安保法制で世界と日本は平和になるか? 高遠菜穂子さん講演会レポート | アイデアニュース

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安保法制で世界と日本は平和になるか? 高遠菜穂子さん講演会レポート

筆者: 松中みどり 更新日: 2015年8月15日

 

2015年8月8日、イラク支援ボランティア・エイドワーカー高遠菜穂子さんの緊急報告会「安保法制で世界と日本は平和になるか」がありました。その様子をレポートします。講演会は、社会人から学生、研究者、NPO ・運動団体関係者など多種多様な個人の社会学習ネットワーク「市民社会フォーラム」が主催。第157回学習会として、神戸にある元町映画館2階で行われました。告知期間が短かったにも関わらず、45名の市民が集まって熱心に話を聴きました。

 

「安保法制で世界と日本は平和になるか」より=2015年8月8日、撮影・松中みどり

「安保法制で世界と日本は平和になるか」より=2015年8月8日、撮影・松中みどり

 

高遠菜穂子さんは、講演会や様々なメディアを通して最新のイラクの情勢を伝えるとともに、現在参議院で審議中の「安全保障関連法案」に関しても積極的に訴えを続けています。

 

講演の最初に見たのは「Collateral Murder 付随的殺人」と題された映像です。2010年にウイキリークスによって暴露されたこの映像は、米軍がイラクで、ロイター通信の記者が持っていたカメラを武器と間違えて、アパッチヘリから民間人を攻撃するところをとらえたものです。子どもとジャーナリストを含む民間人が殺傷される瞬間を、アパッチヘリのカメラが記録していました。この時に、米兵として地上にいた3名のうちのひとりであったイーサン・マコード氏は証言しています。「これが、イラクでの日常だった」

 

Wikileaksの「Collateral Murder 付随的殺人」より=撮影・松中みどり

Wikileaksの「Collateral Murder 付随的殺人」より=撮影・松中みどり

 

もちろん、イラクにおいても、交戦規定にしたがって米兵は「民間人を撃ってはいけない」はずでした。「武器を持っている」から撃っていいというはずだったのが、だんだんと、「携帯電話を持っている」から撃っていい、「集団で歩いている」から撃っていい、「女性も罠かもしれない」から撃っていい、という状態になってしまった。それが、「対テロ戦争」の現実なのです。どこから、誰に攻撃されるか分からないという恐怖が、兵士たちをむしばんでいきます。そして子どもたちも巻き添えになっていくのです。

 

元米兵のイーサン・マコード氏は車の中で、内臓が飛び出し、体中にガラスが突き刺さった状態の4歳くらいの女の子を見つけます。その子をなんとか助けようと抱え上げて走る姿も、アパッチヘリのカメラがとらえています。もうひとり7歳くらいの男の子も虫の息でしたが、まだ動いていました。マコード氏はその子も抱きあげて、もう一度走ります。しかし、上官はそんな子どものことで時間を無駄にするなと彼を叱りつけます。戦場に子どもを連れてくる方が悪いと。マコード氏は、優秀な兵士としていったんは「分かりました」と言いますが、感情は抑えられません。戦場にいる兵士が最もやってはいけないことをしてしまいました。抱いて走った子どもの血が制服に染みつき、自身も息子と娘がいる彼の心は、「人間性と、すべての人間に対する愛」でいっぱいになってしまったのです。もう彼は、”全方位360度、動くものはなんでも撃て、撃たれる前に撃て”、というタイプの戦争を担うことが出来ません。アメリカに帰った彼は、今PTSDに苦しんでいます。

 

菜穂子さんは、「今日はこの映像から始めたので、ここ数年ずっと気になっていることから話をします。兵士のトラウマについてです」 と語り始めました。曲がりなりにも退役軍人省があり、兵士のための専門病院があるアメリカと比べて、日本はなんの準備も出来ていないのではないか。万が一、自衛隊員が対テロ戦争の現場に駆り出されることがあったら、2004年のイラク派遣の時よりも、広範囲な役割を担うことになる彼らが心に傷を負う可能性は高い。安保法案は通ってほしくないが、自衛隊員のPTSDに対応できる受け皿が、日本にはどこにもないことがとても気にかかっていると菜穂子さんは言います。戦争の現場を見てきた彼女の目には、今の日本がそういうところまで来ているとはっきり見えているのでしょう。

 

アメリカの受け入れも万全ではありません。イラクやアフガニスタンのような対テロ戦争を経験してトラウマを負った兵士たちは、帰還兵のための病院で余計に傷つくことがあるのだそうです。「アメリカの行っている正しい戦争を戦ったあなたは悪くない。あなたは名誉ある兵士なんですよ」とカウンセリングをするところでは、兵士の症状はかえって悪化してしまうといいます。大義のない戦争、成果が上がらない戦争、テロを拡散してかえって世界を危険にしてしまった戦争を担ったことでトラウマを負っている兵士には「良心の傷 moral injury 」という新しい診断名があるのだそうです。

 

「安保法制で世界と日本は平和になるか」より=撮影・松中みどり

「安保法制で世界と日本は平和になるか」より=撮影・松中みどり

 

菜穂子さんは、「北朝鮮や中国の脅威などが言われているが、現実問題として、自衛隊が駆り出されるとしたら、中東か北アフリカだと思う」と言います。共和党の次期米大統領候補ジェブ・ブッシュ氏から「イラクに地上部隊を出したい」というような発言がある中、やはりアメリカの同盟国には、イラクへお呼びがかかるのではないか。菜穂子さんは、”イスラム国:IS”問題とイラクの現状をこう語りました。

 

「残念ながら、イラクやシリアで何千回も空爆がおこなわれても、現状は良くなっていません。逆にイラクなどは、いったいどうするの?というくらいひどくなっている」

 

菜穂子さんには、2003年のイラク戦争で旧イラク軍兵士だった、仲の良いイラク人がいます。アメリカとの戦闘中に友人を失い、自分も怪我を負って、心身ともに深く傷ついていました。最初は、人道支援をしている菜穂子さんたちに反発もしていたのですが、酷い現場に案内をしてくれて、通訳をしてくれた戦友のような仲間です。長い時間をかけて一緒に人道支援の仕事をし、菜穂子さんと議論をしているうちに彼はこう言ったそうです。

 

「人を助けるためには両手を空けておかないといけないね」

 

武器を持たないと人を助けることは出来ないと思っていた元兵士のこの言葉は、菜穂子さんたちのやっていることを理解したという証しなのでしょう。そんな彼は、結婚して子供も生まれていますが、住んでいたラマディを出て避難民になっています。2015年5月、イラク西部アンバル州の州都ラマディはISに完全に掌握されました。でも、実は彼は、その前からラマディを出ていたのだそうです。

 

「安保法制で世界と日本は平和になるか」より、ラマディからバクダットに避難する人々の写真=撮影・松中みどり

「安保法制で世界と日本は平和になるか」より、ラマディからバクダットに避難する人々の写真=撮影・松中みどり

 

「ラマディは去年から空爆がすごかったんです。イラク軍も、‟対テロ”だ!ということで、ラマディを空爆しました。民間人の被害も大量に出ています。去年の1月から8月はイラク政府軍単独で、8月以降は有志連合も加わって、二段構えで空爆されました。有志連合は、空爆による民間人の被害は2人しか出していないと言っていますが、エアーウオーズというNGOは、イラクとシリアを合わせて600人くらいの民間人が、有志連合の空爆によって死んでいると報告しています」

 

それでも菜穂子さんの友人は、ラマディに戻りたいと言っているのだそうです。「ISもやばいでしょ?」と聞く菜穂子さんに、「ISの方がましだ」。ISは恐怖政治だけれど、黙っていれば無差別に空爆で殺されることはないから、政府軍よりISの方がましだというのです。現在バクダットにいる彼は、宗派対立の激化で、ここにも長くはいられないと話しているそうです。あまりに過酷なシーア派政権の暴力に耐え兼ね、そこからの解放を謳うISの方がまだましだと思ってしまうスンニ派の人々。「対テロ」の名のもと、スンニ派を迫害し続けてきたイラク政府の暴虐さが、ISのような過激派の勢力を拡大させました。今もシーア対スンニの宗派対立は混迷の度を深めるばかりです。

 

もちろん、ISの支配は凄まじい恐怖政治です。たとえば、イラク第二の都市モスル。イラク政府があらゆるところに作った検問所や、拷問を伴う尋問のやりかたに辟易していたモスルの住民は、シーア派主導の政府軍の撤退に安堵します。ISによって検問所やコンクリート壁がすべて撤去されたことで、「道路ってこんなに広かったんだ」と子どもたちがサッカーを始めたくらいだったのが、1ヵ月ほど経つと、ISの独自解釈によるイスラム教の厳しい戒律を押し付けられました。

 

たとえば、女性はニカーブ(目以外すべてを覆う民族衣装)着用、女性の職業は教師か医師に限る、たとえニカーブを着用していても女性が外食をしていたら、その夫を公開でむち打ち。IS支配下の場所では、住民は常に所在を明らかにしておかなければ、「暗殺予告」通知を受け取る。電話が通じない、インターネットも内容をチェックされて、モスルの様子を外部に漏らしたことが分かると処刑される。モスルにある大学は、ISの思想を徹底させるように教育システムを作り替える準備をすすめている……ISは本気でモスルで、”イスラム国”の国造りをしようとしているようです。100万人以上残っているモスルの住民たちは、「イスラム国」の首都が、シリアのラッカではなくモスルになるのではないかと恐れています。

 

そんな状況でもなお、「ISの方がまし」「ラマディに戻りたい」という言葉が出てくるとしたら、イラクの状況は私たちが日本にいて想像するよりも、ずっと複雑で過酷だということが分かります。そこで支援活動を続けている高遠菜穂子さんが、今回の安保法制には早くから強い危機感を訴えていることを、私たちはきちんと受け止め、学んでいかないといけないと思います。

 

「安保法制で世界と日本は平和になるか」より、支援活動のトラックに貼られているバナーにJapanの文字は入っていても日の丸はついていない=撮影・松中みどり

「安保法制で世界と日本は平和になるか」より、支援活動のトラックに貼られているバナーにJapanの文字は入っていても日の丸はついていない=撮影・松中みどり

 

海外では、私たちが思う以上に日本の首相の発言が重く受けとられ、国のイメージとなって拡散していきます。安倍首相が武器輸出三原則の緩和を閣議決定したニュース。菜穂子さんはこう言います。「空爆をされる側は、転がっている爆弾の破片などを必ず見ています。これはどこ製の爆弾なのか、アメリカかロシアか、すごく見るんです」 こういう視点は、現場を知る人にしかないものだと思います。武器は、輸出しただけで終わるのではない、どこで使われ誰を殺傷したのか。武器を使われた側は、決して忘れない。武器を作った国にも恨みを抱くのはあたりまえではないでしょうか?

 

安保法案の強行採決のニュースは、海外でははっきりと「第二次世界大戦以来、日本が海外で初めて戦闘できる法案」と報道されていました。日本は「安全保障」だ、「平和」だとごまかしても、海外のニュースでそう報道されると、日本のイメージはそういうものになる。菜穂子さんがずっと訴えている日本が”情報鎖国”だというのは、例えばこういうところに現れているのです。日本語のニュースだけでは足りない。世界が日本をどう見ているのかをもっと知ってほしい。菜穂子さんが繰り返し、様々な場面で伝えていることのひとつです。

 

「安保法制で世界と日本は平和になるか」より=撮影・松中みどり

「安保法制で世界と日本は平和になるか」より=撮影・松中みどり

 

 

2004年、イラクで人質となった菜穂子さんは、まず国籍を確認されて、「日本政府のスパイか、自衛隊のスパイか」と問われています。人道支援を続けるときにも、「非政府です」、「日本の国とは関係ない」と言わないと信頼してもらえなかったという現実があり、しばらく日本からの支援活動は大変苦労したそうです。自衛隊がイラクにいたからです。自衛隊が”復興支援活動”を終えてから雰囲気がよくなり、日本からの支援であることを明らかにして、喜んでもらえていたところに、この安保法制の登場なのです。菜穂子さんの現場のスタッフには、「Japanの文字が、あなた方を危険にするなら、遠慮なく外してほしい」と伝えているそうです。実際に働いている人たちが、すでに身をもって感じている不安や恐怖。日本人を守るための法案だと話す政治家にこそ、しっかりと聴いてもらいたい講演でした。日本の日の丸を背負った兵士がいることこそが、日本人の安全を脅かすのです。米軍と行動を共にすることこそが、外交官を含め日本人が攻撃を受ける確率をあげるのです。

 

自衛隊が派遣されることで、自衛隊員だけではなく、一般の日本人のリスクもあがる。それはイラクで人質になった菜穂子さんの目からみればとっくの昔にわかっていたことです。講演の最初に見た米兵の証言のように、大義もなく、なんの成果もあげられない、かえって自国民を危険にさらすことになった戦争に、本当に日本は参加できるようになりたいのか。しかも、世界の状況を見ずに、十分な情報もないままで議論をしている今の日本の様子は、本当に危うい。改めてそう思います。「英語が苦手でも、画像だけでもいいから、海外のニュースをチェックしてください。完全なメディアなんかないから、複数のメディアをチェックして、いろんな見方を学んでほしい。日本の中で手に入る情報では、本当に、全然足りません」 菜穂子さんの言葉にあらためて深くうなずきました。私が出来ることとして、アイデアニュースでこれからも海外のニュースを紹介していきたいと思います。

 

 

<アイデアニュース高遠菜穂子さん関係記事>

 

安保法制で世界と日本は平和になるか? 高遠菜穂子さん講演会レポート
https://ideanews.jp/archives/7671

 

映画「ファルージャ」上映と、高遠菜穂子さん講演会レポート
https://ideanews.jp/archives/3440

 

 

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<アイデアニュース関連記事>

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<アイデアニュース有料会員向け【おまけ的小文】>

 

講演会の最後に菜穂子さんが参加者に問いかけた質問は、「安保法案を廃案にできたら、今後日本はどうあるべきなんでしょうか?」(松中みどり)

 

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<筆者プロフィール>松中みどり(まつなか・みどり) フィリピン支援ボランティア/英語講師/ライター 初めて行った外国がフィリピンで、以来かの国の人々の明るさ温かさに魅せられ、様々なNGOや支援活動に関わる。1994年からは山岳先住民アエタの教育支援主宰。コミュニケーションツールとしての英語を各地で教えている。動物好きの自称「ケモノバカ」。飼い猫は黒猫で親バカ度も加速中。 ⇒松中みどりさんの記事一覧はこちら

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