ミュージカル『VIOLET』が、2024年4月7日(日)から4月21日(日)に東京芸術劇場プレイハウスで、4月27日(土)から4月29日(月・祝)まで大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで、5月4日(土・祝)に福岡・キャナルシティ劇場で、5月10日(金)から5月11日(土)まで宮城・仙台電力ホールで再演されます。本作は、チャリングクロス劇場の芸術監督トム・サザーランド総指揮のもと、日本とイギリスの共同で公演を企画・制作し、演出家と演出コンセプトはそのままに、「英国キャスト版」と「日本キャスト版」を各国の劇場で上演するという、日本演劇史上でも稀有といえるプロジェクトとして始動しました。2019年にはロンドンで、2020年には3日間の限定上演となりましたが、コロナ禍での中止を乗り越え日本で上演され、今回は、待望の日本再演となります。
演出は、2019年のロンドン初演時より藤田俊太郎さんが務めます。単身渡英された藤田さんが、現地のキャスト、スタッフのみなさまと作り上げられたロンドン公演は、オフ・ウエストエンド・シアター・アワードで6部門にノミネートされ、日本人演出家の作品が「作品賞」候補に選ばれる快挙となりました。
2024年版は、ヴァイオレット役(Wキャスト)の三浦透子さんと屋比久知奈さん、フリック役の東啓介さん、モンティ役の立石俊樹さん、ミュージックホール・シンガー役のsaraさん、ヴァージル役の若林星弥さん、リロイ役の森山大輔さん、ルーラ役の谷口ゆうなさん、老婦人役の樹里咲穂さん、伝道師役の原田優一さん、父親役のspiさん、ヤングヴァイオレット役(トリプルキャスト)の生田志守葉さん、嘉村咲良さん、水谷優月さん、そしてスウィングの木暮真一郎さんと伊宮理恵さんのみなさんによって届けられます。
アイデアニュースでは、藤田俊太郎さんとspiさんにインタビューしました。インタビューは上下に分けてお届けします。「上」の無料部分では、再演が決まったときの思い、台本の変遷のこと、spiさんの父親役へのアプローチについてのお話などを紹介します。有料部分では、藤田さんに伺った「対話」の重要性、spiさんが稽古現場で提示する豊富なアイデアについてのお話などを紹介します。
「下」の無料部分では、藤田さんによる、ロンドンでの経験を踏まえての演出についてのお話、spiさんの提案が反映された台詞のこと、この作品のテーマと「父親」という存在についてのお話などを紹介します。有料部分では、作品の本質についてのお話と、お客さまへのメッセージを紹介します。
――ミュージカル『VIOLET』は2020年4月に予定されていた日本での初演がコロナ禍で中止になり、同年9月に3日間限定で上演されました。今年4月の再演が決まったときの率直なお気持ちはいかがでしたか?
藤田:この『VIOLET』という作品は、「青春」というと言い過ぎかもしれないですけど、僕自身の中に、美しく且つ痛みを伴う「大きな深い傷」にも近いような、いろんな痕跡を残してくれた作品です。演出家として「また向き合いたい、演出に取り組みたい」と思う作品の一つなので、すごく嬉しかったです。
spi:最初の印象としては、「やるんだ」とまず思いましたし、そこにまた呼んでいただけて嬉しいという気持ちでした。
――『VIOLET』という作品に初めて触れたときの印象や、初演の際の思い出などをお聞かせください。
藤田:2019年にロンドンのオフ・ウエスト・エンドのチャリングクロス劇場で演出するということを視野に入れて、「どのようにアプローチしてこの作品を演出しようか」という気持ちで台本を読ませていただきました。譜面に触れてブロードウェイレコーディングの音楽を聴いたときに、率直に「音楽が美しい」と思いました。
「傷」や「醜さ」という言葉が溢れている作品の内容と、この美しい音楽の完成度の高さとのアンバランスさ。「一気に戯曲を書き終えたんじゃないか」というくらい、驚くほどの勢いと魅力に溢れていると思いました。初めて読んだときのその気持ちは、今も変わらないです。
――例えば、『ジャージー・ボーイズ』なども、何度も再演されて演出なさっていますが、何回かご自身で演出された後は、最初に作品に触れたときと印象は変わるのでしょうか?
藤田:根っこの印象は変わりません。でも、どうアプローチして演出するかは大きく変わるのではないかと思います。それは自分の経験と、やっぱり出会いが大きいですし、その再演する時々の考え方にもよります。
――『VIOLET』も同じですか?
藤田:はい。ご一緒するカンパニーのメンバーと共に挑戦する気持ちを大事に創作していきたいと考えています。同じ「山」だとしても、登り方は全く変わるのではないかと思います。
――spiさんは、作品に最初に触れたときの印象や、初演の際の思い出などはいかがでしたか?
spi:一番最初に読んだのは、日本語の台本のカットをし終わった状態でした。だから、たとえばトンカツにたとえるとすると、切り分けられて綺麗にまとまっているけれど、どこかに飛んでいってるパーツが何ヶ所かあるトンカツだなと。パッと見は大丈夫で、開いていくと何かが足りないと感じるけれど、何が足りないのかがわからない。
台本がカットされているとは知らずに読んでいたので、言葉を選ばないで言うと、「なんでこんなに中途半端なんだろう」と思って。でも俺は俳優だから、作品の歯車として「自分のパートの場所を、頑張ってやってやろう」と、英語の戯曲と台本とを照らし合わせて自分の台詞の英文を確認したんです。英文では実はこうなってるのが、日本語訳でこうなっていて、ここはうまく綺麗にカットされているんだなと見ていって。そもそもの英語の戯曲が長いんですよね。2幕ものでしたっけ?
藤田:そうなんです。『VIOLET』は、バージョンがいくつかあるんですけど、初期のバージョンはもっと長いんです。2019年にロンドンで演出したのは、遍歴を経ての決定稿。おそらくspiさんは、そのオリジナルに近いものを読んでいるのでは。
spi:なんか「ちょっと1行抜いた」みたいなのがありましたね。
藤田:spiさんに助言や感想を言っていただいて、あらためて台本を読み直すとたくさんの発見がありました。
spi:そうだったんだ。
藤田:はい。だから元々2幕ものの作品を、おそらくですが「作品全体の疾走感を大事に」と改変を加えて、それによってパーツが抜けているトンカツの状態が起きていると。
spi:綺麗に纏まっているんですけどね。
藤田:上演の遍歴と読むタイミングで、少しずつバージョンが違うんです。
spi:そこからキャストと一緒に、藤田さんと俺と前回のカンパニーの方たちと「これはどうだろう?」と意見交換をしながら、俳優視点と演出視点と翻訳視点の三点から攻めて、一番良い形を探して、今の翻訳台本になっている感じですね。
――2020年の台本は、そうやって生まれたんですね。
藤田:はい。前回2020年のカンパニーメンバーがこの作品に与えたものは凄まじかった。本当に、お一人お一人を心から敬意しています。そして、今回、台本に関して翻訳・訳詞の芝田未希さんが、2024年の上演という観点でまた見直し、選び直している言葉もあります。
spi:そうなんだ。
藤田:同じ演目でも再演ではないというのは、ここにも起因しているんです。
――単に「再演」ではないんですね。
藤田:僕にとっては、2019年にロンドンで上演した英国キャスト版と、その後に日本で2020年に上演した日本キャスト版があり、特に2020年は、spiさんがおっしゃる通り、皆で解釈して稽古場で対話を重ねました。
2024年に上演するにあたって、2020年にspiさんがたくさん言ってくださったり、アイデアを出してくださったところは、そのままにしています。spiさんの役は、この作品の中でものすごく独特で独立していて、非常に重要な役なんです。過去であり、神の視点だったり、娘の記憶などを一手に担っているので、1人しかこの視点を持てないんです。
こうやっていろいろな遍歴があるわけですから、もちろん、言葉の伝え方も時代によってもカンパニーによっても変わっていきます。僕はできるだけいろんな意見を言っていただいてその時の、「その座組」の答えを見つけていけるのが、すごくいいカンパニーなのではと考えている一人です。spiさんが接した台本も、いろんなバージョンがあって、歯抜け感もあったんですよね。
spi:バージョンの中の1枚という感じだった。
藤田:そうですよね。
――初演を拝見したのですが、不慮の事故から取り返しのつかない傷を愛娘に与えてしまった父親が、娘に故意だったのかと責められたあとに、男やもめでどんな思いで彼女を育ててきたかをとつとつと「それぐらいしかできなかった」と歌うシーンに非常に胸を打たれました。演じるにあたって、どのようなアプローチをされたのでしょうか?
spi:過去に、自分のせいで怪我をさせてしまった大好きな存在があるんです。そのまま何年も経って、でもその傷をお互いにずっと持っているという「父親」に似た経験をしてるんですね。どういう心境かというと、刺青みたいな感じでずっと一生こびりついているんですけど、気にしなければ気にならない。
でもふとしたときに思い出す。思い出しても「どうしようもない」というのをわかった上で生活していくんですけど、でも消えることなくずっとある、みたいな感じで。ずっとあるけれど、それを気にせずに生活をすることが、お互いにとって「愛」というか「わかっている」みたいな。でもこの作品は、最終的に「親の心子知らず」で、それが最後のヒネリで。…合ってます?
藤田:合ってます。
spi:だから逆にもう、むしろわざとヴァイオレットに傷を負わせたという方が、自分を責められるから良かったと考えるくらい、あまりにも不慮のことで、どうしようもないことすぎて。どうやっても何かのせい、誰かのせいという感じで、何か因果があるものじゃないので。その不安定でふわふわした不幸みたいなものって、もう向き合い方が特殊じゃないですか。
「こいつは嫌な奴だから、嫌いだから関わらない」みたいな断定したジャッジができない。ずっとそこに存在しているものとともに生きるという、そのアンバランスさが父親にはあるんです。ラストシーンで、ヴァイオレットが父親に「わざとやったんでしょう?」みたいなことを言うんですが、それに対して「俺がやってしまったんだけど、本当にどうしようもないものなんだ」と。「もう、それぐらいしかできないんだ」みたいな。
――起きてしまったことは、なかったことにはできない、ということですね。
spi:消えないし、本当にごめんなさいだし。やってしまったのは自分なので「それを乗り越えて行ってくれ」とも言えない。自分でもどうしようもなかった、そのどっちにもつかない状態。人間って、その不安定な状態で生きていかなきゃいけないじゃないですか。不安定だからこそ、安定しているというか…。
※アイデアニュース有料会員限定部分には、藤田俊太郎さんに伺った「対話」の重要性、spiさんが稽古現場で提示する豊富なアイデアについてのお話などインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。インタビュー「下」の無料部分では、藤田さんによる、ロンドンでの経験を踏まえての演出についてのお話、spiさんの提案が反映された台詞のこと、この作品のテーマと「父親」という存在についてのお話などを紹介します。有料部分では、作品の本質についてのお話とお客さまへのメッセージなどインタビューの後半の全文と写真を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)
■藤田:「普通の市民」を描いた作品。ヴァイオレットは、ただ彼女の戦いを始めた
■藤田:アイデアがものすごいspiさん。トンカツで言うと「そのままで美味しい」
■spi:「父親」のイメージが3パターンほど。「どれがいいですか?」と藤田さんに
■spi:言葉で説明するより「こんな感じでどうですか?」と演じながら決めていく
<ミュージカル 『VIOLET』>
【東京公演】2024年4月7日(日)~4月21日(日) 東京芸術劇場プレイハウス
【大阪公演】2024年4月27日(土)~4月29日(月・祝) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
【福岡公演】2024年5月4日(土・祝) キャナルシティ劇場
【宮城公演】2024年5月10日(金)~5月11日(土) 仙台電力ホール
公式サイト
https://www.umegei.com/violet/
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いつも素敵な記事をありがとうございます。観劇後にこちらのインタビューを読み、その次の観劇では「トンカツ」を意識しながら観てみました。こうした対談は作品に対し理解が深まり、観劇時の新しい気づきを与えてくださいますね。これからも素敵な記事を楽しみにしています!