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音楽さむねいる:(12)「レザンファン ギャテ」のフランス料理が想起させる、ドビュッシーの『小組曲』

筆者: Koichi Kagawa 更新日: 2016年9月21日
連載:音楽さむねいる(12)

 

 

『小組曲』(1889年)(※1)、クロード・ドビュッシー(※2)(1862年8月22日-1918年3月25日)作曲、推薦録音:エルネスト・アンセルメ指揮、スイス・ロマンド管弦楽団(※3)

 

Koichi Kagawaの 音楽さむねいる

Koichi Kagawaの 音楽さむねいる

 

 

■代官山の静かな一角にある、“我儘育ちの子供達”という名の名店

 

東横線代官山駅の正面口から少し西に歩き、代官山駅入口交差点に立つと、目の前を八幡通が左右に走る。代官山のメインストリートとも言える旧山手通りに比べると、この通りの知名度はいささか低い。しかし、代官山アドレスやラ・フェンテ代官山などの複合施設を中心に、通りの両側にお洒落なレストランやブティックが立ち並ぶこのエリアは、代官山のスタイリッシュなスポットとして近年とみに注目を集めている。

 

その通りを並木橋の方へ歩いていくと、やがて本通りから分かれて左に下る坂道が見えてくる。大通りの喧騒を離れ、その坂道を数十メートル下った静かな一角に、目指すレザンファン ギャテ(Les enfant gâtés)(※4)はある。フランス語で“我儘育ちの子供達”という意味の言葉を店名に頂くこの店は、知る人ぞ知るフランス料理の名店である。

 

Les enfant gâtés お店の外観=写真提供・Les enfant gâtés

Les enfant gâtés お店の外観=写真提供・Les enfant gâtés

 

 

■コンセプトはアール・デコとミッド・センチュリーの融合

 

店の前に立つ。黒地に白く“Les enfant gâtés”と店の名が書かれた庇が張られ、その下には内部が見通せる大きな四つのガラス窓。それぞれの窓の上にはサン・シェードが小さく張られ、赤みがかった木を用いた鎧張りの壁と相まって、店の外観に瀟洒な印象を与えている。正面玄関の左側にある、少し右に湾曲した緩やかな階段を上ると、奥まったところにある入り口の片開き扉が私達を迎えてくれる。その表面には、風に靡く旗のような形状の磨りガラスが2枚張られ、粋な雰囲気が漂う。

 

扉を開けると、右手に数隻のカウンターを配したバーと小さな待合室がしつらえられ、そこには、ウォーレン・プラットナー(※5)デザインの椅子数脚が、ガラスのテーブルを囲んで置かれている。左側の通路の向こうには、数席のテーブルと、直線と曲線を巧みに組み合わせたアール・デコ調のガラス扉で仕切られた個室が見える。ドナルド・デスキー(※6)の手によるガラス・スクリーンが仕切る24席の小さな店内は、アール・デコとミッド・センチュリーのテイストが融合し、これから供されるディナーへの期待感をいやがおうにも高めていく。まさにここは都会の隠れ家。

 

お店の内装=写真提供・Les enfant gâtés

お店の内装=写真提供・Les enfant gâtés

 

 

■アミューズ・ブーシュ:第一楽章「小舟にて」 燻製の鮭のリエット

 

料理が供される。アヴァン・アミューズに続いて、シャパンの泡に透けて見えるのは、肉ではなく燻製の鮭のリエット。薄い肌色のペーストをバゲットに乗せて味わう。柔らかく、実にクリーミーなベースの中に鮭の燻製が仄かに香る。このアミューズ・ブーシュとシャンパンのハーモニーが、ドビュッシーの『小組曲』第一楽章「小舟にて」を想起させる。至福の時の序曲=ウベルチュァ(Ouverture)である。さざ波を表すかのようなハープのアルペジオに乗って、フルートのソロがアンダンティーノのリズムで、柔らかな舟唄風の主題を奏でる。緩やかに波打つ入江に、乗り人を待つ手漕ぎの刳舟(くりぶね)が一艘、波の動きに身を委ねている。強さを抑えた木管楽器と弦楽器が穏やかな水辺の風景を描くとほどなく、柔らかなリエットが口の中でとろけていった。

 

お店の内装=写真提供・Les enfant gâtés

お店の内装=写真提供・Les enfant gâtés

 

 

■アントレ:第二楽章「行列」 20種類の野菜をプレスした鮮やかなテリーヌ

 

さて、ドメーヌ・ドゥ・マージュの白と共に、アントレはテリーヌの登場である。常時9種類以上も揃えたテリーヌは、この店のスペシャリテ。その種類の多さについ目移りしてしまう。活オマール海老と地鶏のササミのミキュイ・オリエンタル風、地鶏と豚足でアレンジしたフロマージュ・ド・テット、帆立貝のグリエとアーティチョーク、フレッシュチーズの燻製をかけたクレームフェッテと胡桃のヴィネグレットソース、ナチュラルに仕上げたフランス産 鴨フォアグラ ブリオッシュ・トースト添え、鴨コンフィ白インゲン豆煮込み ラングドック地方のカスレのイメージで(※7)と枚挙にいとまがない。アントレにしてプラ(メイン・ディッシュ)の役割も果たす逸品達である。

 

中でもひと際目を引くのは、20種類の野菜を何のつなぎも入れずにプレスした、実に鮮やかなテリーヌである。それは、印象主義の画家達が用いた色彩分割法(※8)のように、統一感のある一品ながら、中では一つ一つの野菜が色彩を競っている。直径十数センチの台形の中に、宝石のように輝く原色が散りばめられたこの一皿は、目で味わうに足る美しさを湛えた小宇宙のようだ。これらは、天才シェフ松澤直紀氏の遊び心に満ち、それは、まさにシェフの“我儘育ちの子供達”である。

 

テリーヌ=写真提供・Les enfant gâtés

テリーヌ=写真提供・Les enfant gâtés

 

この小気味よい一皿が奏でる音楽は、『小組曲』第二楽章「行列」である。木管楽器の軽快なリズムに乗って、子供達が思い思いの色の服をまとい、軽やかに踊りながら行進して行く。可愛い行列のお通りである。飛び跳ねている子供。列を離れて石ころを蹴とばす子供。別の子供と戯れる子供… しかし、ばらばらに進んでいた行列はやがて合流し、光り輝く太陽に向かって歓喜の声を上げ、曲は完結する。これはまさに、全く異なる性格を持った野菜を凝縮し、一つの味に仕上げた野菜のテリーヌそのもの。レザンファン ギャテがLes enfant gâtésたる所以の一皿である。

 

 

<参考動画>
ドビュッシーの原曲である4手によるピアノ曲を、巨匠マルタ・アルゲリッチとクリスティーナ・マートンが聴かせる。

 

 

 

  • <Les enfant gâtés (レザンファン ギャテ)>
    東京都 渋谷区 猿楽町2-3
    Tel. 03-3476-2929
    Fax. 03-3476-2928
    LUNCH 12:00〜14:00 (Last order)
    DINNER 18:00〜21:30 (Last order)
    CLOSE 月曜定休
    月曜日が祝日の場合は翌日定休
    ウェブサイト  ⇒ http://terrine-gates.com/

 

 

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■刻々と変化する空気と光を的確に捉え、分離し、再構築し、一皿一皿に還元する感性と技

 

■外連味なく美味快感に陶酔する、エルネスト・アンセルメ指揮、スイス・ロマンド管弦楽団の演奏

 

 

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<筆者プロフィール>Koichi Kagawa/1961年徳島市生まれ。慶應義塾大学法学部、並びに、カリフォルニア大学バークレー校大学院卒業。経営学修士(MBA)。1983年大学卒業と同時にシティバンク東京支店に入行。以後、今日まで複数の欧米金融機関でCOO等要職を歴任。現在、某大手外資系金融機関に勤務。幼少期からクラシックからジャズ、古典芸能、果ては仏教の声明に至るまで、幅広い分野の音楽に親しみ、作曲家とその作品を取り巻く歴史的・文化的背景などを通じ、「五感で感じる音楽」をモットーに音楽を多方面から考え続けている。 ⇒Koichi Kagawaさんの記事一覧はこちら

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