「歴史的事実をゆがめたり、美化したりした文脈がある」「集団的自衛権の行使についても『憲法上許される』とする記述に多くのスペースを割いている」などとして採択の撤回を求める動きなどが各地で起きている「育鵬社」の中学校歴史教科書と公民教科書。この教科書は、どのような内容なのか。このたび神戸市内で開かれた第61回日本母親大会・第4分科会の「教科書はどう変えられる? -検定や採択のもんだい、道徳の『教科書』など」から、教科書をとりまく状況についてレポートします。
「教科書はどう変えられる?」で助言者として参加したのは、日本出版労働組合連合会・大阪地域協議会事務局長で「子どもと教科書大阪ネット21」の永石幸司さんです。
第61回日本母親大会in兵庫は、2015年8月1日に神戸国際展示場で全体会が開かれ、翌2日には神戸国際展示場、神戸国際会議場、神戸市外国語大学で計36のテーマに分かれての分科会が行われました。第4分科会「教科書はどう変えられる? -検定や採択のもんだい、道徳の『教科書』など」の会場となった神戸市外国語大学内の教室は、椅子と机をびっしりと並べたものの入場希望者が入りきれず、教室内の通路をほとんどふさぐ形で椅子を追加する熱気の中で開かれました。
当日は、まず安倍政権が進める教育「再生」の狙いや憲法「改正」の動きと教科書の関係が説明され、新たに導入された「一発不合格」の仕組みによって教科書会社に自主規制をさせる効果などについての説明がありました(これについては、この記事の後半のアイデアニュース有料会員向け部分で詳しく説明します)。
その後、「育鵬社」の中学校の歴史教科書と、中学校の公民教科書について、資料にもとづいて解説が行われました。
こちらが育鵬社の中学校歴史教科書です。 サッカー日本女子代表の愛称「なでしこジャパン」を意識したような「なでしこ日本史」というコーナーがありますが……。
「清らかで美しい日本の女性のことを『大和撫子(やまとなでしこ)』といいます」と、ひげのおじいさんが吹き出しで語っています。
第二次世界大戦・太平洋戦争については「わが国は、この戦争を『自存自衛』の戦争としたうえで、大東亜戦争(だいとうあせんそう)と名づけました(戦後は太平洋戦争とよばれるようになりました)」と紹介されています。
日本国憲法は「GHQの意向に反対の声をあげることができず、ほとんど無修正のまま採択されました」と説明しています。
育鵬社の中学校公民教科書には、安倍首相の写真が15枚も出ており、平均して14ページに1枚出てくることになります。
憲法は「社会の秩序を混乱させたり社会全体の利益をそこなわないように戒めています」と説明しています。
「憲法改正のしくみ」と題されたコーナーでは、世論調査の結果などが紹介されています。ここで紹介されている2013年4月20日の読売新聞全国世論調査では、憲法を「改正する方がよい」と答えた人は51%で、「改正しない方がよい」は31%でした。ちなみに、2015年5月1日の朝日新聞世論調査では、憲法を「変える必要はない」が48%で、「変える必要がある」は43%でした。
「教科書はどう変えられる? -検定や採択のもんだい 道徳の『教科書』など-」に取材のため参加した筆者が一番違和感をもったのは、育鵬社公民教科書の中の男女の違いについて書かれた部分でした。
「いわゆる性別役割分業は、『男は仕事に出て、女は家庭を守る』という役割分担のしかたをさします。女性の社会進出が進むにつれ、そのような役割分担は批判されるようになりました」と書かれています。まるで女性の社会進出は良くないことのような書き方です。
永石さんは「教科書の中に書いてあることは、それぞれの会社、編集者、著者がどんな本を作ってゆくかということで決めるもの。国が学習指導要領という大綱的なものを出していて、それに肉付けするような形で教科書会社が配列だとか、ここは詳しく、ここは軽くなどして作ってゆくもので、記述そのものはその会社の判断でやっていることです。ですから他の会社のことなので私がどうこできるわけではありませんが、現場でこういうものが採択されないというこになれば淘汰されていって記述も変えざるを得ないということになると思います。今年、採択がワッと増えれば彼らはますますやってくると思いますが、また4年後もありますし、その間、何もしないのではなくて、運動をやってゆく必要があると思います」と話しました。
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