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手が不自由な人でも本のページをめくることができる…iPad活用法

筆者: 橋本正人 更新日: 2015年6月15日

 

頸椎損傷で首から下が動かなくなった父の介護を通して知った、便利なアイデアの紹介シリーズ。今回は「声で本のページをめくることができる仕組み」を紹介します。

 

父は唯一の趣味が読書と言えるほどの本好きで、家中が天井まで本で埋まり、裏庭には専用の書庫が2つあるほどでした。そんな父なので、頸椎損傷で首から下が動かせなくなり、自分で本のページをめくることができないと知った時は、どんなに悲しかったかと思います。書見台に本を乗せて、1ページ読み終えるごとに家族がページをめくってゆけば本を読むことはできますが、ずっと誰かがそばについていなければならず、気遣いしてなかなか本を読みたいとはいえない状況だったのです。

 

頸椎損傷で寝たきりになって以来、ほとんど本を読むことがなく、楽しみはもっぱらDVDで昔の映画を見ることになっていた父でしたが、ある時、「父の日」のプレゼントを何にしようかと考えていた私は、父に「本のページをめくることができる装置」を贈ろうと思いました。ネットで検索してみると、手でスイッチを押せばページをめくることができる機械はいくつかありました。父は、かすかに左手を動かすことはできたのですが、スイッチを押す動作をするのは困難で、また、その装置はかなり大がかりで、高額なものでした。

 

もっと簡単にできる方法はないかと探したところ、口に棒状のものをくわえて本のページをめくっている人がいることもわかりましたが、父は頭もほとんど動かすことができないので、ページめくりのような動きはできません。iPadなどの画面をタップすると反応するペン(スタイラスペン)を口にくわえて画面をタップすれば良いのではとも考えて試してみましたが、口にくわえたペンで目的の場所をタップするのは面倒で、高齢の父に訓練をしてそれができるうようになってもらうのは酷というものでした。

 

マイクつきイヤホンを箱に入れて、iPadにつないだところ=撮影・橋本正人

マイクつきイヤホンを箱に入れて、iPadにつないだところ=撮影・橋本正人

 

しかし、探してみれば何かが見つかるもので、ついに「これは!」というものを見つけました。「ComicGlass」(コミックグラス)という名前の製品で、iPadなどにインストールしてマンガを読む際に使用するアプリです(ComicGlassは有料アプリで、2015年6月15日現在の販売価格は360円)。基本的にはPDFなどのファイルを便利にサクサク読むためのアプリなのですが、「おまけ」のような感じで「音でページ送りができる」機能がついていたのです。これなら、父が自分の意思で、何らかの音を出すことができれば、ページをめくることができるはずです。父は、ほんの少しだけですが左手を自分の意思で左右に動かすことができました。スイッチを押したりする操作は無理ですが、例えばマイクを箱の中に入れて、その箱を少し動かしたらカサカサッと音が出るので、ページがめくれるのではないかと考えました。

 

これは、少しだけ成功しました。父の左手にマイクが入った箱をひもで結び付けて動かすと、マイクが箱にあたって音が出て、ページが送られたのです。しかし、箱の音は安定せず、また、父は手を自分の意思で自在に動かすことはできないので、なかなか思うようにページがめくれない状況でした。

 

それなら、声で動かしてはどうかと考えました。父は、声を出して話すことはできたので、口元にマイクをつければ、声でページ送りができるのではということです。そして、成功しました! 襟元につけるピンマイクを買ってきて、iPadにつけ、ComicGlassの音声認識をONにし、父が「アッ」と大きな声を出すと、ページがめくられたのです。もちろん言葉は「アッ」でも「オッ」でも「動け」でも良いのですが、父は「アッ」がお気に入りでした。

 

ピンマイクをつないだiPadに表示された父お気に入りの小説「お家さん」=撮影・橋本正人

ピンマイクをつないだiPadに表示された父お気に入りの小説「お家さん」=撮影・橋本正人

 

これで、父は自分で本が読めるようになり、本当に喜んでいたのですが、ひとつだけ問題がありました。「ページ送り」はできても、「ページ戻し」ができないのです。くしゃみをしたりすると、ページが先に進んでしまい、戻すことができないのです。最初は「アプリがそういう仕様なんだから仕方ないかな」と思いましたが、ページが勝手に先に進んでしまって、父から「ページを戻して」と何度も言われているうちに、ふっと思いつきました。「マウスだったら、シングルクリックとダブルクリックで違う結果が出る。それなら、声でも、アッと1回言えばページが先に進み、アッ、アッと短い時間に2回言えば、ページが戻るという風にもできるのではないか」と。

 

さっそく、ComicGlassのホームページから問い合わせをしました。そうしたら、なんと翌々日には「今回、ご意見頂きまして、マイク波形を解析して『ダブルクリック』を判定する方法をテストしておりますが、ある程度判断出来そうであることがわかりました。精度の確保など出来ましたら出来るだけ早めに実装しようと思います」という返事がメールで届いたのです。「やった!」。メールを読んだ私は、思わずガッツポーズをしてしまいました。

 

そして、問い合わせメールを出してから20日後の、2013年7月7日、待望の「ページ戻し」機能が実装され、父に試してもらいました。私はダブルクリック方式を提案していましたが、開発者の方は、ひとつの音を長く出していると戻るというモードも作ってくださり、設定次第で「2音を続けて出す」とページが戻るようにするか、「長い音を出す」とページが戻るようにするかを選べる機能を実装してくださいました。この下の動画は、はじめてその機能を父が試した瞬間のものです。

 

 

最初はうまく動かず、父は「あかんわ」と言っていますが、その後、音声に反応している間はiPadの画面左上のマイクの部分が赤く表示され、その赤い状態が長く続くとページが戻るということを理解してくれて、ページ戻しができるようになりました。これで、安心して父にiPadで本を読んでもらうことができることになりました。高齢でしかも障害をおっている父に、最新の機器を使いこなしてもらうのは大変ですが、これなら声をコントロールするだけなので、使ってもらうことができました。

 

もちろんiPadの設定などは健常者である私や連れ合いの仕事でしたが、設定したものを書見台に置くと、父が自分の声でページをめくったり戻したりできるようになりました。

 

 

それからというもの、父は、分厚いハードカバーの文芸書を次々と読むようになりました。ComicGlassはPDFを音声でめくるアプリなので、市販の電子書籍のページをめくることはできません。私は、父が読みたいという「紙の本」を購入して、スキャンでせっせと「自炊」してPDF化し、父に読んでもらいました。本のPDF化には、本を上に開いたままでスキャンできる「ScanSnap sv600」を使ったので、サクサク作ることができました。

 

プリズムメガネをかけて本を読む父=撮影・橋本正人

プリズムメガネをかけて本を読む父=撮影・橋本正人

 

この写真は、父が肺炎で入院していた時のものですが、目にかけているのは「プリズムメガネ」と言われる、90度下を見ることができるメガネで、襟元につけているのが、ページ送り用のピンマイクです。プリズムメガネについては、いろいろなタイプが販売されていて、あれこれ買って試してみましたがそれぞれに一長一短があり、また近日中に記事を書いて違いを紹介したいと思います。

 

ことほどさように、いろいろなアイデアを組み合わせれば、従来は難しかったことが、次々とできるようになっているのが今の社会だと思います。ほかにも、父の介護を通してほかにもいろいろな発見がありましたので、またの機会に紹介させていただきます。

 

 

ComicGlassのホームページはこちら →http://comicglass.net/

 

 

<アイデアニュース関係記事>
24時間全介助が必要な父を在宅介護、家族が倒れないためのスケジュール
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アイデアニュース有料会員向け【おまけ】  父が持ってきたDVDは約2000本。父が見たいDVDを簡単に探せるようにするためにしたことは…(橋本正人)

 

父のDVDラック。左上がプロジェクター、その下に吊ってあるのがエクセルのリスト=撮影・橋本正人

父のDVDをラックにおさめた状態。左上にあるのは退職祝いに買った映写用プロジェクター=撮影・橋本正人

 

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<筆者プロフィール>橋本正人(はしもと・まさと) 1986年、産経新聞社入社。写真部員をへて記者となり、兵庫県警捜査一課などを取材。1990年、朝日新聞社に移り、宝塚歌劇を扱う「朝日新聞デジタル・スターファイル」などを担当。2015年、アイデアニュース株式会社を設立し、編集長に。趣味は声楽(テノール)。 ⇒橋本正人さんの記事一覧はこちら

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