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熊本地震を踏まえた川内原発の危険性についての説明

筆者: 野本浩幸 更新日: 2016年5月6日

 

アイデアニュース編集長の橋本正人です。先日、熊本地震に関連して、鹿児島県にある川内原発の停止を求める署名が10万人分集まって内閣府に提出されたという記事を掲載しましたが、「基準地震動」などの専門的な用語などを一般の方にもわかりやすく解説した記事を、技術者の野本浩幸さんが書いてくださいましたので、掲載します。野本さんは、製鉄所に操業・管理技術者として勤務したことのある方で、原子力や地震の専門家ではありませんが、技術者ならではの視点で、川内原発の危険性について説明してくださっています。ここからは野本さんの文章です。(掲載している図は、クリックすると拡大表示されます)

 

図2:地震計の位置関係(概念図) =作成・野本浩幸

図2:地震計の位置関係(概念図) =作成・野本浩幸

 

 

私は、沖縄高専で情報工学を専攻し、製鉄所の操業・管理技術者として5年間勤務した技術者(技術士第一次試験合格、第三種電気主任技術者)です。原子力や地震は専門外ではありますが、一人の技術者として、熊本地震以後の川内原発をめぐる原子力規制委員会の対応に強い不信感を感じており、私にできることをしたいという思いから活動を始めました。

 

川内原発の停止を求めて、10万人の署名がすでに内閣府に宛てて提出されていますが、4月18日の会見で、田中原子力規制委員長は、川内原発の一時停止について「科学的根拠がなければ、国民や政治家が止めてほしいと言ってもそうするつもりはない」(毎日新聞)という趣旨の発言をしており、科学的根拠に基づかないという理屈で、10万人の国民の声も残念ながら無視されてしまう恐れがあります。

 

しかしながら、熊本地震発生後、川内原発について原子力規制委員会で話し合われたのは4月18日の1回のみで、総会議時間約40分、報告を除く議論時間はわずか約20分です。しかもその内容は、今回の熊本の地震では、川内原発に安全上の問題は無いという確認がほとんどで、中央構造線の延長上にある川内原発直近で新たな地震が発生するリスクについての議論や、新規制基準における想定が今回の地震で観測されたデータと比較して充分であるのかと言った分析は、全くと言っていいほど行われていません。

 

様々な情報を集めていく中で、4月22日に大阪府立大の長沢啓行名誉教授が資料室長を務める若狭連帯行動ネットワーク(若狭ネット)(⇒ホームページはこちら)が、科学的根拠に基づき、川内原発の停止などを求める緊急申し入れを行ったことを知りました。緊急申し入れでは、今回の熊本地震の実績を踏まえると、熊本地震と同規模の地震が川内原発直近で発生すれば、川内原発の安全限界を超えた揺れ(はぎとり波1000ガル以上)が生じ、メルトダウン事故の発生が危惧されることが指摘されています。さらに、これを基にした公開質問状(⇒ここをクリックするとダウンロードできます)を作成し、5月下旬には原子力規制委員会との直接交渉に臨むべく調整が進められています。

 

私は、若狭ネットの長沢名誉教授と連絡を取らせて頂き、この公開質問状のうち、質問1の熊本地震の実績と川内原発の安全限界の関係性の部分について、より理解がしやすくなるように説明記事を作成することに致しました。若狭ネットでは、公開質問状への賛同署名を募集(⇒詳しくはここをクリック)しており、一人でも多くの方に内容を理解いただいて、「科学的根拠に基づく」国民の声を、原子力規制委員会に届ける必要があると考えたからです。

 

 

1.基礎知識

 

まず、地震の揺れと原発の想定値をどう比較するかといったことについての基礎知識を説明致します。

 

1.1.震源と震央

 

  • 震源:地震が起きた場所(地下)のことを言います。
    震央:地震が起きた場所の真上の位置のことを言います。
    ・震央距離:震央から観測地点までの距離のことを言います。

 

図1:震源と震央=作成・野本浩幸

図1:震源と震央=作成・野本浩幸

 

1.2.地震の揺れの単位

 

地震の揺れの単位には、地震による加速度の単位である「ガル」を用います(cm/s2)。このガルの値に周期などを加味して震度が計算されています。ここで、加速度とは、速度がどれだけ早く上がるか(下がるか)を示していて、例えば自動車のアクセルまたはブレーキを踏みこむと加速度は大きくなり、軽く踏むと加速度は小さくなります。急発進や急ブレーキの時は、加速度が大きいため、体に大きな衝撃を受けるのです。

 

1.3.原発で想定している地震の揺れ

 

原発で想定している地震の揺れには以下のようなものがあります。

 

  • 自動停止設定値:この値を超えると安全のため自動的に原子炉を緊急停止(スクラム)させる設定値です。
  •  <川内原発における値>横揺れ:160ガル、縦揺れ:80ガル[5]
    基準地震動:原発の耐震設計にあたって、想定している最大の地震の揺れです
  •  <川内原発における値>横揺れ:620ガル、縦揺れ:324ガル[5]
    安全限界(クリフエッジ):この値を超える揺れが生ずると、メルトダウン等の重大事故が危惧されます。
  •  <川内原発における値>1号炉:1004ガル、2号炉:1020ガル(いずれも横揺れ)[1]

 

1.4.地震計の設置条件による揺れの違い

 

地震の揺れと一口に言っても、地震計の設置条件が異なれば、値を比較できなくなります。原発に関わる地震計の設置条件(仮想の条件も含む)を表1と図2、図3に示します。

 

表1:地震計の設置条件の説明=作成・野本浩幸

表1:地震計の設置条件の説明=作成・野本浩幸

 

図2:地震計の位置関係(概念図) =作成・野本浩幸

図2:地震計の位置関係(概念図) =作成・野本浩幸

 

図3:各地の位置関係(衛星写真:Google Earth)=作成・野本浩幸

図3:各地の位置関係(衛星写真:Google Earth)=作成・野本浩幸

 

 

2.観測データに基づく考察

 

熊本地震の観測値とそれに基づく計算値を、川内原発の想定値と比較・考察することで、川内原発の危険性を示します。これら値の一覧を表2に、考察全体の流れを図4に示しました。

 

表2:各地の揺れの観測値・計算値と川内原発の想定値一覧=作成・野本浩幸

表2:各地の揺れの観測値・計算値と川内原発の想定値一覧=作成・野本浩幸

 

図4:熊本地震(前震)の観測値に基づく川内原発の危険性の考察の流れ=作成・野本浩幸

図4:熊本地震(前震)の観測値に基づく川内原発の危険性の考察の流れ=作成・野本浩幸

 

2.1.益城観測点におけるはぎとり波

 

益城観測点におけるはぎとり波(原発の基準地震動と比較可能な揺れ)は、益城観測点地下観測値(③)237ガルの約2倍の、470ガル相当(④-A)となります[1]。なお、報道されている1580ガルという値は、地表における3軸合成値(横揺れ・縦揺れを合わせた値)であり、原発の想定値と比較するのは適切ではありません。

 

2.2.JNESによるシミュレーションとの比較

 

旧・原子力安全基盤機構(JNES)【現・原子力規制委員会】は、平成16年度の報告書にて、今回の熊本地震とほぼ同じ形態であるM6.5の横ずれ断層地震による揺れ(はぎとり波)のシミュレーションを行っています[7]。

 

図5:JNESによるM6.5横ずれ断層地震のシミュレーション[1][7] =作成・野本浩幸

図5:JNESによるM6.5横ずれ断層地震のシミュレーション[1][7] =作成・野本浩幸

 

図5のように、今回の震源断層と益城観測点の位置を照らし合わせると、このシミュレーションにおいて、益城観測点相当位置では300~400ガルの揺れ(④-B)が想定され[1]、これは今回観測値に基づくはぎとり波の値470ガル(④-A)とほぼ同等であると言えます(実績の方がやや大きくなっています)。そして、このシミュレーションによれば震源至近では、1000ガルを超える揺れが想定されています[7]。

 

なお、このシミュレーションの結果は、若狭ネットなどによって以前から指摘されていましたが、現状の規制には反映されておらず、原子力規制委員会・規制庁としては「専門家を入れて再現性について検討すべき」という見解を示していました。今回、不幸にも発生してしまった熊本地震によって、このシミュレーションの正当性が確かめられたことになります。

 

2.3.川内原発想定値との比較

 

川内原発の設計想定値は表2と図6に示す通りで、基準地震動が620ガル、安全限界(クリフエッジ)が約1000ガルです。JNESのシミュレーションによれば、熊本地震において震源至近では、1000ガルを超える揺れが生じていたことになりますから、熊本地震同等の地震が、もし川内原発直近で発生すれば安全限界を超える揺れが川内原発を襲い、メルトダウン事故の発生が危惧されることになります。

 

図6:熊本地震に基づく揺れの計算値と川内原発想定値の比較=作成・野本浩幸

図6:熊本地震に基づく揺れの計算値と川内原発想定値の比較=作成・野本浩幸

 

 

3.結論

 

熊本地震(前震)の観測結果は、旧・原子力安全基盤機構(JNES)が行ったシミュレーションの結果を実際にほぼ再現しています。このシミュレーションは平成16年度に行われましたが、現状の規制には反映されていません。もしも、熊本地震と同規模の地震が川内原発直近で発生すると、川内原発の安全限界を超えた揺れ(はぎとり波1000ガル以上)が川内原発にもたらされ、メルトダウン事故の発生が危惧されるといえます。

 

 

以上で、本記事での説明を終えますが、ご納得いただけましたら、若狭ネット(⇒ホームページはこちら)の公開質問状(⇒ここをクリックすればPDFをダウンロードできます)への賛同署名にご協力頂ければ幸いです(⇒詳しくはここをクリック)。

 

  • 賛同署名提出先:若狭ネット 久保様
    dpnmz005@kawachi.zaq.ne.jp
    タイトル(例)「川内原発運転中止等を求める公開質問状に賛同します」
    署名内容「氏名(団体の場合は団体名)および都道府県名」

 

 

【参考文献】
[1]若狭ネット
2016年熊本地震を踏まえた川内原発の基準地震動に関する公開質問状(案)
http://wakasa-net.sakura.ne.jp/news/qnrc20160426.pdf
[2]防災科学技術研究所-強震観測網
http://www.kyoshin.bosai.go.jp/kyoshin/data/
[3]気象庁-震度データベース検索 (地震別検索結果)
http://www.data.jma.go.jp/svd/eqdb/data/shindo/Event.php?ID=9901283
[4]原子力資料情報室-8.16地震と女川原発
http://www.cnic.jp/modules/news/article.php?storyid=234
[5]原子力規制委員会-第3回原子力規制委員会 臨時会議 配布資料
https://www.nsr.go.jp/data/000147517.pdf
[6]防災科学技術研究所-ボーリング柱状図(暫定版)-益城観測点
http://www.kyoshin.bosai.go.jp/cgi-bin/kyoshin/db/siteimage.cgi?0+/KMMH16+kik+pdf
[7]原子力安全基盤機構-震源を特定しにくい地震による地震動の検討(平成16年度)
https://www.nsr.go.jp/archive/jnes/gijyutsu/seika/2004_kaiseki.html
https://www.nsr.go.jp/archive/jnes/atom-library/seika/000005757.pdf
[8]九州電力-平成28年熊本地震における川内原子力発電所の安全性について
http://www.kyuden.co.jp/var/rev0/0052/7790/s0g2xs1ez65blxr.pdf

 

お読み頂き、ありがとうございました。

 

 

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<筆者プロフィール>野本 浩幸(のもと・ひろゆき) 沖縄県出身、長野県在住。26歳。沖縄高専(情報工学系)を卒業後、製鉄所のコスト改善、設備投資等に5年間携わる。現在、持続可能な社会の実現に向けて、長野県林業大学校で学ぶ。技術士第一次試験合格、電験三種、テクニカルエンジニア(ES・NW)。⇒野本浩幸さんの記事一覧はこちら

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