歌手・姿月あさとさんの「バースデーライブ」が2016年3月16日に大阪で、3月18日に東京で開かれました。姿月さんと、作曲家/ピアニストの西村由紀江さんによる2人だけのライブは、2人だけだからこそ、姿月さんの歌の魅力が真っ直ぐに伝わってくる、贅沢で、暖かくて、それでいて背筋が伸びるような公演でした。
筆者が取材したのは大阪池田市内の逸翁美術館(いつおうびじゅつかん)マグノリアホールでのライブ。逸翁美術館は、阪急、東宝の創設者である小林一三氏の雅号「逸翁」を冠した美術館で、小林氏が収集した美術品を展示しているほか、館内に多目的ホール「マグノリアホール」があり、今回の大阪でのライブはこのホールで行われました。(東京公演の会場は「品川教会 グローリアチャペル」)。
2ステージ行なわれた大阪公演はいずれも完売。ステージと客席の距離は、ほんの目と鼻の先。音響も良いので、西村さんのピアノのタッチや姿月さんの生の声が届いてくる感じで、とても贅沢な時間でした。
最初の曲は、西村さんのソロで、「サウンド・オブ・ミュージック」から「私のお気に入り(My Favorite Things)」。リズミカルに、ふわりと、時に力強く、ジュリー・アンドリュースのしっかりとした歌声が聞こえてくるような導入です。
そして、曲がつながった形で、同じく「サウンド・オブ・ミュージック」から「すべての山に登れ」に移行。どこからともなく姿月さんの声が聞こえてきます。「顔をあげて…」。振り返ると、最後部の入口から姿月さんが歌いながら登場されました。「探し出そう 道のかなた 夢もとめ…」。朗々とした低音が響き渡ります。
今日のドレスは、ツーピースのようなワンピースのような、上下が切れているけれどもつながっている、レースのような空いた穴が模様になっているお衣裳です。歩きながら、歌いながら、時に振り返り、ステージに到着した姿月さんは、歌い上げます。「命かけて 愛に生きよう 顔をあげて 歩き出そう 虹のかたな 夢もとめ」。割れんばかりの拍手が会場に響きました。
歌に続いて定評ある脱力系の「ずんこトーク」が始まります。3月14日に46歳の誕生日を迎えた姿月さんは、この日のファーストステージで、間違って「64歳になりました」と言ってしまったことを説明。「40歳過ぎたら、年はどうでもよくて、年のことを気にしなくなったんです」と話しました。
そして昨年11月、3年ぶりにリリースしたアルバム「Chante ~シャンテ~」収録曲から、沢田研二さんの「時の過ぎゆくままに」。男歌を歌わせれば天下一品の姿月さん、さすがの迫力です。続いて、これもアルバム「Chante」から、シャンソンの名曲「そして今は」。三連符を使ったボレロのリズムに乗せて、失恋の苦しい胸の内が吐露されます。しかし姿月さんが豊かな声量で歌い、それに西村さんの力強い三連符が重なると、「旅路の終わりまで 何にもない」と断固として言い切るのがなんとも気持ちよく。そうだよな、そう。「旅路の終わりまで何にもない」っていうこともあるよなと、納得してしまうのが気持ち良かったです。
この日のピアニスト、西村由紀江さんは、今年がピアニスト生活30周年で、レコードを出したのが30年前の大学1年時。作曲者としてドラマ・映画・CMの音楽を多数担当しているほか、年間60を超えるコンサートで全国を各地を訪れています。
西村さんのこの日の演奏で、一番「うわぁ~」と思ったのは、「Chante」にも収録されている「ジェラシー」の前奏部分。アルバムでは前奏なしでいきなりバイオリンと歌で曲が始まりますが、この日、西村さんがピアノソロで演奏した部分は緋色の幕がひるがえっているかのように情熱的。前奏が終わっただけで思わず「ブラボー」と言ってしまいそうな演奏でした。そして、さらに情熱的なメキシコのアウグスティン・ララ作曲の「グラナダ」と続きました。2曲が終わって万雷の拍手を受けたあとのMCで、姿月さんは「大げさな曲ですねぇ」と言って笑いを誘っていましたが、姿月さんと西村さんの、力強い美女お二人にピッタリの2曲でした。
続いての曲は「Chante」にも収録されているペギー葉山さんの「爪(つめ)」。客席で、杖をついた白髪の女性がうなづくように顔を前後に揺らしながら聞いていたのが印象的でした。そして同じく、ペギー葉山さんの「ラストワルツ」。私が書いたこの日のメモには、「ラストワルツ」の題名の横に、二重丸の印が書き込まれています。ゆったりと包み込むような。とても柔らかくて暖かい、素晴らしい歌と演奏でした。
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この日、筆者が一番「うわ~~」と思った、「ユーミンメドレー」について紹介します。
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