「“いつまでも眠れそうだよ”はspiさんの提案」、『VIOLET』藤田俊太郎・spi(下) | アイデアニュース

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「“いつまでも眠れそうだよ”はspiさんの提案」、『VIOLET』藤田俊太郎・spi(下)

筆者: 達花和月 更新日: 2024年4月7日

ミュージカル『VIOLET』が、2024年4月7日(日)から4月21日(日)に東京芸術劇場プレイハウスで、4月27日(土)から4月29日(月・祝)に大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで、5月4日(土・祝)に福岡・キャナルシティ劇場で、5月10日(金)から5月11日(土)まで宮城・仙台電力ホールで再演されます。2019年のロンドン初演版から演出を手がけられている藤田俊太郎さんと、父親役のspiさんの対談後編です。「下」の無料部分では、藤田さんによる、ロンドンでの経験を踏まえての演出についてのお話、spiさんの提案が反映された台詞のこと、この作品のテーマと「父親」という存在についてのお話などを紹介します。有料部分では、作品の本質についてのお話と、お客さまへのメッセージを紹介します。

(左から)藤田俊太郎さん、spiさん=撮影・伊藤華織
(左から)藤田俊太郎さん、spiさん=撮影・伊藤華織

藤田:spiさんと対談するのは、今回が本当に初めてなので、「なるほど」と思って話を聞いていました。演出について今まで話したことがない話をさせていただきますが、結局演出家は「作品を豊かにするためになにが必要か?」と考えるわけです。そうするとやっぱり言葉、もしくは身体で「俳優が舞台上でどれだけ語れるか」なんです。

spiさんは、言語的にも身体的にもサブテキストを持ち、作品を解釈されてきているから、雄弁に身体で語っているんですよ、全て。それは言ってしまえば、稽古場でどれだけ俳優が自由に言葉を発するかもそうですけど、雄弁になれるかが大事だと思うんです。もしも役者が自由に、雄弁になれないなら、それは僕自身の方向性が定まっていない時。

spiさんは僕の考える方向性やビジョンを的確にキャッチしてくださる。そうするとあとはもう、思いもよらぬ雄弁さで語ってくれるので、僕としては、現場においてそれはかなり素晴らしいことで、刺激を受けて更にクリエイティブが空気感のある現場創りを目指していきたいと考えます。

これはロンドンで学んだことにも起因しているかもしれません。身体的にでも言葉でも、どうお互いに「対話をしていくか」ということが一番大事で、それを経てこそ、面白いものを作ることができる。そういう意味で、spiさんはかなり提示してくださるので、なるほどなと思う稽古場での芝居に感服することが多いです。

――ディスカッションとは言葉を尽くすというイメージを持っていたのですが、ただ言葉を尽くすのではなく「対話する」ということなんですね。それが言葉だったり身体を通してだったり。

藤田:いろいろな形、いろんな対話の仕方があるんじゃないでしょうか。偏ったり、一方通行ではなく、そのあり方をいろいろ考えていけたらいいと思います。spiさんとの仕事では、正直、ほとんどspiさんが創ったと言っても過言ではないシーンがありますから(笑)。

spi:(笑)。この前、俺も演出したんですけど(2023年11月「ミュージカル『刀剣乱舞』 千子村正 蜻蛉切 双騎出陣~万の華うつす鏡~」)、もしかしたら『VIOLET』で、藤田さんの仕事を奪っちゃったのかなって、ちらっと思った瞬間がありました。

藤田:いやいやいや、それはないです。

spi:じゃあ、嬉しいです。

藤田:より物申すということで作品が上がることがたくさんあるわけですから。ちょっと食べ物続きですが、いつものスープに違う香辛料を入れてみるとか、もしくは思い切って鍋を火から上げて、1回冷やしてまた温めて、料理そのものが変質していくということもある。この料理がこの段階まで作れたなら、違う攻め方をもう1回すれば一段上がれる可能性があるんじゃないか? と文字通り教えてくださっていると思います。翻訳に関して今、思い出しましたけど、この芝居の一つの着地点「いつまでも眠れそうだよ」という父親の台詞があるんですが、spiさんからの様々な提案、影響を受けて、芝田さんが翻訳しました。

spi:そうでしたっけ?

藤田:そうです。父親のこの台詞の一行は、たくさんの和訳の候補があったんです。言葉というのは前後の文脈で構成されるわけですから、ずっと一緒に稽古を走ってきて、しかも当事者でなければ出てこない言葉だったと思います。

――父親が本当に安心できたんだなと、感じられますね。

藤田:日本的な考え方なら成仏。キリスト教で言えば、来世に向かって彼は一歩踏み出すことができたのかなと。深いですよね。この作品であれば、ヴァイオレットの傷が消えたのかとか、傷は心の傷に過ぎなかったのか、心の傷こそ癒えるのが難しかった、とか。そんな多義的な意味がこの1行に向かって言えると思います。だから音楽のジニーン・テソーリさんは、このシーンのM23「それぐらいしか(”That’s What I Could Do”)」を作品全体の音楽が到達する場所にしていると僕は思います。できることはそれぐらいしかない。それができることだと。

spi:そうですね。

藤田:「自分にできることは何だ?」というのが全てで、これがテーマじゃないですか。これはヴァイオレットの物語で、その大テーマに向かっていろんな登場人物たちはそのシーンそのシーンを担っているんですけど、みんながこの曲に向かって進んでいると僕は思います。音楽はシンプルにそう書かれているんです。この芝居は全員が主役になれるから本当に素敵だと思うんですけど、ヴァイオレットの旅の目的である伝道師の向こう側にいるのは父親です。

傷を治してくれる対象の、本当のひっくり返ったところは、父親が傷をつけなければ傷はなかったという構成で。さっきspiさんがおっしゃった言葉に近いのですが、「不完全」は、すごくこの作品に合った言葉だなと。つまり楽曲は本当に見事に構成されているんですけど、物語はずっと不安定で不完全なまま進んでいくんです。

spi:うん。

藤田:傷が「あり続ける」というのは、人間の体の中でその部分を「失って」いるわけです。傷がついた肌の部分が、えぐれてなくなっている。それはすごい大仕掛で、この作品そのものがあえて不完全なのだと思います。今お話を聞いていて、本当にそういうことを担うのが父親という役で、なるほどと思いました。だからこそ、この作品はすごく魅力的であり続けて、お客さまにすごく喜んでいただける作品だと思います。「父」がいない人類はいないので。

spi:そうなんですよ。みんな誰かの子どもですから。

藤田:例え、ヴァイオレット、フリックやモンティに感情移入できなくても、父には何かの気持ちを持って感情移入できる。「父」がいない人はいない。みんな誰かの息子であり娘なんです。

※アイデアニュース有料会員限定部分には、作品の本質についてのお話とお客さまへのメッセージなどインタビューの後半の全文と写真を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)

■spi:会見で「みんなのパパになりたい」と。みんなのトラウマとも対峙せねば

■藤田:最後に、お客さま自身の「父なるもの」と向き合う瞬間がやってくる作品

■spi:ヴァイオレットに向き合う姿を観て。何か「破片」だけでもお渡しできたら

■藤田:「奇跡を巡る物語」。お客さまと一緒に見るラストシーンは、特別なもの

<ミュージカル 『VIOLET』>
【東京公演】2024年4月7日(日)~4月21日(日) 東京芸術劇場プレイハウス
【大阪公演】2024年4月27日(土)~4月29日(月・祝) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
【福岡公演】2024年5月4日(土・祝) キャナルシティ劇場
【宮城公演】2024年5月10日(金)~5月11日(土) 仙台電力ホール
公式サイト
https://www.umegei.com/violet/

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藤田俊太郎さん=撮影・伊藤華織
藤田俊太郎さん=撮影・伊藤華織

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<筆者プロフィール>達花和月(たちばな・かずき) 遠方の友人を誘って観たお芝居との出会いをきっかけとして演劇沼の住人に。ミュージカルからストレートプレイ、狂言ほか、さまざまな作品を観劇するうち、不思議なご縁でライターに。自らの仕事を語る舞台関係者の“熱”に、ワクワクドキドキを感じる日々。 ⇒達花和月さんの記事一覧はこちら

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最近のコメント

  1. some より:

    観劇後も、いろいろ考えさせられて、とても面白い作品です!
    記事を読んで、こうやって作り上げていくんだと感激しました。
    演技で対話ってすごいです。「みんなのパパ」に納得!
    多くの作品でご一緒してるお二人の、たっぷりの対談を読むことができて嬉しいです。
    ありがとうございます。

  2. ham より:

    spiさんと藤田さんがお互いをリスペクトしあっていることが伝わって、それが反映されて作品がより高まっていくのだなと感じました。観劇前にこの対談を読み返して、劇場で受け取った破片と共に自分の「父なるもの」と向き合いたいと思います。そしてまた観劇後にも読み返したいと思います。素晴らしいお話をありがとうございました!

  3. 猫とかき氷 より:

    VIOLETは初演も拝見しましたが、正に自分の父なるものと向き合えた作品でした。今回また新しいVIOLETを観るのを楽しみにしています。

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