2021年9月9日(木)に開幕したミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』が、9月29日(水)まで日生劇場で上演されています。続いて大阪公演が、10月8日(金)から10月10日(日)まで、フェニーチェ堺 大ホールで上演されます。キャストのうちダニエル役は木村達成さんと小野賢章さんのWキャスト、アンダーソン役は加藤和樹さんと松下優也さんのWキャスト、ジャック役は加藤和樹さんと堂珍嘉邦さんのWキャストで、Wキャストの組み合わせは、Aチーム(木村ダニエル、加藤アンダーソン、堂珍ジャック)、Bチーム(小野ダニエル、松下アンダーソン、加藤ジャック)、Cチーム(木村ダニエル、松下アンダーソン、加藤ジャック)、Dチーム(小野ダニエル、加藤アンダーソン、堂珍ジャック)の4種類があります(東京はABCDそれぞれ2公演ずつ、大阪はBが1公演、Cが2公演、Dが1公演)。このWキャストの全組み合わせ、4チームを観劇しての作品の見どころや面白さとキャストの印象などを、レポートします。(一部ネタバレ的な要素を含みますので、観劇前の方はご注意ください)
19世紀末のロンドンに実在した殺人犯・通称“ジャック・ザ・リッパー(切り裂きジャック)”をモチーフに、2007年にチェコ共和国で生まれ、2009年に韓国でアレンジされて初演、その後繰り返し上演されているミュージカルの日本版初演。演出は、白井晃さんです。ロンドンの街並みが、ダークな色合いに表現された舞台セットに、様々な“赤”が鮮烈に浮かび上がっていく様が残酷で美しく、愛、哀しみ、執着、諦め、嫌悪、怒り、野心など、人間の激しい感情が行き交い渦巻いています。ドラマティックで多彩な音楽が次々と畳み掛けるように劇場を満たし、休憩込みの2時間半があっという間に感じます。
『ジャック・ザ・リッパー』というタイトルですが、ダニエルの物語であり、アンダーソンの物語であることが見どころであり、白井さんが語っている「愛の物語」なのだと思いました。医学の発展、そして人類の未来の希望にもなりうる臓器移植に力を注ぎ、愛する人を救うために罪を犯すダニエル。薬物中毒になりながらも、刑事としての正義感や愛した人への揺れる思いに悩みもがくアンダーソン。ふたりの男の物語が、それぞれに描かれ、交わり、結末を迎える。そのふたりが出会うことになってしまったのは、ジャックが現れたから。そして、特ダネに燃えるモンローに出会ってしまったことも、大きな引き金になってしまいます。
キャストは、外科医ダニエル役は木村達成さんと小野賢章さんのダブルキャスト、刑事アンダーソン役は加藤和樹さんと松下優也さんのダブルキャスト、殺人鬼ジャック役は加藤さんと堂珍嘉邦さんのダブルキャスト。ダニエルと恋に落ちる娼婦グロリア役はMay’nさん、アンダーソンの元恋人で娼婦ポリー役はエリアンナさん、新聞記者モンロー役は田代万里生さんです。ミュージカルだけでなく、アーティストなど多ジャンルで活躍するキャストが多く、多才な個性が活きて魅力的です。メインキャストが若く、ベテランと呼ばれる方々がいないことも珍しいです。さらに、16名のアンサンブルが支える重厚なコーラスが見事。それぞれにさまざまな役で見せ場もあり、特に娼婦たちは個性豊かです。
日生劇場の隣の東京宝塚劇場宙組公演では、同じ9月に『シャーロック・ホームズ-The Game Is Afoot!-』~サー・アーサー・コナン・ドイルの著したキャラクターに拠る~が上演されていますが、こちらにも“ジャック・ザ・リッパー”が登場していて、パラレルワールドのようです。『ジャック・ザ・リッパー』のプログラムには、ジャックがいた19世紀末ロンドンについて書かれたページがあり、そのなかで「ホームズが“ジャック”を彷彿とさせる事件に挑むことはなかった」と書かれています。ですが、まさに今、隣の劇場ではその“ジャック”が登場する創作が加えられています。ふたつの作品を行ったり来たりしていると、片方では考えもしなかったことに出会えたりして、思いがけない楽しさを体験しています。
※アイデアニュース有料会員限定部分には、白井晃さんの演出について、Wキャストの全4チームの印象の違いや、キャストそれぞれの演技や歌、演出、本編からカーテンコールを通して感じたことを紹介したルポの全文と写真を掲載しています。
<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)
■推理ものを舞台で表現する難しさ。ややこしくなるところを白井演出でスマートに
■ダニエル物語A、アンダーソン物語B、激情型トライアングルC、理性型トライアングルD
■キラキラ輝いて常にフルスロットルの木村、エリートが落ちた闇の深さが怖い小野
■役者という仕事の凄さを見せつけられた加藤。ジャックは色気が尋常じゃない
■松下アンダーソン物語は切なすぎる。歌声と楽曲の親和性に胸が締め付けられ
■堂珍ジャックの人外感に恐れ慄き、田代モンローの笑い声は思い出したくない
■娼婦たちの、この街で生き抜くしかない、生きてやろうという力強さ
■個性が際立つカーテンコールの歌。歓声をあげられる状況になったらコンサートを
<ミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』>
【東京公演】2021年9月9日(木)~9月29日(水) 日生劇場
【大阪公演】2021年10月8日(金)~10月10日(日) フェニーチェ堺 大ホール
公式サイト
https://horipro-stage.jp/stage/jacktheripper2021/
<キャスト>
ダニエル:木村達成・小野賢章(Wキャスト)
アンダーソン:加藤和樹・松下優也(Wキャスト)
ジャック:加藤和樹・堂珍嘉邦(Wキャスト)
グロリア:May’n
ポリー:エリアンナ
モンロー:田代万里生
朝隈濯朗 伊佐旺起
石井雅登 齋藤桐人 常川藍里
水野栄治 森内翔大 りんたろう
碓井菜央 岡本華奈 熊澤沙穂
香月彩里 菅谷真理恵
ダンドイ舞莉花
永石千尋 橋本由希子
<スタッフ>
作曲:Vaso Patejdl
作詞:Eduard Krecmar
脚本:Ivan Hejna
演出:白井晃
翻訳:石川樹里
訳詞:高橋亜子
音楽監督:島健
美術:石原敬
照明:高見和義
音響:佐藤日出夫
衣裳:安野ともこ
ヘアメイク:川端富生
映像:栗山聡之
振付:原田薫
ステージング・アクション:渥美博
音楽監督補:松田眞樹
歌唱指導:林アキラ
演出助手:豊田めぐみ
舞台監督:小笠原幹夫
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正しく!!正しくそうなんです!!
松下アンダーソンのあの切なさと嫌いになり切れていない気持ちを歌に乗せて表現する様は、本当に心打たれます。
どう言葉に表していいか分からずにいたので、記事を読んでいてそう!そう!そう!!ってなりました。ありがとうございます。
私も、優也くんの舞台の中で、1番2番になるくらいジャックザリッパーが好きになりました。
他のキャストさんも素晴らしく観終わった瞬間の充実感、そしてストーリーが回収できる高揚感は、なかなか他の舞台で味うことはできないです。
白井さんの演出がすごい。
是非また再演して欲しいです。
ジャックザリッパーコンサート、本当に熱望しちゃいます!!