周りの理解、協力がなければその力を十分発揮することはできません。Sさん一家は、「少しでもお父さんが快適に暮らせるように」「言葉を出せる日が早く来るように」「嚥下障害があっても、工夫して美味しいものを食べられるように」、家族で力を合わせています。娘であるSさんが積極的に情報を集め、いいと思ったら手に取ってみる、やってみる、関係者に連絡をしてみる。その手間を惜しまない。お母さんも、ご本人も、娘さんが見つけてきた新しい物や、アイデアや、人を受け入れる。そんなポジティブで明るい空気が、Sさんのお宅にはありました。だからこそ、p!ntoもピントチェアリビングも、最大限の力が発揮できているのだと思います。
横で見せていただいた言語聴覚士さんのリハビリも、お父さんが一言でも発語できたら、ご家族は拍手と笑顔で応援していました。そして、愛犬たちも、可愛い応援団だったのです。
p!ntoやピントチェアリビングといった心強い味方を手に入れて、Sさん一家の自宅介護の暮らしがこれからますます快適になり、リハビリがいい方向に進むことは間違いありません。Sさんは、こうした情報を知らない人に、当事者として、また“知った者の責任”として、「こんな良いものがあるよ」「こんな方法があるよ」と発信していきたいと考え、今回の取材を許可してくれました。自宅で家族を介護していると、どうしてもうちに閉じこもりがちですが、自分の家族のことだけでなく、もっと広い視野をもって暮らしているSさん一家に敬意を表したいと思います。
障害をもっておられる方々のためにオーダーメードで作られる座位保持装置について、次回レポートする予定です。どうぞお楽しみに。
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