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音楽さむねいる(3) ヴァイオリ二スト猪子恵、初アルバム『ZEFIRO』発売へ

筆者: Koichi Kagawa 更新日: 2016年5月13日
連載:音楽さむねいる(3)

 

 

『ZEFIRO』より第一曲「City of the Old Castle(古城散歩)」、第三曲「Zefiro(イタリアの風)」(※1) 猪子恵(※2) 作曲・演奏(ヴァイオリン)

 

音楽が運んで来る風があるとしたら、それはどのような膚触りで、どんな色香を漂わせているのであろうか? その問いに一つの明解な答えを示してくれるのが、2016年5月18日に発売されるヴァイオリ二スト、猪子恵氏のファーストアルバム『ZEFIRO』(ゼフィロ)である。

 

猪子恵 ファーストアルバム「ZEFIRO」より

猪子恵 ファーストアルバム「ZEFIRO」より

 

 

■ギリシャの神に由来するタイトル

 

“Zefiro”とは、イタリア語で“そよ風”を意味し、ギリシャ神話に登場する風の神たちの一柱、ゼピュロス(Zephyros)に由来する。この神は春の訪れを告げる西風の化身であり、豊穣もたらす恵みの主と言われる。樹々の新芽を巡って緑風が流れ始めたこの季節。リリース前の真新しいCDを手にした瞬間、初夏を感じた。そのジャケットには、屋外に通じる戸口に立ち、白亜の部屋以上に白く輝く陽光を浴びながら、髪を風に靡かせ空を仰いでいる演奏者の姿がある。

 

実はこのアルバムに収められた曲の幾つかは、今年の1月下旬に、高円寺アフターアワーズのライブで実際に聴くことができたものである。しかし、Skunk★Worldの手になるジャケットのその写真を見ると、照明を抑えた小柄なライブ・ハウスで体験した生演奏とは異なり、都会的でどこか晴れやかな響きを容易に想像することができた。

 

 

■ 第一曲「City of the Old Castle(古城散歩)」

 

 

早速第一曲を聴いてみる。ジプシー風の異国情緒に溢れたヴァイオリンのソロが、冒頭から厳かに奏でられる。それは、巫女が神の降臨を仰ぐ祭文のようでもある。同時に、石造りの城壁で囲まれた、典型的なヨーロッパの古い街並みが目に浮かんでくる。高円寺のライブ・ハウスで猪子氏本人も語っていたことだが、この曲はイタリア中部の街ペルージャをイメージしたものであることを、アルバムの解説で再確認した。ペルージャは、中田英寿選手が所属していたACペルージャ(現ペルージャ・カルチョ)を擁する街であると言った方が、日本人には通りがよかろう。写真をGoogleで調べてみると、予想通り、テラコッタの赤い屋根瓦で葺かれた石造りの家が不規則に並び、街並み全体が波を打っているかのようである。目を閉じて音楽に聴き入ると、とある吟遊詩人の古物語が私の頭の中に紡ぎ出される―

 

“その昔、名も知らぬ旅人が、はるばる遠方よりこのイタリアの古い街を訪れた。その旅人は城門をくぐり、家々が所狭しと並ぶ道筋を進んで行く。そして、辺りを包む異国の空気に浸り始めると同時に、旅人は自分が吟遊詩人であることを思い出し、背負っていた古楽器で歌を奏で始める。すると、西風が優しくその音楽をすくい上げ、家々を、道を、そして街を巡り、再び戻り来て詩人の髪を吹き、頬を撫でた。その時、旅人の心は空へと飛翔し、旅人は天女のように自由にこの街を音楽で礼賛する”

 

ここで音楽は、ジプシー風の旋律は残しつつも、ハード・バップ(hard bop)風の軽快な調子に変化する。音楽に合わせ自然に体が拍子をとり始めると、心が羽を得たかのごとく推進力を増し、空の高みへと昇っていく。極みに達したかと思う間もなく、波の響きかと紛うようなざわめきの中に突然鐘の音が鳴り渡る。同時に、再び冒頭のジプシー風の旋律が繰り返され、音楽は静かに収束していく。

 

“いつしか人々が集まって来て、吟遊詩人の歌に耳を傾ける。やがて彼らは声を合わせ歌い、踊り、そして、街は音楽に包まれる。教会の鐘の音が夕暮れに響き始めると、人々は喝采を後に家路に急ぐ。音楽を終えた旅人は、再び城門をくぐり、この街を後にする”

 

 

■第三曲「Zefiro(イタリアの風)」

 

 

「City of the Old Castle(古城散歩)」とはうって変わり、ギターによる南欧風のイントロに続いて、アーバン・アダルト・コンテンポラリーの雰囲気がジャズ・ヴァイオリンによって醸し出され、軽快な音楽を鳴らしている。それでいて、ここにもイタリアの風を感じる。この曲の舞台は前曲と同じペルージャであるが、ここに吹いているのは、城壁に囲まれた古い街並みではなく、見はるかす彼方まで続く麦畑を渡る西風、“Zefiro”である。物語は続く―

 

“もうどのくらい歩いただろうか… 旅人は、明るい陽射しの中に身を置いて後ろを振り向いた。陽炎の向こう側に、石垣の城門と城壁が小さく揺らめいて見える。気が付けば、ずいぶん遠くまで来たものだ。城壁を過ぎると家々がまばらになり、幾つか村を過ぎて来たらしいことが分かった。今立っているここは、ついこの間まで黄金色に輝いていた麦畑である。既に収穫が終わり、強い陽の光で乾いた白い土があるだけ。旅人は背中の古楽器の重さを感じ、再びそれを膝に抱え、額の汗を拭った。そして、風の神ゼピュロスに捧げる古い唄を奏で始める。その瞬間、神は風となり、旅人の唄をねぎらうかのように優しく舞い降り、旅人の耳に夏の伝説を伝え、その黒く長い髪と戯れる-”

 

 

■パリでの偶然がジャズへの憧憬を抱くきっかけに

 

解説によると、ペルージャは2008年にパリにトランジットで寄る前に、猪子氏がイタリアの音楽祭で演奏をした地である。その後彼女は、偶然立ち寄ったパリにあるスタジオで、ステファン・グラッペリ(※3)と演奏をしたことのある老ピアニストに出逢い、彼に聞いた住所を頼りにグラッペリのアパートを訪れた。また偶然にも、グラッペリへのオマージュをテーマにしたジプシー・ジャズ・フェスティバルのポスターを目にし、その演奏会を聴くために帰国便をも遅らせている。ゆえにこの年は、猪子氏がジャズ・ヴァイオリンへの憧憬を抱くきっかけになった記念すべき年である。

 

「City of the Old Castle(古城散歩)」と「Zefiro(イタリアの風)」には、この年に猪子氏が経験した偶然とも思えないジャズとの様々な出会いが、郷愁にも似た響きで凝縮されているようである。猪子氏のこの体験を、実際に我々は辿ることはできない。しかし、彼女がその記憶を再現すべく演奏するこの二つの曲によって、聴き手はその体験と近く寄り添うことができる。あたかも、異邦人であったはずの猪子氏が、いつの間にかその夏に訪れた土地の人となり、その土地の音楽を奏でているかのような不思議な既視感(デジャ・ヴ=déjà-vu)が、聴き手である我々の心にも憑依するように。これが私の中で語られる、吟遊詩人の古物語の由来なのである。

 

猪子恵 ファーストアルバム「ZEFIRO」より

猪子恵 ファーストアルバム「ZEFIRO」より

 

 

■リリースが楽しみなアルバム

 

ここで取り上げた2曲の他に、このCDにはあと8曲が収録されている。内4曲は猪子氏の作曲である。解説には、“「OMOKAGE」は3年前に亡くなった愛犬を思った曲、「Buff Beauty」は庭に植えている大好きなバラをイメージしました。

 

「Orange」は元気を出して前へ進もう!というイメージの曲、「Snow Day」は雪が降るのを見ながら日々の事を思った曲です。”とある。いずれも猪子氏のたぐい稀な感性がとらえた日常の風景が、巧みなヴァイオリンのリードで音となり、聴き手の心と共鳴する。また、B. Powellの「Parisian Thoroughfare」とG. Gershwinの「Summertime」が、このアルバムに絶妙なアクセントを添えている。全ての曲が有機的に連動し、作用し、初夏の爽やかな風を演出しているかのような、とても佳いアルバムがリリースされる運びとなった。diskunionとAmazonとタワーレコードから発売される予定であるが、ショップに並ぶのが今から楽しみである。

 

 

<アルバム情報>
タイトル名:ZEFIRO(ゼフィロ)
収録曲名:
1: City Of The Old Castle – 古城散歩 – (M.Inoko)
2: Parisian Thoroughfare (B.Powell)
3: Zefiro – イタリアの風 – (M.Inoko)
4: Buff Beauty (M.Inoko)
5: Spain(C.Corea)
6: OMOKAGE – my dear – (M.Inoko)
7: Orange (M.Inoko)
8: Love For Sale(C.Porter)
9: Summertime(G.Gershwin)
10: Snow Day (M.Inoko)
演奏者:猪子恵(violin) 納谷嘉彦(piano) 田口悌治(guitar) 井上陽介(bass) 則武諒(drums)
発売日:5月18日(diskunion, amazon, タワーレコードから販売)
価格:2,500円(消費税込)

 

<関連サイト>
「Megumi INOKO 1st Album  “ZEFIRO”」のページ
diskunionの「ZEFIRO」ページ
amazonの「ZEFIRO」ページ
タワーレコードの「ZEFIRO」ページ
猪子恵ウェブサイト

 

 

<猪子恵 「ZEFIRO」リリース ライブ日程>

 

■6月10日(金)徳島 ギャラリー花杏豆
「ZEFIRO」 「With The Wind」ダブルレコ発ライブ! 猪子恵(Vn)納谷嘉彦(P)×田口悌治(G)桜井ゆみ(Vo) 18:30 食事 19:30 ライブ / 3,500円(食事付き) 徳島県徳島市八万町上長谷81-3 tel:088-668-6465 http://www.hanaanzu.info/

 

■6月11日(土)高松 SO NICE
猪子恵(Vn)納谷嘉彦(P) OPEN 19:30 / START 20:00 MC 3,000円 香川県高松市丸亀町9-7杉山ビル2F T: 087-873-2117

 

■6月12日(日)徳島 SWING
猪子恵(Vn)納谷嘉彦(P)日景修(B)則武諒(D) OPEN 18:30 / START 19:00 MC 3,500円 徳島市秋田町2丁目 木村ビル2階 TEL 088-622-9669

 

■6月30日(木)三軒茶屋 Whisper
猪子恵(Vn)納谷嘉彦(P)田口悌治(G)井上陽介(B)則武諒(D) OPEN 19:00 / START 19:30 MC 3,500円 世田谷区若林 1-8-8 デンス河野 B1 Tel. 03-5787-5794 http://whisper.co.jp/whisper/index.html

 

■7月1日(金)六本木 Softwind
猪子恵(Vn)納谷嘉彦(P)田口悌治(G) OPEN 19:00 / START 20:00 MC 3,000円 港区六本木4-10-8 六本木パーレットビル6F TEL. 03-6808-7337 http://softwind.jp/

 

 

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■猪子氏のインターディシプリナリーな演奏活動

 

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<筆者プロフィール>Koichi Kagawa/1961年徳島市生まれ。慶應義塾大学法学部、並びに、カリフォルニア大学バークレー校大学院卒業。経営学修士(MBA)。1983年大学卒業と同時にシティバンク東京支店に入行。以後、今日まで複数の欧米金融機関でCOO等要職を歴任。現在、某大手外資系金融機関に勤務。幼少期からクラシックからジャズ、古典芸能、果ては仏教の声明に至るまで、幅広い分野の音楽に親しみ、作曲家とその作品を取り巻く歴史的・文化的背景などを通じ、「五感で感じる音楽」をモットーに音楽を多方面から考え続けている。 ⇒Koichi Kagawaさんの記事一覧はこちら

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